AIで進化するWeb問診:メリットと課題、クリニックに最適なシステムの選び方を解説
クリニック経営において、患者満足度の向上と業務効率化は常に重要な課題です。特に、患者の待ち時間やスタッフの業務負担は、医療の質にも直結する問題といえるでしょう。こうした課題を解決する戦略的な一手として、多くの医療機関で「Web問診システム」の導入が進んでいます。本記事では、Web問診の基本からAI活用による進化の可能性、メリットと導入への課題、そしてクリニックに最適なシステムの選び方について解説します。
Web問診とは? 紙問診との違いやAI問診への進化
まずは、Web問診の基本機能について、従来の紙問診との違いや最先端のAI問診と合わせて解説します。
Web問診の流れ
Web問診とは、患者が来院前または来院・受付後に、スマートフォン、PC、クリニックのタブレット端末などから問診票に回答するシステムです。基本的な流れは以下の通りです。
- 患者は、クリニックのWebサイトや予約完了時に送られるSMS・メールのリンク、院内に掲示されたQRコードなどから、Web上の問診フォームにアクセスする。
- 問診への回答は、自宅や移動中、クリニックの待合室など、自身の都合の良いタイミングで行う。
- 回答データは即座にクリニックのシステムへ送信される。
- 医師やスタッフは、患者が来院する前または診察前に、患者情報や問診の内容を確認する。
来院から診察までのプロセスの大幅な効率化が期待されており、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩としてWeb問診を導入するクリニックが増えています。
紙問診に潜むリスク
多くのクリニックで長年使用されてきた「紙の問診票」には、実は業務の非効率性や潜在的なリスクが存在します。
スタッフの業務負担と転記ミスのリスク
受付スタッフは、問診票の受け渡し、記入内容の確認、電子カルテへの転記といった一連の業務を担います。しかし、手書き文字の解読や記入漏れの確認に時間がかかるだけではなく、こうした作業が積み重なることで、本来注力すべき患者対応の時間が奪われます。さらに、手作業による転記は「入力ミス」という医療安全に関わる大きなリスクを常に伴います。
患者の待ち時間延長と満足度の低下
患者が来院してから問診票へ記入し、それを受付スタッフが転記することで、外来の待ち時間は長くなります。待ち時間の長さは患者がクリニックに対して不満を抱く要因のひとつであり、満足度の低下に直結します。
感染対策上の懸念
特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、発熱やその他症状のある患者に対して来院前に事前問診をする必要性が高まりました。また、筆記用具やクリップボードの共有による接触感染のリスクは看過できない問題であり、都度消毒の手間がかかります。
これらの負担やリスクは、クリニック全体の生産性と医療の質を低下させる要因であり、クリニックが抱える大きな課題といえるでしょう。
AI問診とは
Web問診の進化形として、近年「AI問診」が注目されています。一般的なWeb問診とAI問診の違いは以下の通りです。
一般的なWeb問診
基本的には紙の問診票をデジタルに置き換えたもので、あらかじめ設定した固定の質問リストに沿って、患者が回答を入力する形式です。回答によって質問が分岐するロジック(ドリルダウン形式)を持つものもあります。
AI問診
患者が入力した主訴や症状に基づき、AIが最適な質問を動的に自動生成するシステムです。その基本となるのは、膨大な医学論文や臨床データなどを学習したアルゴリズムであり、あたかも医療者による予備問診のように、症状を深掘りして関連情報を引き出します。その結果、固定の質問リストでは見落としがちな情報も収集でき、考えられる疾患をリスト化することも可能となります。単なる業務効率化ツールを超えた「診療支援ツール」としての役割を担います。
AI問診によって、医師は診察室で患者と向き合い、より本質的な対話や診察に集中できます。この進化は、問診の目的が「事務的な情報収集」から「臨床的な事前分析」へと移行していることを示しています。
Web問診のメリット
Web問診システムの導入は、業務効率化のみならず、患者満足度向上、スタッフの労働環境改善、ひいては医療の質向上に良い影響を与えます。Web問診の主なメリットを3つご紹介します。
