クリニックにおける経営分析の基本と電子カルテによる実践手法

物価高騰や高齢化に伴う人口減少、診療報酬改定や医療DXの推進など、クリニック経営を取り巻く環境は激変の最中にあります。本記事では、開業医の先生方がこれらの変化に対応し、持続可能な医院経営を実現するための「経営分析」について解説します。
クリニック経営分析の重要性とは
クリニックを運営する先生方にとって、経営分析は安定と成長に欠かせない要素です。経営分析によって、自院の運営状況や診療の傾向、財務状態などをデータで可視化することで、課題の把握や改善策の立案に役立てることができます。
経営分析がクリニックに与える影響
昨今の物価高騰や賃上げ要請は、クリニックの利益構造を圧迫しています。また、診療報酬改定が実質的な減収要因となるケースもあり、クリニック経営にとって厳しい状況が続いています。
クリニック経営を取り巻く外部環境の変化と、その主な影響は以下の通りです。
| 外部環境の変化 | クリニック経営への影響 |
|---|---|
| 診療報酬改定 | 改定に伴う減収や新たな加算項目、算定要件の変化に伴う事務負担増など |
| 物価・人件費高騰 | 光熱費、医療材料費の上昇に加え、スタッフ確保のための賃上げが必要となり、固定費・変動費ともに増加 |
| 患者数の変化 | 人口減少に加え、コロナ禍以降の受診控えの影響が一部で継続 |
変化が多い状況だからこそ、経営分析を通して収益性や運営効率の向上を図ることが大切です。経営分析を行わず対策を後回しにすると、例えば患者数が思うように集まらなかったり、予想以上にコストがかかったりして経営が行き詰まるリスクあります。経営環境の変化に対応して黒字を維持するためには、データに基づく経営分析と迅速な意思決定が重要です。
経営指標の可視化によるメリット

経営分析の核心は、経営指標を「見える化」することにあります。勘や経験に頼るのではなく、客観的なデータを根拠とした経営判断ができ、適切なタイミングで適切な施策を打ちやすくなります。経営指標の可視化によるメリットの例を2つご紹介します。
課題の早期発見とPDCAの高速化
診療報酬制度の複雑さにより、クリニックの収益構造は把握しにくくなっています。経営指標を可視化することで、自院の収益の柱や弱点を把握でき、改善策を検討しやすくなります。例えば、「新患数は変わらないのにレセプト枚数が急減している」という事象があれば、「再来患者の離脱」という課題が浮き彫りになります。また、月次の収支や患者数の推移をグラフ化すれば、一目で経営状況の変化をとらえることができます。問題が深刻化する前に手立てを打つことができ、PDCAサイクルの高速化が実現します。
スタッフとの課題共有
経営指標の共有によってスタッフ全体で課題認識を持てるようになり、クリニック全体で協力して経営改善に取り組む土壌が生まれます。例えば、「現在の再来率は○%です。これを来月までに○%に改善するために、会計時の次回予約案内を徹底しましょう」といった具体的な数値目標に基づく改善案を共有することで、スタッフはやるべきことを明確に理解できます。データを「見える化」して課題を発見し、具体的な改善アクションにつなげるというサイクルは、クリニック経営の持続的な向上において不可欠といえます。
クリニック経営分析の基本指標
経営分析を実践するためには、基本的な指標を正しく理解し、設定する必要があります。ここでは、クリニック経営において特に重要となる「収益性」「患者動向」「コスト管理」の3つの視点から、具体的指標を解説します。
収益性指標の理解
収益性は、経営の持続可能性を担保する最も基本的な指標です。単に「売上」を見るのではなく、その構成要素を分解して分析する視点が求められます。大まかにとらえると、クリニックの医業収益は以下の計算式で表すことができます。
医業収益 = レセプト枚数(延べ患者数) × 1枚あたり点数(診療単価)
これをさらに細分化したものが、以下の計算式です。
医業収益 = (実患者数 × 来院頻度) × 診療単価
各指標の概要は以下の通りです。
| 指標名 | 概要 | 目標設定の考え方 |
|---|---|---|
| レセプト枚数 | 月間に受診した延べ患者数 | 経営規模を示す基本指標。前年同月比での維持・増加を目指す。季節変動(インフルエンザ等)を考慮して比較する |
| 診療単価 | 患者1人1回あたりの平均収益 | 診療報酬改定の影響を直接受ける指標。診療科ごとの平均値をベンチマークにする。算定漏れがないか、自費診療比率は適切かを確認する |
| 来院頻度 | 患者が月間に何回来院したか | 慢性疾患管理の質に関わるため、疾患ごとの適正な再診間隔が守られているかを確認する。過度な頻回受診は指導対象となるため注意が必要 |
また、医療機関における売上高に対する利益の割合を、医業利益率といいます。※1
医業利益率 = (医業収益-医業費用)÷医業収益×100
中央社会保険医療協議会(中医協)がまとめた2024年度における医科診療所の経営状況を見ると、全体では医業利益の黒字割合が過半数を超えています。ただし、有床か無床か、あるいは大都市型か地方都市型・人口少数地域型かで利益率に差が生じています。特に、昨今は物価高騰に伴うコスト増により利益率は低下傾向にあり、赤字の医科診療所も増加しています。※1
クリニックの安定経営のためには、一定水準の医業利益率を確保する必要があります。経営分析によって自院の利益率を把握し、損益分岐点を意識した経営が求められます。

