2025.11.19電子カルテ

医療DX事例(伊藤医院様):スタッフとともに取り組む医療DX~少人数からのスタートが成功のカギ~

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導入事例_1_伊藤医院様

昨今、医療業界でなにかと話題になる「医療DX」ですが、これは厚生労働省が掲げる医療領域における「デジタルトランスフォーメーション」のことであり、紙運用からデジタル運用への移行を後押しするものです。デジタル技術を活用して、保健・医療・介護現場の情報共有や業務プロセスを最適化し、医療の質の向上と効率化、そして国民の利便性向上を目指すための取り組みです。

本記事では、厚生労働省が進めている医療DXの概要と現状を解説するほか、実際に医療DXを進められている伊藤医院様の導入事例についてもご紹介します。

そもそも医療DXとは何なのか

厚生労働省が進めている医療DXの施策は、9つあります。※1

  • オンライン資格確認の導入
  • 電子カルテ情報共有サービス
  • 標準型電子カルテシステム
  • 電子処方箋
  • 医療費助成のオンラインによる資格確認
  • 予防接種事務のデジタル化
  • 介護情報基盤の構築
  • 医療等情報の二次利用
  • 診療報酬改定DX

そのなかでも、令和8年度(2026年度)診療報酬改定を見据え、現在医療機関が優先的に取り組むべきは医療DX基盤の整備です。特に、その第一歩として『医療DX推進体制整備加算』への対応が重要といえます。マイナ保険証の利用率が高くなるほど多く加算される仕組みであり、実際の加算要件は以下の通りです。

医療 DX推進体制整備加算の見直し(令和7年4月1日から適用)
引用元:厚生労働省. 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて ※2
医療DX推進体制整備加算は令和6年度(2024年度)の診療報酬改定で新設されて以降、令和6年10月、令和7年4月、そして同年10月と複数回にわたって見直しや調整が行われています。
注目したいのは、算定要件に含まれる「マイナ保険証利用実績」が段階的に高くなっていく点です。※2

医療DX推進体制整備加算・ 在宅医療 DX情報活用加算 の見直しについて(案)
引用元:厚生労働省. 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて ※2
つまり、一定以上の加算を算定するためには、自院を受診する患者のマイナ保険証の利用実績を上げること、しかも一時的ではなく常に上げ続けることが必要です。その前提として、クリニックにはマイナ保険証に対応可能な環境の整備が求められているのです。
実際、2025年12月からは従来の健康保険証が利用できなくなります。患者のなかには、「保険が効かなくなる(全額実費になる)のではないか」と誤解されている方や、慣れない仕組みに不安をお持ちの方もいるかもしれません。クリニック側でも近い将来、大きな混乱が生じると予測されますが、国が掲げる医療DX構想に追従し、クリニックの収益最大化を目指すためにも、早期から医療DXの体制を整備することが大切です。

関連記事:令和7年10月改正!医療DX推進体制整備加算について

伊藤医院様における医療DX

ではここで、実際に医療DXへの取り組みを始めている伊藤医院様(千葉県成田市)の事例をご紹介します。伊藤医院様は、内科・消化器内科、整形外科、小児科の3科を標榜し、三代にわたって地域医療を支えてこられました。現在は、当社の無床診療所様向け電子カルテ「BrainBoxV-Ⅳ」にアップデートされて、診療科ごとにカスタマイズしてご利用いただいています。

伊藤医院様では、約13年前から電子カルテを運用していたこともあり、業務の一部がデジタル化することへの抵抗は少なかったといいます。むしろ「医師や事務スタッフの業務が少しでも効率化できるなら」という思いで医療DXに取り組み、電子処方箋とマイナ保険証(オンライン資格確認)を導入されました。

院長の伊藤真典様に、医療DXの取り組みについて伺いました。

医療DXに取り組むことになったきっかけを教えてください。

マイナ保険証について

伊藤先生:「事務のなかでは、保険の切り替えなどでトラブルが起こることがあります。これを回避できるなら、マイナ保険証を導入する意味はあると思い、わりと早期に導入しました」

電子処方箋について

伊藤先生:「電子処方箋は、昨年の2月頃に導入しました。実際にはまだ始められていませんが、一時期、オンライン診療を導入しようと考えたことがあったんです。『診療がオンラインなら処方箋も電子化すれば患者さんのニーズとも合致するのでは』と考え、電子処方箋を使えるように環境を整備しました」

マイナンバーカードは2025年9月末時点で、住民基本台帳に基づく人口の79.6%が保有しています。※3
マイナンバーカード保有者のうち、マイナ保険証として利用している人は、厚生労働省の推計(2025年7月時点)で58.0%でした。同月のオンライン資格認証件数は24,850万件、マイナ保険証の利用率は31.43%でした。※4

オンライン資格確認の利用状況
引用元:厚生労働省. マイナ保険証の利用促進等について ※4

医療DXへの対応後、どのようなメリットを感じていますか?

