医療DX事例(かねだ内科クリニック様):費用対効果の検討と全員にとっての業務効率化が成功の鍵

厚生労働省は現在、「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、電子カルテや電子処方箋の普及、マイナ保険証の利用(オンライン資格確認)、医療情報の共有や二次利用など、多角的に医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。
本記事では、厚生労働省が進めている医療DXについて、電子カルテや電子処方箋の普及の現状を解説し、実際に医療DXを進められているかねだ内科クリニック様の導入事例についてご紹介します。
医療DXと電子カルテの普及率について
「医療DX令和ビジョン2030」で掲げられているように、厚生労働省では「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」とされています。しかしながら、2023年度の医療施設調査によると、電子カルテの普及率は一般病院全体では65.6%、一般診療所(医科)で55.0%にとどまっています。これに対して厚生労働省は新たな対応策を掲げ、特に無床診療所における電子カルテのさらなる普及を促進しています。(2025年12月時点)※1

引用元:厚生労働省. 電子処方箋・電子カルテの目標設定等について ※1
かねだ内科クリニック様における医療DX
ではここで、実際に医療DXへの取り組みを進めているかねだ内科クリニック様(岡山県倉敷市)の事例をご紹介します。かねだ内科クリニック様は糖尿病・内分泌疾患の専門医であり、生活習慣病の合併症予防や一般の内科診療にも取り組んでおられます。2021年の開業当初から、当社の無床診療所様向け電子カルテ「BrainBoxV-Ⅲ」を導入いただき、今後は「BrainBoxV-Ⅳ」へのアップデートも予定されています。
院長の金田伊史様に、医療DXの取り組みについて伺いました。
かねだ内科クリニック様ですでに導入済の医療DX関連システムについて教えてください。
金田先生:「まず、ユヤマさんの電子カルテはレセコン一体型で、予約システムも同じ画面で見られるようになっています。ファイリングシステムや各種検査機器とのデータ連携、他社のWeb問診も導入しており、電子処方箋とEHR連携も導入済です。
ただし、電子処方箋に関しては、導入はしたものの利用実績はありません。そもそも患者さんからのご要望がないからです。
予約に関しても、患者さんの都合でどんどん予約を入れてしまうと業務に混乱をきたしかねないため、現状は症状にあわせて電話予約という方法をとっています」
EHR(Electric Health Record:電子健康記録)は、提携している医療機関や地域の中で診療情報を共有・利用できるようにするものですが、どのような経緯で導入されましたか?
金田先生:「当院が入る医療モール内にEHR連携に対応した調剤薬局が入っており、当院でも連携が行えるように開業当時から環境を整備しています。電子カルテ選定の際に他社のクリニック用電子カルテも確認しましたが、その当時、選定したメーカーのなかではユヤマさんだけが連携可能でした」
かねだ内科クリニック様のホームページ上には、医療DX推進体制整備についての対応も記されています。医療DX推進体制整備加算への対応状況についてお聞きしたいです。
金田先生:「マイナ保険証の利用率に合わせて加算が得られるというものですね。マイナンバーを用いたオンライン資格確認ができる体制など、加算や国の医療DX方針に対応するための土俵作りは、もちろん漏れなく対応しています」
今後、導入を検討しているシステムはありますか? 医療DXにどのようなことを期待されていますか?
金田先生:「今はWeb問診システムを導入し、生成AIは試用中です。また、キャッシュレス決済の導入を検討しています」
生成AIについて
金田先生:「生成AIについては未知数な部分もあるのですが、主に私自身の業務効率化のために試用しているところです。診察の際、患者さんと会話するだけで必要な処置や処方の提案がチェックボックスなどで整理されるようになれば、非常に助かります。例えば、『喉が赤いですね』と言ったら、『咽頭の発赤あり』という文章を生成してくれるとか。すでに、『お薬、抗生剤を3日間出しますね』と言えば『抗生剤処方3日間』という文章が一定のレベルで整理できる生成AIもいくつかあるようなので期待しています。
紙ベースの問診票は見やすいですし、患者さんの主訴を証拠として残せますが、転記作業が必要になります。私自身、診察終了後に毎日3時間ぐらい残業していて、そのなかには患者さんとの会話を整理して電子カルテに記録として残すための時間も含まれています。Web問診の活用や生成AIが導入できれば診療時間そのものも効率化できますし、漏れがない診療の効率化にも期待しています」
キャッシュレス決済について
金田先生:「キャッシュレス決済は、当院も含め、このエリアでは導入されているクリニックはまだまだ少ないです。当院の場合、特殊な治療などを行った際は高額になる患者さんもいることから、キャッシュレス決済は今後導入予定です」
医療DX導入後に感じたメリットはありますか?
金田先生:「クリニック向けの電子カルテを導入したことで、初診人数の推移や患者さんの年齢層、使用している薬の割合など、経営判断に活かせるさまざまなデータが取りやすくなりました。レセプトとの連動は事務スタッフも助かっていると思いますし、欲しい書類や情報を比較的迅速にピックアップできるのもいいですね。
電子カルテ以外であれば、多方面からおすすめされた他社のファイリングシステムは、費用対効果も含めてとても優れものです。医師が開発したシステムであり、医師にとって非常に使いやすいです。ユヤマさんの電子カルテと連携してもらっていますが、現状トラブルはありません。当院内で行った検査結果(心電図、エコー、レントゲン、採血)や診療情報提供書などの書類がファイリングシステムに集約されています。ファイリングシステムと電子カルテの連携により、必要なデータを電子カルテからスムーズに参照できるのは、とても助かっています」
医療DX推進に対する課題・デメリット
国の施策でもある医療DXを推進するにあたって、何かデメリットに感じておられることはありますか?
金田先生:「費用対効果に対する懸念です。新しいシステムの導入には、クリニック側での費用負担が伴います。例えば、先ほど導入予定とお話ししたキャッシュレス決済は、クレジットカードにしてもバーコード決済にしてもクリニック側が手数料を負担します。当院の利益は減るかもしれませんが、患者さんが困らないよう、キャッシュレス決済はやらなければいけないかなと思っています。
こういった費用は、ひとつひとつは小さくても積み重なると負担が大きくなります。医療DXというのはそういう側面もあるので、クリニックの経営と天秤にかけることになります。国が推進している医療DXは大概取り入れていますが、義務ではないものに関しては、患者さんのニーズが高くない場合は必ずしも導入していないものもあります」
電子処方箋については、「導入したものの利用実績はない」とおっしゃっていましたが、患者さんの反応はいかがですか?
金田先生:「電子処方箋については、厚生労働省が推進しているので導入していますが、現在までに利用実績はありません。患者さんから『電子処方箋にしてほしい』という依頼がないからです。地域におけるニーズがないのかもしれませんし、今のところあまりメリットは感じられないのかなと思います。
EHR連携でいうと、医療情報の共有に関してはほとんどの患者さんが同意してくださっています。院内掲示やモニターで映像を流すほか、患者さんにも『診療後に、処方の内容が(連携している)薬局に共有されますよ』と説明しています。EHR連携のために当院で何か操作が必要ということもなく、疑義照会があったときに内容を確認する程度です。
患者さんから直接『早く終わって良かったよ』のような言葉をいただいたことはありませんが、薬局に聞いたところでは、『(薬の準備が)早くできて患者さんとの対話に時間がとれるので、サービスの向上になっている』という話はありました」
なお、デジタル庁によると、2025年9月時点で電子処方箋の運用を開始している施設の割合は薬局では85.9%と高い一方で、病院では16.1%、医科診療所では22.5%にとどまっています。電子処方箋の利用申請済の施設を見ると、病院は37.1%、医科診療所は48.8%となっていることから、かねだ内科クリニック様と同様に「電子処方箋を導入したものの、実際にはまだ運用していない」という医療施設が多いことがうかがえます。※2、3
まだ普及が進んでいない電子処方箋ですが、診療の質の向上という点では一定の効果が見られていることも事実です。2025年8月の処方情報登録件数は936万件でした。このうち、電子処方箋を導入した医療機関や薬局において、重複投薬アラートの発生件数は約917万件(月間)、併用禁忌アラートは約1.4万件(月間)発生しており、いずれも増加傾向にあります。これを受けて厚生労働省は、「処方・調剤にあたり重複投薬や併用禁忌のリスクの防止につながっている」と評価しています。※3