引用元:厚生労働省保険局医療課. 医療機関を取り巻く状況について(中医協 総-4 7.10.29) ※1
患者数と稼働率の分析
患者数や稼働率など、患者動向に関する指標も重要です。患者数はクリニックの需要を直接反映するため、新患数・再来患者数・予約件数などを定期的に記録・分析します。
新患数と新規率
●新患数
新規にカルテを作成した患者数です。
●新規率
全患者数に占める新患の割合です。新規率が極端に低い場合は、将来的な患者数減少のリスクがあり、何らかの対策を講じる必要があります。
再来率(リピート率)と離脱率
●再来率
初診患者が2回目以降も来院した割合、あるいは既存患者が継続して通院している割合です。
●離脱率
通院を中断してしまった患者の割合です。特に、糖尿病や高血圧などの慢性疾患においては、治療中断は患者の健康リスクに直結するため、経営面だけでなく医療の質管理の面でも重要な指標といえます。
稼働率とキャンセル率
稼働率とは、クリニックの資源(設備や人員、時間枠)がどれだけ有効活用されているかを示す指標です。特に、予約システムを導入している場合、「予約枠がどの程度埋まっているか(予約稼働率)」と「直前キャンセル・無断キャンセルがどの程度あるか(キャンセル率)」の分析は、収益性向上のために欠かせません。
●予約稼働率
低すぎる場合は集患不足、高すぎる場合(常に満枠)は機会損失や患者満足度低下の可能性があります。
●キャンセル率
キャンセルが多いと、スタッフの配置や診療計画に無駄が生じます。Web問診やリマインドメールの活用などの改善策が考えられます。
●検査機器の稼働率
診察室や検査機器の利用状況をデータで可視化することで、「どの時間帯・曜日にどれくらい稼働しているか」「設備に対して患者利用が少なすぎないか」などを確認できます。例えば、維持費が高額な検査機器の稼働率が低い場合は、外注検査に移行するなどの施策が考えられます。
患者の来院傾向
●患者数、平均滞在時間など
曜日ごとの患者数や平均滞在時間など、患者の来院傾向に関するデータは、人員配置や診療スケジュールの最適化に役立ちます。例えば、「平日の午前中に患者が集中して、待ち時間が長くなる」といった傾向がある場合は、診療時間の延長やスタッフ増員による待ち時間対策を打つことができ、患者満足度向上にもつながります。
コスト管理の重要性
利益を最大化するためには、売上を増やすだけでなく、コスト(費用)を適正化することが不可欠です。クリニックの費用構造は、大きく「変動費」と「固定費」に分けられます。
変動費(医薬品費・診療材料費・委託費など)
患者数や診療行為の量に比例して発生する費用です。在庫管理を徹底してデッドストックを削減したり、後発医薬品の採用比率を高めたりすることでコントロール可能です。
固定費(人件費・地代家賃・リース料など)
患者数の増減に関係なく、毎月一定額発生する費用です。
特に、人件費は医業費用の過半数を占めており、年々増加傾向にあります。中医協によると、2018年度および2023年度の事業費用のうち人件費はいずれも5割を超えており、5年間で10.7%増となっています。※2