マイナ保険証について

伊藤先生:「事務においては、健康保険の切り替えがわかるなどのメリットがあります。事務スタッフからも、『保険の確認が楽になった』と聞いています。医師としても、レセプトの関係で1か月遅れにはなりますが、以前の処方薬がわかるのはメリットです。高齢患者さんからの『こんな感じの薬を飲んでいた、他の病院でこんな薬をもらった』という情報や、引っ越してきて当院を受診された患者さんからの『以前処方されていた薬が欲しい』というニーズにも対応しやすくなります」

患者の話は必ずしも正確ではなく、また、毎回お薬手帳などで確認できるとも限りません。そのため、マイナ保険証を介して処方に関する情報を確認できるのは、医療の質の向上や診察の効率化、診察時間の短縮にもつながります。

自動精算機・キャッシュレス決済

伊藤先生:「電子カルテと自動精算機を連携しています。また、キャッシュレス決済を導入したことで、事務スタッフからは、『会計を間違えないように』という精神的なプレッシャーがだいぶ減ったと聞いています。また、電子カルテのアップデートによって、以前は毎日行っていた会計の締め処理がなくなり、施設に入っている患者さんなど、複数人分の未処理の請求が月末に一気にできるようになりました。さらに、窓口集計とレセプト集計が自動で出てくるようになり、会計を担当する事務スタッフが毎日計算する必要がなくなったと聞いています」

会計のミスは担当者にとっては大きなプレッシャーであり、自動精算機の導入によって会計業務や精算が自動化されるのは、事務スタッフとしても経営側としてもメリットがあるといえます。

なお、電子処方箋に関しては、現段階では特にメリットは実感できていないとのことでした。電子処方箋の導入にあたっては、処方箋データを共有する先の「調剤薬局」が対応していないと最大限のメリットが得られないのも現実です。国の医療DXの方針に従い、クリニックへの導入は推進されていますが、いずれのシステムも導入費用がかかること、導入後もトラブルは起こりうるものということを踏まえ、慎重に検討することが大切です。

医療DXに取り組むためのポイント

医療DXの実現に向け、クリニック側の心構えはありますか?

伊藤先生:「当院の場合、マイナ保険証は事務手続きが楽になりそうだなと期待して導入しましたし、実際にメリットを感じています。
ただし、どんなシステムにも導入時のトラブルはつきものです。だからこそ、まずは少ない人数(患者さん)から始めて、慣れてきたら徐々に対応人数を増やしていく形がいいと思います。トラブルがあったとき、少ない人数のほうが原因を見つけやすいし、対応もしやすいからです」

さらに、伊藤先生は医療DX対応をスムーズに進めるためのポイントとして、システムベンダーのサポートも挙げておられました。

伊藤先生:「ユヤマさんは担当者がよく来てくれるし、フリーズしたときなどのトラブルに対する対応が早いです。最近も電子処方箋やマイナ保険証関連でトラブルがありましたが、しょっちゅう来てくれて、何が悪いのか調べて対応してくれます。トラブル時の手厚いサポートがなかったら、たぶんやっていけないかなという感じがします」

医療DXに取り組むためには、クリニックに「電子カルテ」が導入されていることが前提です。まずは信頼できるシステムベンダーを見つけ、自院の診療スタイルに合った電子カルテシステムを選定し、業務上必要なものから少しずつ取り組むのがよいでしょう。

医療DXを継続していくための秘訣がありましたら教えてください。

伊藤先生:「特にマイナ保険証は、患者さんの協力も必要となります。当院では、事務スタッフから毎回、『マイナ保険証への切り替え』についての声かけをお願いしてきました。その結果、昨年末頃には3割ほどの患者さんが利用されるようになりました。声をかければ、切り替えに協力してくださる患者さんは比較的多かったです。今後もこの声かけは続けていきます。
特に高齢の患者さんのなかには、初めてのことはハードルが高いと感じる方もいます。時間があれば少し手伝ってあげたり、まだやったことない人には説明したりと、スタッフには丁寧に対応してもらっています」

スタッフ一丸となり、スモールステップで進めることが重要

本記事では、厚生労働省が進めている医療DXの概要と現状、そしてマイナ保険証を導入しクリニックでの医療DXを進めている伊藤医院様の導入事例をご紹介しました。

クリニックにおける医療DXを成功させるためには、まずは少人数の患者を対象にスモールステップで進めること、そして医療従事者と事務スタッフがともに取り組み、患者にわかりやすく説明することなどが大切といえます。

Clinic Profile

伊藤医院
URL:https://itouiin3.jimdofree.com/
所在地:千葉県成田市本三里塚78-3
院長 伊藤 真典様

関連記事:ドクターリポート 伊藤医院様

参考資料

※1 厚生労働省. 医療DXについて.
※2 厚生労働省. 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて.
※3 総務省. マイナンバーカード交付状況について. マイナンバーカードの申請・交付・保有状況【令和7年10月12日(日)時点】
※4 厚生労働省. マイナ保険証の利用促進等について

オンプレミス型電子カルテ BrainBoxV-Ⅳ

クラウド型電子カルテ BrainBoxCloudⅡ

BrainBoxオンラインデモ

電子カルテドクターリポート

全国最大級の開業物件検索サイト ユヤマY’sジャーナル

開業支援ドクターレポート

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