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視点を持って業界を読み解く。調剤Scope

在宅医療に残された
最後のワンピース。薬剤師の参画が医療の質と
コストに貢献する

㈳日本在宅薬学会 理事長 狭間 研至

数ある予測の中で最も的中率の高いが人口動態。今後の医師数も合せて考えると、2000年対比で2025~30年頃には、医師一人当り院外死亡者数は約4倍にも膨れ上がりそうだ。医療消費量の急増への対策は待ったなし。その為の秘策を狭間研至先生にうかがった(ユヤマ 森)

少子高齢化の進展と医療現場に与える影響

少子化と高齢化が同時に進行するわが国で、国民皆保険制度を堅持しつつ世界最高長寿も同時に達成していくためには、今までとは異なる考え方や取り組みが必要である。
すなわち、外来で医師が月に1-2回は診察しながら患者の状態を確認し薬物治療を行いながら、状態が悪くなったり異常が見られたりした場合には、医療機関へきちんと紹介してそこで種々の検査を施行し、場合によっては入院加療も積極的に考えるということは、基本的に難しくなってきたということだ。

これらは、いくつかの要因が複雑に絡み合って見られている現象だと感じているが、大きくは以下の3つによるものではないかと考えている。
まず1つは、高齢化によるものである。加齢にともなう肉体的・精神的変化は誰にでも見られるものであるが、高齢化率が25%を超えてきた我が国で、単独で医療機関へ通院することができる患者数は、今後の人口減も相まって、急速に減少することが見込まれているし、その傾向はすでに明らかになってきている。

もう1つは、医療費の適正化を実現するために、医療機関から在宅・介護施設へと医療の現場が移って行っていることである。高齢者の長期入院が難しくなり施設での療養が増えてきているだけでなく、がんに対する放射線療法や化学療法も基本は外来治療に移行してきているし、手術そのものも低侵襲化が進んでいることもあり術後数日で退院、その後は外来で経過観察に入ることも増えてきた。

高齢者の長期入院が難しくなり施設での療養が増えてきているだけでなく、がんに対する放射線療法や化学療法も基本は外来治療に移行してきているし、手術そのものも低侵襲化が進んでいることもあり術後数日で退院、その後は外来で経過観察に入ることも増えてきた。

そして、最後は、医療の高度化に伴う治療費高騰と生産人口の減少によって、社会保障制度そのものの抜本的な改革を検討せざるを得ない状況になっていることである。病気になっても安心して暮らせる社会基盤づくりは必要であるが、その一方で、どんな病気であってもきわめて低額で医療が受けられることを見直さざるを得なかったり、予防や生活習慣改善への取り組みを強化したりしなければ、国民皆保険制度の存続が難しいことは、徐々に多くの人が同意するところになってきた。

このように考えると、医療機関に患者さんが独歩で来院し、帰宅されるというシチュエーションが徐々に一般的なものでなくなっていく可能性があるということになる。また、高齢化が進み患者数が急増することが見込まれているものの、医師数はほぼ増加しないことを合わせて考えれば、我が国の医療はかつて経験しなかったような場面(病院外)で、今までとは異なるチームワークを組んで行われることが予想される。

風向きの変化が薬局のあり方を問い直す

一方、私自身も深くかかわってきた分野であるが、薬局や薬剤師が種々の批判を受けたりバッシングにさらされたりすることが多くなっている。医薬分業制度そのものについても、その費用対効果を考え調剤報酬制度そのものを抜本的に見直してはどうかという議論が中医協でもなされるなど、院外処方箋を応需して患者さんに迅速・正確に調剤することで医療を支えてきた自負のある薬局・薬剤師にとっては、なにやら落ち着かない風潮になっている。

これらの議論の中には、誤解のように思えるところもあれば、さもありなんとうなずく気持ちになるようなものもある。たとえば、調剤報酬は国が定めたものであり、それにのっとってきちんと業務をして、当然なされるべき企業努力を積み重ねてきたのに過剰収益が上がっているといわれることは心外である。その一方で、薬歴の未記載による不正請求やいわゆる無資格調剤の話など、同業者として事情はある程度推察できるものの、批判は甘んじて受けざるを得ないというように思ってしまうということである。

薬剤師というリソースがこの国の医療を救う可能性

これらの2つの問題は、実は、同時に解決することができるのではないか!というのが、私の考え、アイディア、ひらめき、妄想(!?)である。
すなわち、この国は、医療を根本的に変えねばならず、その一つとして在宅医療の充実をうたっている。しかも、認知機能が低下したりADLが低下したりしているのに、家庭内介護力がない状態で、薬物治療を完遂していかなければならない。医師や看護師など、現在の医療を患者のそばで継続的に支えるメンバーだけではマンパワー的にもたなくなってきている。

一方、薬局や薬剤師は新たな価値を社会に対して示していかなければ、その存在価値もビジネスモデルも危ういものになってしまう危機にさらされている。薬学教育も6年制へと移行し、臨床の現場で薬物治療の専門家として活動しようという動きはどんどん活発化している。さらに、そのボリュームは、今やコンビニエンスストアより多い薬局、開業医よりも多い薬局薬剤師となっているのだ。

薬物療法の専門家というピース

超高齢社会の医療の多くが、要介護高齢者の在宅での薬物治療であることを考えれば、薬剤師が薬を渡すところまでだけではなく、渡した後どうなっているかをフォローすることの意義は大きい。薬剤師が薬学的専門性を生かして指導義務を果たせば(薬剤師法25条の2)、漫然投与、overdose、副作用をチェックすることができる。これらの取り組みは、様々な問題を内包するPolypharmacyの改善を通じて、医療の質的向上とコスト削減へとつながるはずである。

薬剤師が変わることは、在宅医療を変える最後のワンピースになるかも知れない。

薬局マネジメント3
狭間 研至 ㈳日本在宅薬学会理事長

(文責:2015年9月 狭間 研至 ㈳日本在宅薬学会理事長)