クラウド型電子カルテの特徴とメリット・デメリットを解説:クリニックに導入する際のポイントも紹介
近年では医療現場における情報管理の重要性が高まっており、電子カルテの導入を検討するクリニックが増えています。導入のしやすさや機能の拡張性、初期投資の低さから「クラウド型電子カルテ」を検討されている先生方も多いかもしれません。クラウド型電子カルテはインターネット経由でサービスを利用するため場所を選ばずにアクセスでき、アップデートやメンテナンスなどの保守作業の負担も軽いのがメリットです。クラウド上にデータが保存されるため、災害対策の面でも一定のリスク分散につながります。
本記事では、クラウド型電子カルテの基本的な特徴やメリット・デメリット、クリニックに導入する際の選定ポイントについて解説します。
電子カルテの進化とクラウド化の波
医療情報のデジタル化は、クリニック運営の効率化と医療の質向上に不可欠な要素といえます。その中核をなす電子カルテの歴史と普及の背景、そしてクラウド化の流れについて解説します。
電子カルテの歴史と普及の背景
電子カルテは、従来、紙で管理されていた診療録(カルテ)を電子的なデータとして記録・管理するシステムです。患者の基本情報、病歴、診療内容、検査結果、処方内容など、診療に関するあらゆる情報が一元的に集約されます。
日本における電子カルテの歴史は1999年に遡ります。当時の厚生省(現:厚生労働省)が発出した通知により、電子保存の三原則である「真正性」「見読性」「保存性」を満たすことを条件に、診療録の電子的な保存が正式に認められました。※1
関連記事:電子カルテの「電子保存の三原則」とは?守らないと罰則の可能性も
従来の紙カルテには、情報の検索性、リアルタイム共有の難しさ、保管スペースの確保といった課題がありました。医療技術の進歩や情報化社会への移行に伴い、これらの課題を解決し、より効率的で質の高い医療を提供するためのツールとして電子カルテの普及が進みました。
電子カルテの導入によって、手書きでの記入や膨大なカルテの中から必要な情報を探す手間が省け、業務の大幅な効率化が期待できます。PCやタブレットの画面を患者と一緒に見ながら説明したり、紙のカルテを保管していたスペースを有効活用したりできる点も大きな魅力です。
クラウド型電子カルテの登場と特徴
2010年、厚生労働省より「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正が通知されました。この通知では、診療録等を医療機関等以外の場所へ外部保存する際の基準が示されています。※2
電子カルテが普及し始めた当初は、院内にサーバーやシステムを構築するオンプレミス型が主流でしたが、この通知以降、クラウド型電子カルテが普及しはじめます。
クラウド型電子カルテとは、インターネット回線を介して電子カルテシステムを提供する事業者が管理する安全なサーバーにアクセスし、医療情報を記録・編集・管理する形態の電子カルテです。初期費用や専用設備の導入コストを大幅に抑えられるため導入のハードルが低く、特に大規模なシステム投資が難しい小規模のクリニックや無床診療所を中心に急速にシェアを伸ばしました。
クラウド型電子カルテの登場により、従来は規模の大きい病院が中心だった高度な情報管理システムが、多くのクリニックにとって身近になったといえます。
クラウド型電子カルテのメリット
クラウド型電子カルテにはさまざまなメリットがあり、多くのクリニックで導入されています。クラウド型電子カルテの主なメリットを5つご紹介します。
初期費用の負担が軽く、毎月の運用コストを管理しやすい
サーバー機器の購入や高額な初期費用が不要、あるいは大幅に削減できるケースが一般的です。また、月額利用料モデルで提供されることが多く、コスト管理がしやすい点も魅力です。
場所を選ばずアクセスできる
インターネット環境があれば、クリニック内はもちろん、院外の往診先やカンファレンス時など、どこからでも必要な患者情報に安全にアクセスできます。例えば、訪問診療の際もその場でカルテを記入して患者と情報を共有でき、迅速な情報共有や柔軟な働き方が実現します。
自動アップデートとメンテナンス
システムのバージョンアップやセキュリティパッチの適用、日常的な保守作業は、基本的にサービス提供事業者が行います。そのため、専門知識を持つIT担当者をクリニックに配置する必要がありません。診療報酬改定などの法改正に伴う更新にも対応しており、手間なく運用を続けられます。
災害対策とセキュリティ
患者の大切な診療データは、物理的に離れた堅牢なデータセンターで厳重に管理・バックアップされます。自院での端末トラブルや災害時でも、クラウド上にデータがあることで一定の災害リスク分散につながります。ただし、クラウド事業者側の障害や大規模災害の影響を受ける可能性もあるため、バックアップ体制や冗長性の確認が重要です。
