クリニック閉院理由と経営リスクのマネジメント
多くのクリニックは地域に密着して、患者の診療や治療に取り組んでいます。評判が広がり、「患者が患者を呼ぶ」状態になれば、集患数や経営は安定するでしょう。しかし、クリニックは様々な理由で閉院する可能性があります。
本記事では、クリニックの閉院理由について、経営リスクのマネジメントとあわせて解説します。
クリニックの増減推移
以下は厚生労働省が発表した、令和4年10月1日における全国のクリニック数の推移です。
施設数 | 対前年 | 構成割合 | ||||
令和4年 | 令和3年 | 増減数 | 増減率 | 令和4年 | 令和3年 | |
クリニック(一般診療所) | 105,182 | 104,292 | 890 | 0.9% | 100.0% | 100.0% |
有床診療所 | 5,958 | 6,169 | -211 | -3.4% | 5.7% | 5.9% |
有床のうち、療養病床を有するクリニック(一般診療所) | 586 | 642 | -56 | -8.7% | 0.6% | 0.6% |
無床診療所 | 99,224 | 98,123 | 1,101 | 1.1% | 94.3% | 94.1% |
こちらの表より、クリニック全体の増加数は890件、増加率は0.9%であることから、開業医は増加傾向にあるといえます。
特に無床診療所の増加数が大きく、前年同月から1,101件増加しています。全国的にみると、無床診療所は有床診療所や療養病床を有するクリニックとは異なり増加傾向にあります。
参考ページ:厚生労働省ホームページ「医療施設調査」
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/22/dl/02sisetu04.pdf)
クリニックの閉院理由
こちらでは、クリニックの閉院理由をご紹介します。
高齢化による後継者不足
厚生労働省が2022年に公表した「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、クリニックに勤務する医師の年齢層別構成は明らかです。
この統計では、開業医の約4人に1人が70歳以上であり、一般的な定年とされる60歳以上の医師は全体の52.7%を占めています。
このデータからわかるように、医師の平均年齢が高まる傾向にあり、開業医として長く働き続けるケースが増えています。ただし後継者が見つからなかった場合、クリニックが閉院することで地域の医療を担当する先生方が減少し、地域コミュニティに大きな影響を及ぼす可能性があります。
資金繰りの悪化による経営難
クリニック経営は地域社会に貢献するサービスである一方、ビジネスでもあるため、資金繰りが非常に重要になります。
安定した経営を実現するためには、多くの患者を集め、収入を確保しなければなりません。
資金繰りが悪化すると先生方はもちろん、スタッフへの給与支払いが滞るなどのトラブルが発生しやすくなります。
また、医療機器の設備投資もできなくなることから、質の高い医療を実現できなくなる点もリスクといえます。そうした結果、資金繰りが悪化し続けると最悪の場合、閉院に至ることがあります。
また、一見黒字経営でも、経費などの支払いが間に合わなくなった場合は、閉院に至ることがあるため、資金繰りには注意が必要です。
集患がうまくできていない
開業医としてクリニックを経営する際、地域住民にクリニックの存在を認知してもらい、多くの患者を集める必要があります。
特に、診療対象となる可能性の高い患者層に対し、自院の存在を知ってもらうことで、より多くの患者を集められるでしょう。クリニックを経営する際には、医療分野だけではなくマーケティングに関する知識が求められますが、マーケティングが上手くいかず、患者数が伸び悩んだ場合は経営が苦しくなります。
また、うまく集患できたとしても、患者が医療サービスの質に満足できなかった場合、ネガティブな口コミが広がってしまうこともあります。患者が増えない・患者が別のクリニックに流れてしまうことにより、閉院に追い込まれる可能性があります。
人手不足
院内の人間関係や業務環境が悪化してしまうと、開業当初から在籍していたスタッフの退職につながります。患者やスタッフに対して悪態をつく、仕事を任せないなどのコミュニケーション不足に陥いると、院外に悪評が広がるほか、スタッフが退職してしまいます。主戦力のスタッフが退職してしまうと、質の高い医療サービスを維持できないため、患者の満足度を下げてしまいます。
