電子カルテや紙カルテで定められている保管期間5年について解説
電子カルテや紙のカルテなどの診療録には、保存期間が定められています。
その保存期間と、紙のカルテから電子カルテへの移行時の注意点についてご説明します。
診療録の保存義務と開示について
診療録=カルテには保存義務があります。
この保存義務は5年と定められていて、その完結の日から5年を経過する前に破棄することは認められていません。
治療を継続している間はこの5年の期間にはカウントされず、その完結の日から5年のカウントがスタートします。
そのため、治療が長期間にわたった場合、治療開始から5年が過ぎた場合でもそれ以前の医療記録が失われることはありません。
また、カルテ以外の処方箋や透析記録・レントゲン写真などの記録は3年の保存義務があります。
この3年、5年の決まりを破った場合、ペナルティとして50万円以下の罰金が科せられることになります。
他にも、新鮮凍結人血漿・人免疫グロブリンなどの特定生物由来製品に関しては、20年の保管期間があります。
もし、感染症が発生した場合に迅速に対応することができるよう、また原因究明ができるよう設けられている期間です。
保管期間のルールについては、医師法24条や療養担当規則第9条に明記されていますので詳しくはそちらを確認するようにすると良いでしょう。
診療記録について
診療記録は、厚生労働省によって下記のものが定められています。
- 診療録
- 処方せん
- 手術記録
- 看護記録
- 検査所見記録
- エックス線写真
- 紹介状
- 退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約その他の診療の過程で患者の身体状況
- 病状
- 治療等について作成
- 記録又は保存された書類
- 画像等の記録
診療記録は、患者さんに関する情報を医師や看護師といった医療従事者が記載したものです。
患者さんの健康や病気に関するあらゆる情報をまとめるために、多くの医療機関では電子カルテを使用しています。
また、病状が回復したり、退院したりしたあとでも、患者さんは病気の再発やケガを負ってしまう可能性があります。
そのような場合、以前に作成した診療情報を参照して、処方箋や治療の経過に関する内容を取得します。
短期間でデータを削除してしまうと患者さんの情報を取得できなくなることから、最適な診療を行えなくなります。
そのため、日本では電子カルテの保存期間が5年と定められています。
既存のカルテのデータ化について
クリニックの新規立ち上げをする場合は、特に問題ありません。
ただ、今まで紙のカルテを使っていて、新たに電子カルテに切り替える場合には、保管期間内の電子カルテについてはデータ化をする必要があります。
データ化をする方法はいくつかあります。
そのうち、主流となる方法は、「オートフィード式」「スタンド式」「フラットベット式」の3つです。
オートフィード式
複数枚を順番に流してスキャンしていくのが、オートフィード式です。
近年は、画質が高まり読み取り精度も高くなっているので、このオートフィード式の人気が高まっています。
スタンド式
スタンド式は、スキャナの価格が安価であることが魅力です。
しかし、ページを送りながら作業を行うことになるので、少々手間のかかるやり方であると言えます。
フラットベット式
昔ながらの方法が、このフラットベット式です。
1枚ずつ挟んでスキャンしていくため、手間も時間もかかってしまうやり方です。
他の方法としては、専門業者にスキャンを依頼するという方法もあります。
カルテは個人情報の塊なので、専門業者に依頼する場合は業者選びを念入りに行わなければいけません。
値段と信頼の両方を十分に見極める必要があるでしょう。
データ化したカルテは、「保管期間内のもの」と「保管期間外のもの」とに分けて管理しましょう。
保管期間内のものはそのまま、保管期間を過ぎているものに関しては圧縮して管理しておくようにすると、クラウドの容量がパンクしてしまうことも少なくなるでしょう。
電子カルテの保存方法
電子カルテの保存方法は、電子保存の三原則に基づいて適切な方法で保管する必要があります。
下記、電子保存の三原則に含まれる項目です。
真正性
真正性とは、いつ・誰が・どのような情報を電子カルテに記載・修正したのかを明確にすることです。
電子カルテは改ざんを防止するため、強固なセキュリティを設けたり特定の人しかログインできなかったりする必要があります。
患者さんの健康や生命に関わる重要な情報が記載されている電子カルテには、情報の正確性を維持する環境を用意しましょう。
見読性
