現地体験レポート:カナダの薬剤師と調剤機器事情
前回のコラムで、和歌山県立医科大学薬学部の社会・薬局薬学研究室の鈴木 渉太先生による香港の薬剤師事情についてレポートをお届けしました。第二弾として、鈴木先生と同じ和歌山県立医科大学薬学部の社会・薬局薬学研究室 教授 岡田浩先生より、カナダにおける薬局の調剤事情についてレポートしていただきます。
岡田先生が帰国して京大SPHに就かれる前に研究拠点を構えていらしたのがカナダ。なかでも、いち早く薬剤師の職能が拡がったアルバータ州を中心に幾度も見聞していらっしゃるので、現地の状況の変遷も交えた内容をお楽しみください。
日本とカナダの調剤方法の違い
カナダで薬局を訪れると最初に気づくのが調剤の方法の違いです。日本では、医薬品の錠剤はPTP(Press Through Package)包装が主流です。そのため、薬局で薬剤師はこのPTPを数えて薬袋に入れたり、場合によっては一包化するといったことが一般的な調剤業務になっています。
一方カナダでは、いわゆるボトル調剤が行われています。これは、医薬品は大容量ボトルから必要な数だけ取り出され、患者ごとにラベル付きの小瓶に詰め替える方式で、主に北米で行われています。
カナダでは、この調剤業務は主に「調剤補助者」(Pharmacy TechnicianやPharmacy Assistant)*1 が行うことが一般的です。薬剤師は、臨床的判断や服薬指導、処方の監査といったより責任の重い高度な専門業務を担っています。調剤については分業化と機械化が進んでおり、日本のように薬剤師がすべての調剤を担う体制とは異なっています。分包まで行っている日本の薬局とは業務の構造が異なっています。

テクニシャンによる調剤。ボトル渡しなので錠剤を数えている様子
調剤の自動化が進むカナダ
この分業体制を支えているのが「調剤の自動化」です。カナダでは、ボトルへの錠剤充填を行う専用の自動充填機が導入されている薬局が多く、調剤の正確さと時間短縮の両立に大きく貢献しています。とりわけチェーン薬局では、こうした自動調剤機器が標準装備されつつあります。
調剤自動化の流れは、カナダでも進む社会の高齢化に対応する形で、ますます加速しています。これまで高齢者向けの服薬支援といえば、「ブリスターパック」が主流でした。1週間分の朝・昼・夜・寝る前などを一つのシートにまとめる方法です。このブリスター調剤は手作業で行うため、誤調剤のリスクや人件費の課題が従来から指摘されていました。
近年、こうした課題を解決するため、カナダでも一包化に対応した全自動分包機が薬局で導入されています。日本ではおなじみの一包化調剤ですが、従来はあまり見かけませんでした。
しかし、近年カナダでも導入が進み、一包化後の監査機器もセットで導入されているのを見かけるようになりました。調剤業務の標準化と省力化を図るうえで、自動分包機はまさに社会の変化に伴う薬局業務の変化に応えるツールとなりつつあるようです。

投薬窓口:現在もカウンターでの投薬が主流だが、パーティションで区切られ座って話すタイプも増えている
日本の調剤機器メーカーが果たす役割
さらに近年、カナダでは薬局の集中調剤センター(Central Fill Pharmacy)*2 も発展しています。複数店舗の処方を一括で調剤・分包し、各薬局に配送する専門施設です。高性能なロボット調剤機器が大量の処方に対応しており、薬剤師は店舗での服薬指導や臨床業務に専念できるという利点があります。調剤業務の効率化によって、薬剤師の業務である患者中心のケアが推進されています。
日本発の調剤機器メーカーが、カナダを含む世界市場で果たせる役割はますます大きくなっていくと思われます。
*1 Pharmacy TechnicianとPharmacy Assistantの違い(カナダ)
Pharmacy Technicianは、調剤行為においてより専門的・法的責任を担う職種で、州政府に登録された準医療専門職です。正確な処方内容の確認、ラベルの作成、最終的な薬の準備などを担当します。Pharmacy Assistantは薬剤師やテクニシャンの補佐役で商品の管理、患者への受け渡し補助などの業務のサポートを担います。Pharmacy Technicianは認定プログラム修了と資格試験の合格が必要ですが、Pharmacy Assistantは現場経験のみの場合もあるそうです。
◆参考URL
Pharmacy Technician, Alberta Health Services:
Scope of Practice for Alberta Pharmacy Technicians:
*2 集中調剤センター(Central Fill Pharmacy)
Central Fill Pharmacy(集中調剤センター)とは、複数の薬局から送られた処方箋データを一括して調剤・分包する施設で、調剤の自動化と集約化を目的としています。センターではロボット調剤機器や自動分包機が活用されており、完成した薬は各薬局へ配送されます。
◆参考URL
Ontario College of Pharmacists: Pharmacy: Centralized Prescription Processing (Central Fill)
ISMP Canada: Central Fill Services for Community Pharmacies
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