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視点を持って業界を読み解く。調剤Scope

医薬分業のメリットは
なぜ国民に見えないのか?【第二回】

東京大学大学院 薬学系研究科 育薬学講座 教授 澤田康文

いよいよ、現場の薬剤師さんにとってはリアルなお話。実際に疑義照会から処方変更に至った実際事例と、もし、薬剤師さんがこう説明したら医療現場はどうなっていたか?のシミュレーション事例の対比を皆さんと共有するステップです(森)。

<実際事例1>

薬剤師:「今回、A病院から処方されました「ワルファリン錠」は、患者さんが別にかかっておられるB病院から出ている「ダビガトランカプセル」という薬と効能効果(共に血液抗凝固薬:血液を固まり難くする薬)が同じでして、つまり、重複しております。申しわけ御座いません。A病院の医師に確認して見ますので少々お待ちください。・・・・<薬剤師は別室、或いは小声で医師に電話をかけて疑義照会が行われる・・・しばらくして>・・・・お待たせしました。ワルファリン錠は中止することになりました。今回は、大変に申しわけございませんでした。」

なぜか、薬剤師は謝罪している。そもそも、患者が別の病院にかかっていてどの様な薬が処方され、服用しているか医師がいの一番に確認するべきである。謝るべきは処方した医師である。更に、別の病院にかかっていたことを患者が医師に告げなかったことも問題であり、患者自身にも責任があるといえる。薬剤師が、患者に対して正直に、今回の出来事について以下の様な詳細な説明を行ったらどうだろう?(シミュレーション事例1)

<シミュレーション事例1>

薬剤師:「今回、A病院から処方されました「ワルファリン錠」は、患者さんが別にかかっておられるB病院から出ている「ダビガトランカプセル」という薬と効能効果が同じでして、つまり、重複しております。患者さんのお薬手帳にB病院から出ている薬の一覧表から私が発見したのです。私がしっかり管理させて戴いている患者さんのお薬手帳はとても有用ですね。お薬手帳には、薬局薬剤師によるこの様なメリットがあるので薬剤服用歴管理指導料と言って患者さんにも一部負担して頂いています。コストに見合ったメリットと言えますね。

もし、私が今回のトラブルを発見していなければ、薬の作用が強く出てしまって副作用が起こる可能性があったのですよ。両方の薬ともリスクの高い薬ので、一緒に服用したら出血を起こして大変なことになっていたかもしれません。副作用が起これば治療のために入院し、不自由な生活を負わされることになり、更に余計な医療費が出費されることになります。それに、同じような薬が出てしまったわけですから、お薬代もかかるし、経済的に無駄ですね。私が重複投与を見つけることが出来て、余計な副作用も起こらず、何と、○○円の無駄な支払いが回避できました。

では、医師は、なぜ重複投与を見つけられなかったかといいますと、先ず、彼らは診察や治療などが忙しくてお薬手帳の中味をチェックすることはなかったようですね。更に患者さんから別の病院(B病院)にどのような病気でかかっているかなどを微細に聞き取りしなかったことなども考えられますね。
私共は、毎回、必ずお薬手帳やこれまでの患者さんの薬歴を確認しますから重複投与など、これからも全くご心配いりません。ご安心ください。今回も、私が確実に重複投与を見つけることができました。

これは、病院(医師)の機能と薬局(薬剤師)の機能がきちんと分担して、更に連携して問題点を見出すことができてそれを確実に解決する、いわゆる医薬分業と言われる仕組みなのです。大きなメリットがあることが分かって頂けましたね。」

もう一事例、複数医療機関の受診で禁忌薬が投与され、それを回避された場合の実際事例2とシミュレーション事例2を示そう。

<実際事例2>

薬剤師:「今回は、Cクリニックから風邪薬のPL配合顆粒が出ております。少々お待ち下さい。・・・・<薬剤師はこれまでの患者の薬歴を確認して前立腺肥大であることを把握する>・・・・お待たせしました。患者さんは前立腺の治療をD病院で受けておられますよね。今回の風邪薬との相性の問題がありますのでCクリニックの医師に確認して見ますので少々お待ちください。・・・・<薬剤師は別室、或いは小声で医師に電話をかけて疑義照会が行われる・・・しばらくして>・・・・お待たせしました。風邪薬は、中止することになりました。アセトアミノフェンというお薬に変更となりました。今回は、大変に申しわけございませんでした。」

<シミュレーション事例2>

薬剤師:「薬局では、患者さんのこれまでのご病気の内容、処方内容や薬の服用・使用状況などを記録しております。これは“薬歴”と言って、薬のカルテのようなものです。

その薬歴をチェックしましたところ、患者さんは前立腺肥大のためD病院にかかっておられますね。実は、今回Cクリニックから処方されました風邪薬のPL配合顆粒は、前立腺肥大の患者さんには使用できません。医療用添付文書でも使用禁忌となっております。

もし、このまま、服用してしまいますと、尿閉といっておしっこが出なくなってしまう危険性があります。これまでもそのような副作用が報告されています。尿閉となりますと救急車で大きな病院へ行かなければなりません。早急に泌尿器科へかかり膀胱痛などの苦痛が強い場合には、まず導尿して苦痛をやわらげる必要があります。入院となることもあります。入院したら、不自由な生活を負わされることになり、更に余計な医療費が出費されることになります。もし服用したら大変なことになっていたかもしれません。

今回は、私がしっかり管理させて戴いている患者さんの薬歴はとても有用ですね。薬歴には、薬局薬剤師によるこの様なメリットがあるので薬剤服用歴管理指導料と言って患者さんにも一部負担して頂いています。コストに見合ったメリットと言えますね。

では、クリニックの医師は、なぜ禁忌の疾患を見つけられなかったかといいますと、先ず、彼らは診察や治療などが忙しくて既病歴をチェックすることはなかったようですね。更に患者さんから別の病院(D病院)にどのような病気でかかっているかなどを微細に聞き取りをしなかったことなども考えられますね。

私共は、毎回、必ず薬歴やお薬手帳を確認しますから禁忌薬の処方など、これからも全くご心配はありませんよ。ご安心ください。今回も、私が確実に禁忌薬を見つけることができました。これは、病院(医師)の機能と薬局(薬剤師)の機能がきちんと分担して、更に連携して問題点を見出すことができてそれを確実に解決する、いわゆる医薬分業と言われる仕組みなのです。大きなメリットがあることが分かって頂けましたね。

上記の実際事例1、2のような処方せんチェックの事例件数は、既に述べたように1,605万件/年と推定されている。具体的事例は多種多様なカテゴリー項目に分類される3、4、5)


いかがでしたでしょうか?実際事例と、シミュレーション事例との差。シミュレーション事例で描かれている世界はロジックとしては正しいのでしょうが、何か違和感を受けられたかも知れません。そこには、リアルな日本の薬剤師さんがもつ健気な姿勢が隠れているようです。次回、澤田教授はその点にスポットライトを当てて下さいます(M)

新薬まるわかり2015
澤田 康文 東京大学大学院 薬学系研究科 教授

(文責:2015年12月 澤田 康文 東京大学大学院 薬学系研究科 教授)