見読性は、電子カルテに記載されている情報が紙カルテと同様に読むことができる状態を指します。
電子カルテは医療従事者だけではなく、患者さんも見ることがあるため、誰が見ても内容が分かる状態である必要があります。
そのため、電子カルテに記載する情報はわかりやすい状態で素早く取り出せるように保管することが義務付けられています。
保存性
保存性とは、さまざまな要因でデータが破損しないように、真正性と見読性を確保したうえで保存する必要があることを指します。
電子カルテを搭載したパソコンで安全ではないサイトを閲覧すると、マルウェアなどによってデータが破損する可能性があります。
そのため、スタッフには業務外でパソコンを使わない、診療情報の修正は院長の許可を得るなど高いセキュリティが求められます。
電子保存の三原則については、下記のページで詳しくご説明しています。
当社コラムページ:「【電子カルテ】電子保存の三原則についてご紹介」
(https://www.yuyama.co.jp/column/medicalrecord/electronicmedicalrecord-principle/)
データ化した後のカルテ破棄方法について
データ化が終わると、紙のカルテは破棄することになります。
個人情報の塊である紙カルテの破棄には細心の注意が必要です。
カルテに書かれている情報の流出は、プライバシー違反・医師法違反となります。
罰金も支払う必要がありますし、何より多くの患者さんや地域住民からの信頼を失ってしまうことになるでしょう。
クリニックで処分をする場合は、必ずシュレッダーで細かく裁断したうえで破棄するようにしてください。
また、業者に依頼するという方法もあります。
業者に依頼する場合、プライバシーマークを所持していてなおかつ書類の溶解や裁断を目の前で行ってくれる業者に依頼するようにしましょう。
医療機関が閉院する場合はどうなる?
医療機関によっては、経営不振や後継者の不在などによって、止む無く閉院しなければならない状況があります。
そのような場合でも、電子カルテに記載された情報は最低でも5年間は保管しなければなりません。
閉院する場合の保管義務は、下記の3パターンに分かれます。
承継せずに保管する場合
後継者が不在などの理由により医療機関を承継せずに閉院する場合、院長に管理責任が求められます。
電子カルテの場合は5年間、カルテ以外は3年間保管義務が残る点には注意が必要です。
別の医療機関へ承継する場合
医療機関の合併や承継を行う場合、電子カルテのデータも引き継ぐことができます。
電子カルテのデータも引き継いでもらった場合、管理責任は承継先の医療機関になります。
一方、元の範囲外での利用は、患者さんの同意が必要な旨が個人情報保護法によって定められています。
事業承継を行う際は、電子カルテを含む医療機関の運営に関するデータの取り扱いには注意しましょう。
管理者が亡くなられた場合
管理者が亡くなられた場合、電子カルテや診療情報などの管理義務はその家族に生じることはありません。
これは厚生労働省が定めており、遺族に代わって保健所などの公的機関で管理する方が適切だと言われています。
一方、医療事故が起きた場合は遺族に損害賠償責任が問われる可能性があります。
クラウド型とオンプレミス型はどちらが良い?
電子カルテには、外部のサーバーにデータを保管するクラウド型と、自社サーバーに保管するオンプレミス型の2種類があります。
いずれの電子カルテにおいても5年間の保存義務や、三原則を遵守することが求められています。
では、クラウド型とオンプレミス型のどちらが良いのでしょうか?
結論として、どちらにもメリットやデメリットが存在するため、医療機関によって決めることが望ましいです。
クラウド型は外部のサーバーに保管するため、災害や機材トラブルがあった場合でも素早く復旧することができます。
オンプレミス型は自社にサーバーを設置しているため、保管や管理がしやすいといった特徴があります。
近年ではクラウド型の電子カルテを採用する医療機関が多くなりましたが、オンプレミス型も人気が高い電子カルテです。
そのため、電子カルテを導入する際はどちらの方が自院に適しているのかを確認しておきましょう。
おわりに
診療録の保存期間についてご説明しました。
医療情報はその種類によって、5年・3年・20年などの保存期間が定められています。
保存期間の内外を問わず、電子カルテを導入する際にも情報管理はしっかりとするように心がけましょう。

株式会社ユヤマ

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