2025.10.21薬剤師 , 調剤機器

患者の流れを最適化! PFMが拓く医療の質と経営効率

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患者の流れを最適化! PFMが拓く医療の質と経営効率

医療の質と経営を両立させる「PFM」の必要性

高齢化の進行に伴い疾病も増加し、医療の需要は高まる一方です。それに呼応して医療の提供体制は複雑化し、効率化が大きな課題とされています。

特に、患者さんが医療サービスを利用するプロセス(流れ)の最適化は、医療の質と経営効率の両方を決定づける最大の要素となります。病院において「病床が空いているのに手術ができない」、地域においては「退院後の服薬指導の効果が低く、すぐに再入院してしまう」といった非効率な事態は、患者さんのQOLと医療機関の収益悪化を招きかねません。

PFM(ペイシェントフローマネジメント:Patient Flow Management)とは、こうした非効率を解消し、患者さんのQOLと医療機関の収益を改善する、いわば医療プロセス全体の構造改革です。これは病院だけでなく、薬局や在宅医療も含めた地域全体で「切れ目のないケア」を実現し、同時に「縦割り医療」を排除するための必須戦略と言えます。

PFMの「点と線」


PFMの「点と線」
PFMの定義は、患者さんの流れを「途切れなく管理(マネジメント)する」ことです。

患者さんが治療を開始した時期から、通院治療を経て、あるいは入院治療であれば退院までの経過をたどり、ご自宅や地域での生活に移行するまでのプロセス全体を、時間軸に沿って途切れなく、かつ効率的に管理する取り組みです。

これまでの職種ごと、部署ごとの「点」の業務から脱却し、プロセス全体を「線」や「面」として捉え直します。PFMは単なる時間管理ではなく、次の4つの目的を同時に追求します。

  1. ① 医療の質の向上:標準化されたフローで、必要な医療を適切なタイミングで提供する
  2. ② 患者満足度の向上:不安な待ち時間やたらい回しを減らし、治療や退院後の見通しを明確にすることで、患者さんの不安を軽減する
  3. ③ 経営効率の改善:病院の在院日数を適正化することによって病床の回転率を最大化。また、地域医療連携を円滑にすることで薬局の利用効果を最大化する
  4. ④ 医療資源の適正利用:医師・薬剤師や看護師といった限られたマンパワーを、最も必要な患者さんに集中させる

PFMのタイミングと薬剤師の役割

PFMは、以下の3つの時期に分けられ、それぞれで病院と地域(薬局)がシームレスに連携します。

①入院前管理

PFMの成否を分ける「最初の鍵」です。活動内容としては、入院決定後から入院日までの間に、必要な検査や問診を事前に行います。特に手術前の麻酔科診察や、退院後の生活に影響する情報の収集を早期に行います。

入院初日からスムーズに治療が開始できるため、在院日数を短縮する効果が見込めます。薬剤師としては、術前の薬物療法を確認・把握することで、入院前の準備不足による手術キャンセル率の低下につなげられます。

②入院中管理

薬剤師を含めた多職種が適切に連携し、日々の治療進捗を確認します。医療ソーシャルワーカー(MSW)と看護師が連携し、退院に向けた課題を入院後早期から洗い出します。

薬剤師は薬物治療の進捗管理はもちろん、退院後の生活を見据えた処方設計や指導内容を早期に検討します。この連携が、退院支援の遅れという「在院日数延長の最大リスク」の未然防止につながります。

③退院後・地域連携管理

退院後の生活を見据えた「切れ目のないケア」を実現する最も重要な局面です。かかりつけ医、訪問看護ステーション、地域薬局などと密に情報共有し、連携フローを整備します。

薬剤師は、退院時共同指導の積極的な実施や電話フォローアップなどにより、退院直後の服薬アドヒアランスの低下を防ぎます。これらの活動は、地域包括ケアシステムの重要な構成要素であり、予期せぬ再入院の予防という効果をもたらすはずです。

流れを変える情報共有と役割分担


流れを変える情報共有と役割分担

PFMのプロセスを滞らせる最大の要因は、セクション間に潜む「情報共有の遅れ」と、特定の個人に業務が集中する「担当業務の属人化」です。これを打破するためには、強固な情報基盤の確立と、チーム内での適切な役割分担が欠かせません。

情報共有の遅れを避けるためには、電子カルテや専用システムといったITツールの活用が必須です。これらのシステムを活用し、患者さんの入院プロセス、各職種の院内タスクの進捗状況、確定した退院予定日などを、全ての職種でリアルタイムに共有できる環境を整備しなければなりません。

この「見える化」により、誰もがボトルネックを把握できるようになり、迅速な連携と対応が可能になります。例えば、薬剤師が術前薬を確認した時点で、その情報が看護師や麻酔科医に即座に共有される仕組みが有効です。

また、業務効率を最大化するには、適切な役割分担が極めて効果的です。特に、「権限の委譲」や「タスクシフト」が重要なキーワードになります。

看護師やMSWが退院調整において主導権を持ち、必要なリソースを動かすことで、医師は診断や治療といった本来の専門業務に集中できる体制を構築します。これにより、多忙な医師の負担を軽減しつつ、チーム全体のパフォーマンスを向上させ、患者フローの停滞を防ぐことができるでしょう。

まとめ

PFMは、単なる効率化策ではなく、「患者さんへの貢献」と「病院・薬局経営の安定」という、現代医療における二つの目標を同時に達成するための必須のマネジメント戦略です。その本質は、特別なシステムや複雑な理論にあるのではなく、患者さんの視点に立ち、全ての職種が協力して無駄を徹底的になくすという、医療提供体制の構造改革にあります。

構造改革を成功させるための第一歩は、まず「自院や自地域の患者フローの現状を見える化すること」に他なりません。どこで情報共有の滞りや不必要な待ち時間が発生しているのか、何がボトルネックになっているのかを客観的に明確に把握することから、PFMによる持続的かつ効果的な改善が始まります。

※この記事は情報提供を目的としており、株式会社ユヤマ・株式会社湯山製作所の企業としての見解を示すものではございません。記事に関するご意見・ご感想はお気軽にお寄せください。

文責 2025.10.8 ㈱ユヤマ学術部・主査 上野敬人

〈編集後記〉

10年ほど前、とある団体の会報作成をお手伝いしていた時の話ですが、その編集会議でPFMについて特集の提案がありました。当時はこの言葉にぴんと来なかったこともあり、特集は見送られたことがあります。その頃から一部で議論は始まっていたとはいえ、わずか10年ほどの間にPFMが大きな戦略の一つとして位置づけを変えたことに、医療提供体制の変化と進化を感じます。今回の記事が効率化と質の向上を両立させる、次の一歩のヒントになれば幸いです。(学術部:N.U.)

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タグ : 薬剤師 医療の質と経営の両立 PFM
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