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視点を持って業界を読み解く。調剤Scope

対物・対人両方を総合的に扱う
「服薬ケア」の概念とは?~かかりつけ・健康サポート時代の道先案内人~【第4回】

服薬ケア研究所 所長 岡村祐聡(おかむらまさとし)

患者さんは、あなたの服薬指導に満足しているのでしょうか?(2)

 前回は、服薬ケアのオリジナルワークの最高峰と言っても良い、「頭の中をPOSにする!」ワークで、患者役の方から35点という大変厳しい点数をつけられた服薬指導のお話をしました。そしてより満足度の高い服薬指導をするための絶対にはずしてはならないポイントとして、

思いついたことをすぐに指導し始めてはいけない

 ということをお話いたしました。なぜすぐに指導を始めてはいけないのかというと、

①「必要な情報(証拠)が足りない!~ウラを取れ!~」
②「アセスメントしていない」

 の2つを大きな理由としてあげました。ここまでが満足度の低い服薬指導になってしまう理由の半分である。というところまでお話しました。

 さて、今日はその後半、残り半分の理由は何?というお話をしましょう。

 これは服薬指導に限ったことではなく、コミュニケーション全般に言えることなのですが、コミュニケーションが成功する一番大きなポイントは、実はスキルの善し悪しではないのです。

 営業マン向けのビジネス書を読むと、よく「商品を売るのではなく、自分を売れ」とか、「感動を売れ」などと書いてありますよね。また、あの有名な松下幸之助さんも子供のころから言われ続けたという「損して得取れ」という言葉もあります。それぞれ突き詰めると大変深い意味のあるすばらしい言葉だと思います。しかし、それらのビジネス書には一番大切なことはあまり書いていないことが多いのですが、このような言葉には共通するある姿勢が前提となっているのです。

 医療においても、その真に意味するところは同じだと思うのですが、言葉遣いとしては「売る」とか「得」という言葉はなんだかしっくりこないので、ここでは「信頼」という言葉に置き換えてみましょう。

 患者さんとのわずかなやり取りの中で、自分が確実に信頼してもらえるためにどうしたらよいか。先ほども述べましたが、コミュニケーションスキルの上手下手は実はあまり関係ないのです。(もちろん、うまい方が良いに決まっていますから、興味がある方はぜひしっかりと勉強してくださいね)では、何が重要なのでしょうか。

 それは「(その瞬間)相手の事を本気になって考えているかどうか」なのです。

 私がお仕事の関係で出会った薬剤師の皆さんにこういう話をすると、ほとんどの方は「いつも本気になって考えていますよ」とおっしゃいます。きっと本人はいたって真面目にそのつもりなのだと思うのです。ただ、その中身をもう一段深く振り返ってみていただきたいのです。

 これは私自身の経験から得た教訓でもあるのですが、例えば、自分としては本気になって目の前の患者さんのお話に耳を傾けているつもりだったとしても、電話が鳴った時に「あれ?さっきの人の問い合わせの返事かな?」とか、お昼の順番が次は自分だとして「(前の人が)まだ帰ってこないなぁ。お腹すいたな」とか、そんなことを考えてしまうことはないでしょうか?

 これ、相手に本気になっていない証拠ですよね。本当に本気になって相手の事を考えていれば、違うことが心に浮かぶ余裕はないと思います。あ、別に責めているのではないのです。自分もそんなことがよくあったので言っているのです。ただ振り返ってみると、そんな時にはその患者さんへの服薬指導は、高い満足度をいただけなかったことが多かったような気がします。つまり、その瞬間の本気さのわずかな違いが、患者さんの満足度を大きく左右するということです。

 実はもう一つあります。それは「どういう気持ちで今あなたはその患者さんと向かい合っているのか」ということです。これはどういうことかというと、同じように「患者さんのため」と思ってアドバイスするにしても、「薬剤師としての仕事だから」「これは言っておかなければまずいだろうな」という気持ちで、アドバイスをしているのか、それとも、本気になって相手の事を心配して、心からのアドバイスをしているのか、その違いといえばお分かり頂けるでしょうか。

 医療者としてのタテマエではなく、一人の人間として目の前の患者さんのことをどれだけ本気になって考えることができているのか、その差が結果に影響するのだと思います。

 つまり、服薬ケアでの最も大切とされる「感情への着目」は、相手の気持ちだけでなく、自分の気持ちにも着目しなければならないのです。自分の気持ちの持ち方がどのような状態なのかによって、服薬指導の善し悪し、そして、その服薬指導のアウトカム(あなたの服薬指導によって、患者さんの服薬行動がどのように行動変容したのか)が変わってくるのです。

 先ほど例に出したビジネス書にも、ここが一番大事なのに、この部分はほとんど書いてありません。きっと著者にとってはあたりまえの事であるし、そもそもそれが前提なのであって、わざわざ書くまでもないことなのでしょう。しかし本を読んで学ぶ人にとっては、ここをしっかりと押さえないと、表面的なハウツーをいくら真似しても、結局はうまく行かないのです。

 前述の「頭の中をPOSにする!」ワークにおける35点の服薬指導も、やはり相手に1人の人間として真剣になって向かい合っているようなやり取りは、できていなかったようにお見受けしました。それが35点という厳しい結果の理由の一つだったのだと思います。

 さて、ここまでしっかりと掘り下げてコミュニケーションを学ぶのが、服薬ケアコミュニケーションの大きな特徴です。どうですか?服薬ケアのコミュニケーション論、もっと勉強してみたくなりましたか?

 2018年2月に、服薬ケアコミュニケーションの極意をまとめた新著が出版される予定です。きっと次の回には詳しくご紹介できると思いますが、ぜひ手に取って学んでいただきたいと思います。

SOAPパーフェクト・トレーニングPart2
岡村 祐聡(おかむら まさとし) 服薬ケア研究所 所長

(文責:2018年1月 岡村 祐聡(おかむら まさとし) 服薬ケア研究所 所長)