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医療分業のメリットはなぜ国民に見えないのか?【最終回】 東京大学大学院 薬学系研究科 育薬学講座 教授 澤田康文

ついに、本テーマも最終回。医師・患者から「ありがとう」を得られる 実際の事例をベースに、コストに見合う医薬分業の完成について、澤田教授に考察して頂きます(森)

少しずつ進展する医師、
患者と家族から薬剤師への「ありがとう」

以下の実際事例3を読んで戴きたい。

<実際事例3>
慢性腎不全のためA病院からの治療薬を服用中の患者。
今回、風邪を引いたため近くのBクリニックを受診し、発行された処方せんを持って
来局した。処方の内容は以下であった。

「レボフロキサシン錠500mg 1錠1日1回 朝食後5日分」

(500mg錠を1日1回、5日間連続して服用)
薬剤師は、患者が腎不全であることを薬歴とお薬手帳から掴んでいた。

薬剤師は、先ず、A病院に連絡して腎機能の程度を確認した。
その後、Bクリニックの医師へその情報を持って連絡し、本剤の投与量を以下のように
減量するように提案した。

「クラビット錠500mg 1錠1日1回 朝食後 1日分(1日目)」
「クラビット錠250mg 1錠1日1回 朝食後 4日分(2日目以降)」

(初日は500mg 錠を1日1錠、その後は、半分の250mg 錠に減量して1日1錠を4日間服用)



Bクリニックの医師は本提案に納得して処方変更に応じた。そして、医師と患者の家族 
から以下のような感謝の意が述べられた。

医師:「いつも私の処方を引っかけて(チェックして)くれてありがとう!」。
患者の家族:「薬剤師さんがいると、こういうことにも目を光らせてくれるのね!ありがとう!」

医師、患者、その家族は「薬剤師の行動や仕事の内容で助かった、安心した。」などの実感を得ることができたのである。最終的には、彼らに「薬剤師の仕事は医薬分業のコストに見合った仕事ですね!」と言わせたことになる。医師、患者、その家族に対して、処方変更に至る事の顛末を正確かつ懇切丁寧に説明できれば、薬剤師による疑義照会から処方変更に至った件数(既に述べた推定処方せん枚数は1,605万件/年)だけの感謝の意、ありがとうが表されることになるのだろう。

国民から見えている評価されやすい薬剤師業務

一方で、処方監査・疑義照会とは違って、薬剤師の職能が、直 接国民の目に見える状態で提示できて、しかもよく理解されつつあるのは、以下の“薬学的患者ケア”の場面である。
 

薬剤の加工・調製などを工夫した服薬支援によるアドヒアランス、易服薬性の向上

例:嚥下障害によって錠剤が飲みにくい患者のために錠剤を粉砕して粉薬として飲みやすくすることによって服薬が可能となり治療効果もあがった。

服薬指導によるアドヒアランスの向上、誤服薬の防止

例:使いにくい吸入剤について、病院でも一応使い方などの説明を受けたが充分ではなく、薬局内或いは患者宅において時間をかけて実際にその使い方を手取り足取りで説明することによって上手に伝えるようになり、最終的には治療効果が高まる。
 

患者宅における残薬管理による安全性・有効性の確保、医療保険財政軽減への貢献

例:薬剤師が患者宅に訪問して、自宅にある残薬のチェックを行い、不要な薬を廃棄したり、管理の方法を提案したりする。また、残薬が多くある薬が再度処方されていることが発覚した場合には、医師に連絡して処方を中止することになる。無駄な薬が処方されなかったことから医療費の軽減につながる。

これらは特に在宅医療での医療チームへの薬剤師の参画の中で患者とその家族、更に他の医療者(医師、看護師、介護スタッフなど)から目に見える高い評価を受けている。地域包括ケアシステム、在宅医療・介護、施設介護の推進の中、薬剤師の職能は大いに期待される。

まとめ

処方監査に始まる“疑義照会と処方変更”の国民への懇切丁寧な説明によって“見える化”を達成すること、在宅医療などにおける“患者ケア”をこれまで以上に推進すること、それらによって国民から薬剤師への“理解と信頼”(即ち『薬剤師の話を 聞いてよかった』、『薬剤師に相談してよかった』、『薬剤師の行動や仕事の内容で安心した』等 の実感)を得ることができれば、医薬分業のコストに見合ったメリットを国民にひしひしと感じてもらえるのではないだろうか。

そのためには、国民へのメリットの“一般論”による 説明では殆ど意味をなさない。薬剤師は、薬局カウンター、在宅において、“個々の患者と家族”へ 向き合って、メリットとなる“個々の事例”に基づいて、“医師が不快な思いをしない”、“患者が不安にならない”、しかも“自画自賛にならない”謙虚で心温まる説明を行う。
一方で、患者は薬剤師に薬を使っての不安、疑問、経験などを全て伝える。これによって患者、その家族、医師から“薬剤師さん、ありがとう”との言葉が自然と発せられるようになれば、コストにみあった医薬分業の完成となるのである。(完)

(文責:2015年12月 澤田 康文 東京大学大学院 薬学系研究科 教授)
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澤田 康文 東京大学大学院 薬学系研究科 教授
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