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視点を持って業界を読み解く。調剤Scope

抗がん剤混合調製、
ロボット化という選択肢。東京大学大学院との共同研究からの考察

(医療薬学 2012 Vol.38, No.7)

約3/4の薬剤師が、【不安】を抱いている現実

日常的に抗がん剤の調製に従事している薬剤師が、抗がん剤に曝露することに対して不安を抱いているという定性的な情報は以前からよく耳にしていた。この事を全国規模の調査で初めて数値をもって明らかにした調査が2011年初頭に、東京大学大学院薬学系研究科とユヤマの共同研究として行われている(ランダム抽出した2000病院の薬剤部長宛にアンケート送付、その内、有効回答は1073病院)。

その結果は円グラフ(図1)に示すように、抗がん剤調製を実施していると回答を寄せた360施設において73.1%、実に約3/4の施設から調製に対する【不安】を抱いているというものだった。実際に抗がん剤を調製しているこれだけ多くの薬剤師が【不安】を抱いているという事実が、医療関係者及びユヤマのような調剤機器メーカーにも重い意味を持つデータとして突き付けられた格好だ。

図1

抗がん剤の調製業務、今や約8割の施設で薬剤師

ところで、どの程度の病院で薬剤師が抗がん剤を調製を行っているのだろうか?その答えはこうだ。約8割。要するに大半の病院では、抗がん剤調製業務は薬剤師が行う仕事になっている。入院患者においても、最近増えつつある外来での抗がん剤治療においても、ほぼ8割の病院で薬剤師が調製を行っている(図2)。
薬剤師による病棟業務が声高に叫ばれ、随分とその業務範囲が拡張しつつある様相を証明する結果となった。一昔前ならば、ナースステーションで看護師が調製しているシーンを目にすることも多々あったと言われるが、それも過去の事になりつつあるというのが実態のようだ。

図2

安全キャビネット調製施設における導入率は?

これだけ多くの病院で薬剤師が行い、その約3/4が【不安】を抱いているという抗がん剤の調製業務。真っ先にその導入が検討されるであろうBSC(安全キャビネット)の導入率はどの程度なのだろうか?
実は既に抗がん剤調製を行っている前出の360病院においては、約3/4でBSC(安全キャビネット)は導入されていた(図3)。しかも、その割合は調製業務を【不安】に感じている薬剤師とほぼ同率という結果。果たしてこれは何を意味するのか。

図3

最も多い回答は、作業環境に関する【不安】

少なく見積もっても抗がん剤調製に不安を抱いている薬剤師のうち2/3程度はBSC(安全キャビネット)を用いながらも不安が解消していないと言えることになる。
それを裏付けるかのように、不安の内容を問う設問に対して72.6%もの薬剤師が「作業環境が不安」と答えている(図4)。同調査の別データによれば、グローブ・マスク・ガウンは90%以上の装着率(最大値はグローブで98.6%)となっている。BSC×防護ツール着用でも安心し切れていない実態が浮き彫りにされた。

図4

誰が行うべきか?抗がん剤の調製業務

胎児の催奇形性や発ガンリスクなど、危険性が認められている抗がん剤。その調製により常時曝露リスクに晒される環境と、どの程度の曝露でリスクが顕在化するのか確固たるエビデンスが無い状況下、抗がん剤調製のロボット化は検討の余地が十二分にあると言えそうだ。

(文責:2014年5月 森 和明 ㈱ユヤマ 営業企画部部長)