また、スタッフの退職により人手不足に陥ると、新規スタッフの採用や教育などのコストがかかるため、離職率は出来るだけ抑えたいものです。人間関係が悪化したクリニックは総じて離職率が高く、こういったマイナスが発生してしまいがちです。
経営の知識不足
先述の通り、長期にわたってクリニックを維持するためには、経営に関する知識が求められます。先生方は医療に関するスペシャリストではありますが、経営については明るくない、という先生もいらっしゃると思います。
経営に関する知識は書籍やセミナーなどで学ぶことができますが、診療に多くの時間を割く中で座学の時間を確保するのは難しいものです。外部のコンサルタントを利用することも有効ですが、自分の身に付かない、費用がムダになる可能性があると感じる先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、後回しにしてしまうと、気付いたときには経営の知識を深められないまま、赤字に陥る可能性があります。
周辺環境の変化
これまで順調に集患でき、経営も安定していたとしても、それが恒久的に続くとは限りません。対象地域の過疎化や近隣での大型病院の開院など、外的要因により患者が減少する恐れがあります。
それに対し、例えば令和7年4月から施行される「かかりつけ医機能報告制度」などを活用し、地域内で患者情報を共有することで、周辺環境の変化に柔軟に対応できる可能性があります。
一方で、地域医療としての機能を果たせないクリニックは、そうした変化に対応できず、最終的に閉院へと至る可能性があります。
閉院を含む経営リスクのマネジメント
クリニックの閉院を含む経営リスクをマネジメントするためには、以下を実践しましょう。
経営に関する知識を身に付ける
クリニックの安定経営を実現するためには、収支バランスや予算の管理といった、経営に関する知識が必要です。毎月に何人集患することを目標とし、支出はいくらに抑えるべきなのか、そのために何をするべきなのかを学ばなければなりません。また、数年に一度は経営計画を見直し、財務状況や運営方針を再評価することも重要です。
認知拡大・マーケティングの実施
一般的に、現代におけるマーケティングでは製品やサービスを介して顧客満足度を向上させることを指します。医療業界における顧客は患者であり、クリニックの目的は患者の健康を維持・改善することです。より多くの患者を集めるためには、サービスやクリニックの存在を知ってもらうためのマーケティングが不可欠なのです。
経営戦略を再立案する
経営戦略の実現が難しい場合は、戦略そのものを再立案することも重要です。その際、なぜ実現できなかったのか、実現するためには何をするべきなのかなど、過去の失敗から学びを得られます。場合によっては外部の経営コンサルタントに相談することで、第三者の客観的な意見・フィードバックを得られます。
適切なコミュニケーションを図る
スムーズかつ安定した経営を実現するためには、まずは院内スタッフと良好な関係を構築することが重要です。そのためには適切なコミュニケーションを取り、意見や要望などを把握する必要があります。スタッフの満足度が向上することで離職率を下げられるほか、院内の雰囲気が良くなるため、患者も居心地が良くなります。
後継者を見つける
これまでの要因は知識やスキルによる解決方法でしたが、高齢化により今後経営が難しくなることがあります。クリニックの存続を願いつつも、状況により閉院はやむなしと考える先生は多くいらっしゃると思います。高齢化による閉院を防ぐために、早い段階から後継者を見つけ、計画的かつスムーズに引き継ぎが出来る体制を整えておきましょう。
おわりに
本記事では、クリニックの閉院理由について解説しました。令和4年と3年で比較すると、クリニック全体の増加数は890件、増加率は0.9%であることから、開業医は増加傾向にあるといえます。
しかし、高齢化による後継者不足や資金繰りの悪化による経営難、集患がうまくできていない、人手不足、経営の知識不足、周辺環境の変化などを理由に、やむなく閉院してしまうクリニックも少なくありません。
対策としては、後継者を見つけることや経営戦略を再立案すること、認知拡大・マーケティングの実施、適切なコミュニケーションを図ること、経営に関する知識を身に付けることが挙げられます。
クリニックを続けていくためには、今抱えている課題を見つけて、適切な対策をとることが必要です。

株式会社ユヤマ

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