引用元:厚生労働省保険局医療課. 医療機関を取り巻く状況について.(中医協 総-5 7. 4. 23) ※2
したがって、人件費の適正化による固定費の削減は、クリニックの収益性向上のカギとなります。経営分析ツールを活用し、医師・看護師・事務スタッフなどの職種別の人件費、残業代や夜勤手当などの労務コストを集計して可視化することができます。例えば、曜日ごとの外来患者数と人員配置を分析し、来院傾向に合わせて配置転換をすれば人件費の適正化が望めます。また、事務スタッフの残業時間が長い場合は、電子カルテや受付システムの導入・活用によって業務効率化を図り、残業コストの削減とスタッフ負担軽減につなげることも可能です。
経営分析ツールの選び方

クリニックの経営分析には、Excelなどの表計算ソフトを使うこともできますが、医療業界に特化した専門の経営分析ツールを導入すれば大幅な効率化が期待できます。経営分析ツールを選定する際の4つのポイントをご紹介します。
ポイント① 医療業界特化型か
一般企業向けの経営分析ツールは、診療報酬やレセプトデータ(UKEファイル)の取り扱いに対応していないものがほとんどです。医療機関向けの分析ツールなら、診療報酬点数表や各種加算要件を踏まえた収益分析が可能です。
例えば、診療科目別・医師別・保険種別(国保・社保・自費など)に収益を自動集計する機能や、レセプト枚数や点数算定状況を分析できる機能は、医療業界に特化した経営分析ツールならではの強みです。
ポイント② クリニックの規模や目的に合っているか
経営分析ツールの選定にあたっては、自院の規模や目的に適しているかも考慮しましょう。小規模なクリニックであれば、外来患者の傾向や収益の推移など、必要最低限の指標を見るシンプルなツールで十分です。複数の診療科や診療拠点を有する中規模以上のクリニックの場合は、より詳細な分析機能や複数拠点のデータ統合機能があるツールが望ましいでしょう。
ポイント③ 操作性(ユーザビリティ)
操作性(ユーザビリティ)が優れているツールであれば、忙しい先生方も日常業務の合間に経営データをチェックしやすく、分析結果の活用度が高まります。直感的に扱えるシンプルなUIで、メーカーのサポート体制が整っているツールが望ましいです。導入前にはデモ版やトライアルを通して、画面の見やすさや操作性を確認するとよいでしょう。
ポイント④ スムーズなデータ連携
電子カルテやレセコンから経営分析に必要なデータを自動連携できれば、毎月の分析作業を大幅に省力化できます。十分なデータ連携機能がない場合は、毎回手作業でデータをCSV出力・加工して取り込む必要があり、作業負担が増えるだけでなく人的なミスのリスクも生じます。
最も理想的なのは、電子カルテ自体に経営分析機能が内蔵されていることです。オールインワン型のツールならデータの連携作業が不要で、リアルタイムにカルテ入力データが分析結果に反映されるため、タイムラグのない経営判断が可能となります。
経営分析の実践方法
経営分析ツールを導入した後は、日々の診療を通してデータを収集し、日次・週次・月次・年次など目的に応じて分析を行います。長期的な経営改善につなげるためには、定期的なレビューと改善策の実施も欠かせません。経営分析の実践の一例をご紹介します。
データ収集と分析のプロセス
経営分析を始める前に、データの収集方法と分析プロセスをあらかじめ設計しておくことが重要です。まずは、クリニックで活用できるデータを洗い出し、月次や日次などどのように収集してどのタイミングで分析するかを決めましょう。以下は一例です。
・日次集計:診療データ(患者数、診療報酬点数、処置内容など)
・月次集計:経費データ(人件費、家賃、水道光熱費など)、患者アンケート結果 など
分析にあたっては、前述の基本指標(収益性、患者動向、コスト管理など)ごとにグラフや表を作成し、前月比・前年同月比の変化や目標値との乖離をチェックします。重要なのは、分析結果を経営判断に結びつけるプロセスを回すことです。
【例】
- 月次データの分析から判明した事象「先月は患者数が減少した」
- 週次データを分析して原因を推定「特定の曜日に予約枠が埋まっていない。これが原因では?」
- 分析結果に基づく施策「その曜日だけ診療時間を短縮し、別日に振り替える計画を立案」
- 翌月以降の分析で施策の効果を検証「患者数の減少は改善したか?」
このように、分析→施策実行→結果検証というPDCAサイクルを回すことで、経営分析の効果が実感できるようになります。
定期的なレビューと改善策の実施
経営分析は一度やって終わりではなく、定期的なレビューと継続的な改善が肝心です。経営環境は季節要因や景気、制度改正などで刻々と変化するため、分析も月次・四半期ごとなど定期的な頻度で行うのが望ましいです。定期レビューでは、前回の分析以降に講じた改善策の効果検証も行います。施策の成果を定量的に評価し、新たに見えてきた課題があれば次の施策を計画します。
経営分析をチームで実践する際には、分析結果や改善策のスタッフとの共有も大切です。スタッフ全員が経営状況を把握して目標を意識することで、一体感をもって改善に取り組めます。単に指標を見るだけでなく、データを見える化して具体的な改善行動につなげることが大切です。
ユヤマの経営支援ツール「BB.Insight」のご紹介
「経営分析ができる電子カルテを導入して、クリニックの経営改善に役立てたい」
「無床診療所に最適な経営支援機能を搭載した電子カルテを導入したい」
電子カルテの導入にあたって、このようなニーズをお持ちのクリニック様もおられることでしょう。特に、無床診療所の場合は経営分析を専門に行う人員や部署がなく、経営に携わる先生方が自ら経営分析ツールを操作して経営判断に役立てておられるケースも少なくありません。多忙な診療の合間に分析ができるよう、シンプルな操作で必要なデータを取得し、効率よく分析できることが重視されます。
当社の無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズは、クリニック経営をサポートする経営支援ツール「BB.Insight」を搭載しています。その特徴をご紹介します。
主なインサイト機能とAIによる分析・予測
BB.Insightは、電子カルテに蓄積された自院の診療データをAIが分析・予測し、経営判断に役立つ情報を提供します。具体的には、日々の診療データから以下の指標を自動で集計・可視化できます。
- 患者数(月ごとの新患・再診の人数や推移)
- 診療報酬額(保険種別や診療行為別の収入額)
- 平均滞在時間(患者一人あたりの受付から会計までの時間)
- 主な病名のランキング
- 診療行為の割合(検査・処方・処置など各種行為が収入全体に占める比率)
- リピート率
- 医薬品ランキング
- 先発品・後発品の割合
- 診療行為ランキング
- 新患率
- 平均通院回数
- 初再診割合 など

