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2019年6月号

  • 老健施設でも減薬推進‐ マンパワー不足、工夫で補う

    薬剤師のマンパワーが不足している介護老人保健施設でも、薬剤師の様々な取り組みや工夫によって入所者の減薬を達成できることが、名古屋市で開かれた日本老年薬学会学術大会のシンポジウムで強調された。入所前に服用薬を把握して評価し、入所時にすぐ減薬を医師に提案できる体制を構築したり、医師の回診に同行して減薬を促している事例などが示された。

     
    ■老健施設には医師が常駐しており、薬剤費も包括払いとなるため、減薬や医薬品の切り替えを進めやすい環境にある。しかし、老健施設の薬剤師配置基準は法律で入所者300人当たり1人と規定されており、入所者数100人程度の老健施設では常勤薬剤師を設置できていないケースが多い。マンパワー不足によって薬剤師が減薬に関与しづらいのが現状だ。
    そうした中でも工夫や取り組み次第では減薬につながる。主に病院薬剤師として勤務しつつ、グループ内の老健の薬剤管理も担当している早乙女彩子氏(常磐病院、小名浜ときわ苑)は「入所する前に、入所前薬剤調査表を作成し、それをもとに処方提案や処方見直しを行っている」と工夫を語った。

     
    ■入所前薬剤調査表は、入所前の内服薬、薬剤師の処方提案、医師の指示を一覧表にまとめたもの。相談員が現在の内服薬を記載し、薬剤師がそれに基づく医師への処方提案を記載。提案をもとに医師が継続、中止、頓用の指示を記載し、入所後の薬物療法計画として活用している。

     

    ■処方提案を行う上で薬剤師は、既往歴、検査値、入院や在宅時の状況を確認。必要に応じて前処方医や薬局薬剤師にも問い合わせを行い、現状や問題点の把握に努めている。抗認知症薬は原則、家族の意向も踏まえた上で中止を提案する。鎮痛薬や睡眠薬は、頓用への切り替えを提案することが多いという。

     

    ■昨年4月から12月までの新規入所者61人中、対象者48人に薬剤師が介入した結果、薬剤数は入所前の平均7.0剤から入所後には4.1剤に減少した。6剤以上服用していた入所者は全体の60.4%を占めていたが、介入後には33.3%に減った。入所者1人当たりの1カ月の平均薬剤費は介入前の1万2871円から、介入後は2576円に減少した。

     

    ■早乙女氏は「入所前薬剤調査表を活用した薬剤の適正使用により、処方数、薬剤費の減少を認めた」と報告。「老健施設においても薬剤師の介入が必要。多職種と連携し安全な医療を提供しなければならない」と呼びかけた。

     

    ■大洗海岸病院の新井克明氏は、医師の回診に同行した成果を発表した。同院の薬剤師は、グループ内の老健施設(100床)が開設された約15年前から回診に同行し、減薬などを提案している。新井氏が提案してから6カ月後までの予後を追跡したところ、「多くの患者で減薬はそのまま維持されていた。実際に薬剤費を削減できた額は半年間で約140万円に達する」とした。一方、小澤洋子氏(医療法人医誠会)は、老健施設への専任薬剤師配置の取り組みを報告した。医誠会は14年から、グループ内老健施設への専任薬剤師の配置を開始。現在は薬剤師5人で、6施設計722床を担当している。

     

    ■各施設で、医師や看護師と連携する体制を整備したり、薬剤の使用状況を可視化するシステムを作ったりして、減薬を推進。6剤以下の利用者を90%以上にするという数値目標を掲げ、2年間で達成した。その次には5剤以下の入所者を85%以上にするという目標を設定し、現在5施設が達成している。こうした取り組みの結果、14年度に4575万円だった6施設の合計年間薬剤費は、18年度には2699万円に減少した。小澤氏は「老健施設には隠れている危険性がたくさんあることが、この5年間で分かった。老健施設への薬剤師配置基準の強化を訴えたい」と語った。

  • 介護病棟で薬剤費4割減‐薬剤師常駐、副作用も防止

    介護療養病棟でも、薬剤師が常駐して薬物療法の適正化に取り組めば減薬につながることが、総合相模更生病院(相模原市、225床)の研究で明らかになった。2017年6月から常駐を開始したところ、患者1人当たりの投与薬剤数は介入前の平均7.2剤から、介入後は平均5.1剤へと減少。薬剤費も介入前に比べて39.6%減った。介護療養病床は、国の施策で23年度末の廃止が予定されており、今後介護医療院への転換が進むと見られる。今回のエビデンスは、介護医療院でも薬剤師が手厚く介入できる環境を整備すれば薬物療法を適正化できることを示している。

     

    ■介護療養病床は、介護保険が適応される療養病床。長期にわたって漫然と薬が使用されている患者が少なくないが、薬剤師は十分に関与できていないのが現状だ。薬剤管理指導業務の報酬は介護保険で算定できるが、病棟薬剤業務実施加算は算定できないことに加え、マンパワー不足もあって、介護療養病棟に薬剤師が常駐している病院は少ないと見られる。

     

    ■同院は、一般病棟168床(地域包括ケア病棟44床)、介護療養病棟57床を有するケアミックス病院。一般病棟で薬剤師の常駐が始まったことを受け、介護療養病棟でも薬剤師の常駐を求める声が院内で高まり、17年6月から常駐が始まった。

     

    ■常駐前、薬剤師は同病棟の入院患者に対して、調剤時に処方箋を見て判断できる範囲での疑義照会を行うだけだった。常駐後、薬剤師はベッドサイドに足を運んだりして、患者の服用薬、服薬期間、服薬理由などを詳しく把握。「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン」を参考に不必要な薬剤を評価し、服用薬の削除や減量などを主治医に提案するようになった。

     

    ■17年6月から18年3月まで同病棟で薬剤師が介入した患者58人を対象に、その効果を調べたところ、患者1人当たりの投与薬剤数は介入前の平均7. 2剤から、介入後は平均5.1剤へと2.1剤減少した。合計年間薬剤費も、介入前の約684万円から介入後は約413万円へと約4割減った。

     

    ■処方変更件数は合計131件。119件(90.8%)は削除、12件(9.2%)は減量だった。薬効別では、消化性潰瘍治療薬の削減が最も多く、鎮咳去痰薬、抗菌薬が続いた。処方変更の提案理由は「症状改善」74件(56.5%)、「処方意図不明」23件(17. 6%)、「副作用」17件(13. 0%)、「効果不十分」5件(3.8%)などだった。

     

    ■副作用事例17件の内訳は「センノシドや酸化マグネシウムによる下痢」6件、「ジアゼパムやプロクロルペラジンによる傾眠」2件、「アムロジピン、エナラプリルによる血圧低下」2件、「ジスチグミンによるコリンエステラーゼ低下」1件、「アムロジピンによる房室ブロック」1件など。薬剤師が患者モニタリングを実施したり、医師に検査を依頼したりして副作用を発見した。

     

    ■同院薬剤部の矢倉尚幸氏は「減薬によって薬物有害事象発生のリスクを減らすことができた。介護病棟への薬剤師常駐は、医療経済面や薬物治療の安全性の面でも有用」と語る。同病棟の薬剤費は包括払いのため、減薬は病院経営にも貢献できるという。全国的に今後、介護療養病棟は介護医療院への転換が進む見通しだ。今回の結果は、介護医療院においても薬剤師を常駐させることの効果を示すエビデンスの一つになると見られる。