患者の待ち時間の短縮
日本医師会総合政策研究機構(JMARI)は、3年ごとに「日本の医療に関する意識調査」を実施しています。2024年1月に公開されたワーキングペーパーによると、受けた医療の満足度について個別に調査した項目のなかでは、「待ち時間」に「あまり満足していない」または「満足していない」と回答した人の合計が36.8%と最も多くなっていました。※1
この調査結果からわかるように、患者が医療機関に抱く最大の不満は「待ち時間の長さ」といえます。つまり、Web問診の導入によって待ち時間を短縮できれば、患者のストレス軽減、クリニックに対する満足度や信頼感の向上など、再診率の維持および良好な口コミによる新規患者の獲得につながる可能性もあるのです。
受付業務の効率化により、医療スタッフの業務負担を軽減
Web問診と電子カルテの連携により、問診内容の転記作業が不要になります。これまで問診票の処理に費やしていた時間を、患者への丁寧な案内、電話対応、会計業務などに充てることができます。業務負担の軽減は、スタッフの満足度向上、多忙な医療現場におけるバーンアウト(燃え尽き症候群)の予防など、人材の定着にも貢献します。
また、Web問診によって発熱や症状を事前に把握できるので、患者の来院時の動線を最適化でき、院内感染のリスク管理にも効果的です。
正確な情報収集による医療の質向上
Web問診は、医療の質そのものを向上させる可能性があります。
- 判読不能な文字や転記ミスといった、情報の正確性を損なうリスクを排除できる
- 患者の回答に応じた質問を深掘りし、詳細で多角的な情報収集が可能になる
- 医師は診察を開始する前に、構造化された質の高い患者情報(主訴など)を確認できる
これにより、身体所見の確認から検査・処置の指示、診断、治療方針の説明といった、医師にしかできない本質的な医療行為に集中できるようになります。
これらのメリットは相互に関連し合っています。時間の余裕が生まれ、スタッフの負担が軽減し、より丁寧な患者対応が可能となることで、患者のさらなる満足度向上へとつながるのです。この「効率と質の好循環」こそが、Web問診がもたらす最大のメリットといえるでしょう。
Web問診導入への課題
Web問診の導入にはいくつかの課題も存在しますが、適切な対策をとることで管理可能なものに転換できます。ここでは、Web問診のデメリットを「導入を成功に導くための留意点」として解説します。
操作に慣れるまで時間がかかる
新しいシステムの導入には、スタッフと患者の双方にとって慣れが必要です。
【対策】スタッフへの事前のトレーニングと、不慣れな患者にも柔軟に対応できる環境作りが大切です。
- スタッフのトレーニング
ユニバーサルデザイン(文字の大きさ、ボタンのわかりやすさなど)に配慮した直感的に操作できるシステムを選び、導入時にはベンダーによる十分なトレーニングを受けることが重要です。また、システム選定の段階からスタッフたちの意見を取り入れることで、導入後はスムーズな運用が可能になります。 - 患者の補助や代行入力
来院前のWeb問診への入力を基本としながらも、院内にタブレットを設置して、スタッフによる操作の補助や代行入力ができる環境を準備するのがよいでしょう。問診の内容には複数の選択肢を設定するとともに、回答を無理強いしないことで、患者の不安を軽減することができます。 - 導入初期は紙問診と併用
特に導入初期は、選択肢として紙の問診票を残し、患者が自分に合った方法を選べることが大切です。いきなり「Web問診になりました」とするよりも、デジタル化への抵抗感を和らげることができます。
導入や維持に費用がかかる
Web問診システムを導入するには、初期費用と月額のランニングコストが発生します。電子カルテの種類によっては、Web問診システムとの連携に追加費用がかかる場合もあるため、表面的な価格だけでなく総所有コスト(TCO)で判断することが重要です。
【対策】 Web問診の導入にかかる費用は、単なる「コスト」ではなく、明確なリターンが期待できる「投資」ととらえることができます。
以下は、導入によって得られるリターンの一例です。
- スタッフの残業時間削減による人件費の抑制効果
- ペーパーレス化によるコスト削減効果
- 業務効率化による診察患者数の増加、および増収効果