引用元:厚生労働省.電子処方箋の普及・活用拡大に向けた対応状況 ※3
医療DXに取り組むためのポイント
地域医療を支えるクリニックにおいて、医療DXに取り組んでいくために意識すべきポイントはありますか?
金田先生:「1つ目は、導入の目的を『全員の業務効率化』に置くことです。医師だけではなく、スタッフ、そして患者さんにとってもメリットがあるかを見極めることが大事です。例えば、(Web問診や生成AIなどを活用して)診察室に入る前にできることを先に進めておくことができれば、患者さんにとっても診察時間や待ち時間が短くなるし、スタッフや医師にとっても業務の終わりが早くなります。『時は金なり』なので、そういった『全員にとっての効率化』を考えて導入するようにしています。
2つ目は、導入目的を共有し、スタッフの協力体制を築くことです。『なぜこのシステムを入れるのか』を明確にスタッフに伝えて共感を得られれば、みんな協力してくれます。スタッフが無理なく使えるよう、操作が難しすぎないシステムを選ぶこと、導入前にスタッフにも実際の操作を体験してもらうことも大切です。
3つ目ですが、いきなりすべてをデジタル化するのではなく、紙とデジタルの良いとこ取りも有効な手段となります。例えば、当院では受付したときに出てくる紙の受付票のチェックボックスやメモ欄に、『こんな検査をした』などの情報をみんなで書き込んで回しています。さらに、電子カルテには診察メモという項目を作ってもらいました。『他の病院の結果を持ってきてください』『紹介状を渡します』などのメモを入れて情報共有ができます。こんな感じで、院内の情報共有ツールとしては紙の受付票と電子カルテのメモ機能を併用しています。紙には紙の良さがあるので、どちらかに偏るのではなく、双方の良いところを利用するといいと思います」
医師、スタッフ、そして患者にとってのメリットを見極め、協力体制を築くことが医療DX成功の鍵
本記事では、厚生労働省が進めている医療DXの概要と、開業と同時に電子カルテシステムを導入してさまざまな医療DXに取り組んでいるかねだ内科クリニック様の導入事例をご紹介しました。
金田先生は医療DXという国の施策に対し、「国が推進する“義務”として取り組むべきものは導入すべきだが、“クリニックの業務効率化”の目的で自主的に取り組むのであれば、本当に今それを導入すべきなのかを見極めることも必要」といいます。医師にとっての業務効率化だけでなく、スタッフや患者にとってもメリットがあるかを見極めること、導入目的を共有してクリニックが一丸となって取り組むことが重要です。
Clinic Profile
かねだ内科クリニック
URL:https://kaneda-dmendo-cl.com/
所在地:千葉県成田市本三里塚78-3
院長:金田 伊史 様
関連記事:ドクターリポート かねだ内科クリニック様
参考資料
※1 厚生労働省. 電子処方箋・電子カルテの目標設定等について.
※2 デジタル庁. 電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード(2025年10月17日)
※3 厚生労働省. 電子処方箋の普及・活用拡大に向けた対応状況.
株式会社ユヤマ
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