拡張性と柔軟性
クリニックの発展や診療体制の変化に合わせて、利用する機能を追加したり、データストレージの容量を変更したりしやすいのも特徴です。
クラウド型電子カルテのデメリットと注意点
一方、クラウド型電子カルテにはいくつかのデメリットや注意点も存在します。導入を検討する際には、これらの点も理解しておくことが重要です。
インターネット環境への依存
クラウド型電子カルテは、すべての機能がインターネット経由で提供されるため、安定したインターネット接続が不可欠です。院内の通信環境が不安定であったり、万が一通信障害が発生したりした場合には、カルテの閲覧や編集ができなくなる可能性があります。信頼性の高い通信回線の確保や、オフライン時にも最低限の機能が使えるかなどを事前に確認しておくとよいでしょう。
なお、当社の「BrainBox CloudⅡ」では、インターネット障害時にも診療に支障をきたさないよう、院内にサブサーバーを設置いたします。
カスタマイズ性の制限
クラウド型電子カルテは、多くの医療機関が共通のシステムを利用します。そのため、オンプレミス型に比べて各クリニックの独自の運用に合わせた細かなカスタマイズが難しい場合があります。ただし、近年では機能が豊富でカスタマイズ性の高いクラウド型電子カルテも増えています。自院の診療フローや使い方に合った製品を選ぶことが大切です。
セキュリティに関する留意点
患者のデータを外部のサーバーに預けることに、セキュリティ面での不安を感じる先生方もいるかもしれません。確かに、サービス提供事業者のセキュリティレベルに依存する側面はありますが、多くの事業者は専門的な知見に基づき、国のガイドラインに準拠した高度なセキュリティ対策を講じています。データセンターの安全性や暗号化の方式、アクセス管理の仕組みなど、事業者がどのような対策を行っているかを具体的に確認し、納得できるサービスを選ぶことが重要です。
オンプレミス型とクラウド型 電子カルテの比較
特徴 | オンプレミス型 | クラウド型 |
---|---|---|
初期費用 | 高額(サーバー購入) | 低額または不要(月額利用料が中心) |
サーバー管理 | 自院で管理する必要がある | 提供事業者が行う |
アクセス場所 | 原則として院内限定 | インターネット環境があれば院外も含めどこでもアクセス可 |
メンテナンス | 自院で対応または別途保守契約が必要 | 提供事業者が実施(月額利用料に含まれる場合が多い) |
データバックアップ | 自院で管理・実施する必要がある | 提供事業者がデータセンターで実施 |
セキュリティ | 自院で対策する必要がある | 提供事業者が専門的な対策を実施 |
カスタマイズ性 | 高い | 製品による(一般的に制限あり) |
ネット環境依存度 | 低い | 高い |
クラウド型電子カルテが実現する業務効率と医療の質向上
クラウド型電子カルテの導入は、単に紙カルテを電子化するだけでなく、クリニックの日常業務のあり方を大きく変え、医療の質向上にも貢献する可能性を秘めています。
患者情報のリアルタイム共有
受付での患者情報確認、看護師による予診入力、医師の診察、そして会計処理に至るまで、各部門が必要な情報に迅速にアクセスできます。スタッフ間の情報共有が格段にスムーズになるため、業務の流れが円滑化し、患者の待ち時間短縮にもつながります。
事務作業の負担軽減
紙カルテの検索、取り出し、運搬、保管といった物理的な作業がなくなり、事務作業の負担が大幅に軽減されます。また、紙カルテを保管するためのスペースも不要となります。
当社が提供するクラウド型電子カルテ「BrainBox CloudⅡ」には、業務効率化に貢献する具体的な機能が搭載されています。そのひとつが、AIを活用したWEB問診機能「BB問診」です。患者が来院前や待合室で自身のスマートフォンなどから問診に回答すると、その内容が電子カルテに自動で転記されます。問診票の手入力作業が不要になり、記入漏れや判読不能、転記ミスを防ぐことができます。スタッフの業務時間短縮にもつながり、患者とのコミュニケーションやケアにより多くの時間を割けるようになることで、患者満足度の向上も期待できます。
多様な診療シーンに対応
クラウド型電子カルテは、インターネット環境があれば院内外を問わずどこからでも情報にアクセスできます。場所を選ばずカルテを利用できるため、医療提供の機動性が高まり、多様な診療シーンに対応できます。
なお、当社のBrainBox Cloudシリーズと互換性のあるカルテアプリケーション「BrainBox Mobile Client(BMC)」は、WEBブラウザで動作するため、特定のPCへのソフトウェアインストールが不要です。これにより、訪問診療先や複数の診察室、処置室など、さまざまな場所から柔軟にカルテ情報へアクセスし、記録できるようになります。