また、「IT導入補助金」などの公的な助成制度もあります。IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等(医療法人を含む)のITツール導入を支援するものです。ベンダー選定の際に、合わせて確認するのがよいでしょう。
関連記事:クリニックのための電子カルテ導入費用ガイド:IT導入補助金2025についても解説
Web問診システムの選び方のポイント
自院に最適なWeb問診システムを選定するためには、多角的な視点からの評価が不可欠です。以下の7つのポイントを基準に、複数のシステムを比較検討しましょう。
1.操作性
スタッフやあらゆる年代の患者が直感的に使えることが重要です。文字の大きさ、画面遷移のわかりやすさなどを、無料トライアルやデモで必ず確認しましょう。スタッフ全員に一度は画面を操作してもらい、感想をヒアリングするのもおすすめです。
2.カスタマイズ性
診療科の特性や医師の診療スタイルに合わせて、問診項目を追加または編集できる柔軟性は必須です。季節による感染症の流行など、状況に応じて迅速に問診票を変更できるかどうかも確認しましょう。
3.機能の充実度
AIによる質問の自動生成、診察セットや医薬品の提案、予約システムとの連携など、自院のニーズに合った付加機能が備わっているかを確認しましょう。回答内容を医療用語に自動で変換する機能や、患者層によっては多言語対応機能が必要なケースもあります。
4.他のシステムとの連携
電子カルテとシームレスに連携できることで、Web問診システムは真価を発揮します。既存の電子カルテや予約システムとの連携実績、連携方法(自動転記か手動か)、連携にかかる費用などを確認しましょう。
5.セキュリティ
問診情報は極めて機微な個人情報です。厚生労働省などが定める「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠していることは絶対条件です。※2
データの暗号化通信(SSL/TLS)、アクセス制御、サーバーの堅牢性など、ベンダーのセキュリティ対策を厳しくチェックする必要があります。
6.費用
初期費用や月額費用に加え、電子カルテシステムとの連携にかかる費用やメンテナンス・サポートにかかる費用などを含めた、総所有コスト(TCO)で比較検討しましょう。IT導入補助金などの対象となるかも重要な判断材料です。
7.サポート体制
ベンダーのサポート体制の充実度は、安心してシステムを使い続けるための生命線です。導入時の設定支援やスタッフへのトレーニング、運用開始後のトラブルシューティングなどを想定し、電話、オンライン、訪問など、サポートの形式や対応時間も確認しておきましょう。
ユヤマのWeb問診「BB問診」のご紹介
「使いやすく高機能なAI問診で、診療業務を効率化したい……」
「電子カルテとWeb問診を一緒に導入したいけど、連携するのにさらに費用がかかりそうで心配……」
「Web問診の導入後も、しっかりサポートしてほしい……」
Web問診の導入にあたって、このような課題に悩まれているクリニック様も少なくありません。搭載されているAIの精度や、電子カルテシステムとの連携はもちろん、導入前のトレーニングや導入後のサポート体制も重視したいポイントといえます。
当社の無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズでは、オプションとしてAIによるWEB問診機能「BB問診」をご用意しております。クリニックの業務効率化と医療の質を両立する、BB問診の主な特徴を3つご紹介します。
多彩な問診項目
ボタン形式、リスト形式、テキスト入力など、項目にあわせた回答形式を設定できます。以下は、BB問診の入力方式のサンプルです。
この他にも、条件設定や問診スキップなども設定可能です。また、同じ症状で再来院する場合は過去の問診内容を指定できるので、患者の入力の手間を省けます。
なお、初診患者の場合は新規登録をしてからログインし、再診以降は診察券の患者IDを入力してログインする仕組みとなっています。
シームレスな電子カルテ連携
BB問診は、患者が診察前に回答した問診内容を電子カルテに自動転記します。転記ミスや記入漏れの心配がなく、事務処理の効率化に役立ちます。BrainBoxシリーズとの連携にかかる費用は、オプション料金に含まれています。
