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視点を持って業界を読み解く。調剤Scope

健康ナビステーションに
向けて vol.1~薬局の待合室をどう活用するか~

厚生労働省は、2015年度予算概算要求に、薬局・薬剤師を活用した健康情報拠点「健康ナビステーション(仮称)」の整備にむけてその基準作りを検討する経費を計上したと報道されました。
超高齢社会へと突入したわが国で、医療費の適正化を進めるために種々の施策が打ち出されていますが、従来の医療機関から在宅・介護施設への患者のシフトに加え、セルフメディケーションの推進や予防医療への取り組み強化なども、今後、推進されていくと思われます。
ただ、ちょっと話が複雑になっているのも事実。ここは、ちょっと原点に立ち返って、薬局の待合室ということを考えてみたいと思います。

待ち時間は短い方が良い!?

保険調剤業務における「待ち時間」のとらえ方は、善か悪かということでいえば、やはり悪という観点で語られることが多かったように思います。顧客満足度を上げるために、できるだけ待ち時間を短くするとともに、ソファや雑誌、テレビなどを備えて、いわゆる「アメニティ」を向上させるという取り組みが広く行われてきました。
この10年ほどは、調剤機器の発達により多くの作業は機械化されてきましたし、昨今では、処方箋をスマートフォンで取り込んで薬局へ事前に送信し、待ち時間を極端に短縮するアプリなども多数開発されており、「待ち時間」はさらに短縮の方向に向かっているように思います。しかし、です。薬局での待ち時間を限りなくゼロに近づけることが、本当に大切なことなのでしょうか。

薬局はどういう場所か?

私はこの議論は、薬局が結局どういう場所だと捉えるか?によって結論は違う方向に行ってしまうのではないかと考えています。
もし、薬局がお薬の受け渡し場所で、お薬の内容や使用上の注意について説明を受けるのみの場所であるならば、おそらく、待ち時間はゼロにするのが顧客満足度を高めることになるでしょう。そして、従来の「待ち時間対策」の流れは、まさにその方向に進んでいるのだと思います。

しかし、薬局は果たしてそれだけの場所なのでしょうか?これは、薬剤師の視点から考えてみるとよいかも知れません。もし、薬局がお薬の受け渡し場所のみの場所なのであれば、薬剤師はそのためだけの係員ということになります。薬学教育が6年制へと移行し、地域医療の中で、本当に活躍できる臨床家を目指す方向とは、大きく異なるイメージにならないでしょうか?「待ち時間ゼロ」というのは、患者さんの「薬局滞在時間ゼロ」を目指すこととイコールになるわけですが、そのような状況を望む薬剤師は決して多くないと思います。

患者さんが本当に手に入れたいもの

ところで、薬局に訪れる患者さんは何を手に入れたいと思っているのでしょうか?薬でしょうか?それとも健康でしょうか?患者さんが本当に欲しているものは、薬というモノなのでしょうか、それとも痛みからの解放なのでしょうか?
当然、後者であるはずです。今、薬局や薬剤師にまつわるジレンマは、この部分のちょっとした意識のずれにあるのではないかと思っています。

すなわち、薬剤師が提供するものが薬というモノでしかないならば、おそらく「待ち時間ゼロ」、「薬局滞在時間ゼロ」が命題となります。しかし、薬剤師が患者さんに提供したいものは、薬ではなく健康、痛みからの解放のはずです。痛み止めを処方箋に従って調剤したあと、本当に痛みが取れたかどうかを薬剤師も確認すれば、効果が無いときの理由や頓服薬の使うタイミングなどで薬剤師としての専門性が活かせる分野が自ずと見えてくるはずです。

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【待ち時間】から【知る時間】へ

薬剤師が健康を提供する人、苦痛からの解放をサポートしてくれる人であれば、薬局も、薬を渡すだけの場所ではなく、健康を提供する場所、健康に関する問題点を解決してくれる場所ということになります。そしてこのことは、冒頭申し上げた「健康ナビステーション」という概念そのものになるのではないでしょうか?
毎日、家事に仕事に忙しい患者さんは、医師の診察を受けますが、その際には、やはり自分の健康状態や病気の治療経過について向きあう時間となります。その診察のあと、処方箋を持って行った薬局でも、同じマインドが保たれているわけです。
そんな薬局の待合で、もし、自分の病気に関する最新の、また、詳しい情報が得られれば、患者さんが薬局で過ごす時間は、単に薬を待つだけの時間ではなく、自分の疾病や治療について、患者さん自らが知る時間へと変わります。
そもそも、診察でも、服薬指導でも、少なからず慌ただしい時間の中で行われます。患者さんが聞くべきことが聞きづらかったり、私たち医師や薬剤師も言うべきことを十分に説明できなかったりということは、決して少なくありません。
そんなときに、医療機関もさることながら、薬局での【待ち時間】を【知る時間】に変えることには、大きな意味があるのではないでしょうか?

待合室を【知る時間】に変えるには?

情報を提供するのに、文章より画像、画像より動画の方が、やはりわかりやすいと思います。待合室にテレビを置くことは昔からされていましたが、それは、言ってみれば小さな窓を設置するようなもので、風景を見るように患者さん達はぼんやりとそれを眺め、ただ、時間が過ぎるのを待っていることが多いのです。
そんなテレビの画面に、もし、自分や家族が悩んでいる健康や医療に関わるテーマについて情報が流れてくれば、患者さんにとって、待合室での時間は単に待つ時間ではなくなり、健康に関する情報を得られる貴重な時間へと変貌します。
薬局での時間の流れが変われば、調剤室の時間の流れも変わり、調剤業務のクォリティを保つことにもつながり、薬物治療の適正化にもきっと良い影響を及ぼしていくはずです。
薬局の【待ち時間】を【知る時間】へと変える。このことこそ、健康ナビステーションとしての薬局の実現に向けたポイントなのかも知れません。

狭間 研至 医師/㈱ファルメディコ 代表取締役社長

(文責:2014年9月 狭間 研至 医師/㈱ファルメディコ 代表取締役社長)