診療の質を高めるデータ活用
オンプレミス型・クラウド型いずれの電子カルテも、患者の過去の診療記録、検査結果、アレルギー情報、投薬履歴などを瞬時に参照できるため、より正確な情報に基づいた迅速な診断や治療方針の決定が可能になります。特に、データベースやAIによってアレルギー情報や禁忌薬といった重要な医療情報を見落としにくくする機能が搭載されている場合、医療安全のさらなる向上が実現します。
さらに、クラウド型電子カルテは臨床面での意思決定支援だけでなく、データに基づいた効率的かつ質の高いクリニック経営を実現するための戦略的ツールとしての側面も持ち合わせています。
当社の「BrainBox CloudⅡ」には、経営支援ツール「Cloud BB.INSIGHT」が搭載されています。電子カルテに蓄積された自院の診療データをAIが分析・予測し、経営判断に役立つ情報を提供する機能です。例えば、診察待ち時間の予測や、疾患別の患者数推移や処方傾向などを把握するだけでなく、他のBrainBox CloudⅡユーザーの匿名化された医療統計と自院の状況を比較することもできます。客観的なデータに基づいたクリニック運営にご活用いただけます。
ユヤマのクラウド型電子カルテ「BrainBox CloudⅡ」の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:【新製品】クラウド型電子カルテ BrainBox CloudⅡのご紹介
自院に最適なクラウド型電子カルテを選ぶためのポイント
クラウド型電子カルテのメリットを最大限に活かすためには、自院のニーズに合ったシステムを選び、適切に運用することが重要です。選定のポイントを4つご紹介します。
ポイント①:機能の過不足をチェック
まず、自院の診療科の特性、日々の診療フロー、将来的な事業展開などを考慮し、必要な機能が網羅されているかを確認する必要があります。価格を抑えることを優先するあまり、必要な機能が不足してしまうと、せっかく導入したのに業務効率が上がらない可能性があります。逆に、実際に使わない機能を盛り込みすぎても、コストパフォーマンスが悪くなってしまいます。自院の使い方に合った製品を選ぶことが推奨されます。
ポイント②:操作性とサポート体制
医師やスタッフにとって直感的でわかりやすい操作性かどうかを、デモンストレーションやトライアルであらかじめ確かめるのがよいでしょう。開業前・システム導入時のトレーニング、運用開始後の問い合わせ対応、トラブル発生時のサポート体制なども、安心して利用を続けるための重要な確認ポイントです。
当社では、開業前にインストラクターが現地に訪問し、詳細に操作説明をいたします。また、導入後も同じ専任営業が担当するため、安心してご使用いただけるようサポートいたします。
ポイント③:セキュリティ対策の確認
医療情報は極めて機密性の高い個人情報です。サービス提供事業者がどのようなセキュリティ対策を講じているか(データの暗号化、不正アクセス防止策、アクセス権限管理、データセンターの物理的セキュリティ、バックアップ体制など)を確認することが不可欠です。
ポイント④:他の機器・システムとの連携機能の確認
レセコンや各種検査機器、予約システムなど、クリニックですでに使用しているシステムや将来的に導入を検討している機器・システムとの連携が可能かどうかも確認しておきましょう。スムーズなデータ連携は、業務効率をさらに高める上で欠かせません。
予算に加えてこれらのポイントを総合的に比較検討し、自院の規模や診療スタイル、将来のビジョンに最も適したクラウド型電子カルテを選ぶことが、導入成功への鍵となります。
クラウド型電子カルテでクリニックの未来を切り拓く
本記事では、クラウド型電子カルテの基本的な特徴やメリット・デメリット、自院に合ったシステムの選び方について解説しました。クラウド型電子カルテは、紙カルテの管理や情報共有の煩雑さから医療現場を解放し、より効率的で質の高い医療サービスを提供するための強力なツールとなり得ます。
適切なクラウド型電子カルテを選び、その機能を最大限に活用することで、クリニックの業務負担を軽減できます。患者一人ひとりへのきめ細やかな対応が可能となり、結果として患者満足度の向上
にもつながります。さらに、データに基づいた的確な経営判断により、変化の激しい医療環境においても持続可能なクリニック経営の実現に貢献することが期待できます。
参考資料
※1 厚生労働省. 報道発表資料. 平成11年4月. 診療録等の電子媒体による保存について.
※2 厚生労働省. 「診療録等の保存を行う場所について」の一部改正について(平成22年2月1日).

株式会社ユヤマ

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