AIによる診療支援
BB問診の最大の特徴は、問診内容と過去の電子カルテに記録されている病歴や処方履歴といった情報を、AIが自動で紐付けて解析する点にあります。この統合的な分析に基づき、AIは病名の候補を提示します(提案病名の確度はデータ量により異なります)。推奨される医薬品や検査、画像といったオーダーの候補まで提案するため、診断の精度向上や算定漏れ・オーダー漏れの防止に貢献します。
さらに、ユヤマならではの信頼性の高いサポート体制も、多くのクリニック様に評価いただいています。
当社ではクリニック様ごとに専任営業を配置し、万全のサポート体制を提供しています。電子カルテおよびBB問診の導入後も同じ担当者が責任を持って、クリニック様に寄り添い、日々の運用を伴走しながらサポートいたします。
ユヤマの無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズについては、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:【新製品】クラウド型電子カルテ BrainBox CloudⅡのご紹介
関連記事:BrainBox新シリーズ、BrainBoxV-Ⅳについてご紹介!
Web問診に関するFAQ
Q1:問診内容を簡単にカルテに転記できますか?
A: はい、可能です。
患者様が記載した問診内容は、診察開始時に問診パネルでご確認いただけます。その画面から内容を参照しながら、簡単にカルテへ転記できます。
Q2:Web問診を導入する際、自院で準備する機器はありますか?
A: 必ずしも特別な機器のご用意は必要ありません。患者様ご自身のスマートフォンで、QRコードを読み取ってご利用いただけます。
ご希望に応じて、医療機関側でタブレットなどをご用意いただき、それを受付の際に患者様に貸し出して入力いただくことも可能です。
Q3:Web問診の回答形式にはどんなものがありますか?
A: 以下の回答形式に対応しています。
- 単一選択:あらかじめ用意した選択肢から1つだけ選べます
- 複数選択:複数の選択肢を同時に選ぶことができます
- 数値入力:単位を設定することで、数値のみ入力が可能です
- 文字列(単行):1行分の文字入力が可能です
- 文字列(複数行):複数行の文字入力が可能です
Q4:問診票の患者の選択条件により、質問を可変させることはできますか?
A: はい、可能です。
患者様の年齢や性別による条件設定ができるほか、単一選択式設問で特定の回答を選んだ場合に、次の質問をスキップする設定も可能です。
Q5: 身長・体重をテキストで貼り付けるのではなく、問診票の身長・体重欄に反映することはできますか?
A: 現状は、直接問診票内の身長・体重欄へ自動反映することはできません。
今後、対応予定です。
Q6:Web問診の際、おくすり手帳などを写真で添付して電子カルテに送ることはできますか?
A: 写真の添付機能には対応しておりません。
Q7:患者がWeb問診を入力しているかどうかは、電子カルテ上でわかりますか?
A: はい、確認できます。
BrainBoxの受付リスト内に「問診票」欄があり、問診票が入力済かどうかを一目で把握できます。
Web問診は患者満足度の向上と業務効率化を支えるツール
本記事では、Web問診の基本、AIによる進化の可能性、メリットと導入への課題、そしてクリニックに最適なシステムの選び方について解説しました。
Web問診は、患者の待ち時間を短縮し、スタッフの業務負担を軽減するだけでなく、より正確で詳細な情報を収集することで医療の質そのものを向上させます。患者満足度の向上と業務効率化を実現する、現代のクリニック経営に不可欠なツールといえます。操作性や費用、セキュリティといった多角的な視点でWeb問診システムを選定し、患者やスタッフに配慮した計画的なプロセスで導入することが大切です。
参考資料
※1 日本医師会総合政策研究機構. 日医総研ワーキングペーパー. 第8回 日本の医療に関する意識調査.
※2 厚生労働省. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版 概説編.

株式会社ユヤマ

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