電子カルテから得られるこれらのデータを、AIが分析・予測するのもBB.Insightの特徴です。例えば、当日の診察待ち時間をAIが予測して表示することができます(予測には1年程度の診療データの蓄積が必要)。

他院の分析データとの比較
BB.Insightは、全国のBrainBoxユーザーから匿名化された医療統計情報を収集しています。自院のデータを他院に公開する設定を行った場合、他のBrainBoxユーザーの匿名化された医療統計と自院の状況を比較することができます。なお、他院へのデータ提供をしない場合も、従来通り自院のデータのみでさまざまな分析が可能です。
電子カルテ一体型ならではの操作性
BB.Insightは「BrainBox」シリーズに標準で搭載されている機能であり、電子カルテ画面から直接、経営ダッシュボードを確認できます。データ連携のために手間をかける必要がなく、電子カルテ上から常に最新の経営指標をチェックできるため、多忙な診療業務の合間にも手軽に操作できます。
▶ まずはオンラインデモで、BB.Insightの実際の操作感やサポート体制をご体験ください。
医療機関の経営分析に特化したツールをクリニックの経営改善に役立てよう
本記事では、クリニックにおける経営分析の重要性と基本的な指標、経営分析ツールの選び方や実践方法について解説しました。
医療機関の経営分析に特化したツールを上手に活用すれば、患者数の増加や収益改善、コスト削減など、さまざまな成果を上げることが可能です。大切なのは、経営分析で得られた示唆に基づき、具体的な改善施策を実行することです。適切な経営分析ツールを導入し、多忙な診療業務のなかでも経営分析を習慣化することで、データに基づく客観的な経営改善が実践しやすくなります。
参考資料
※1 厚生労働省保険局医療課. 医療機関を取り巻く状況について.(中医協 総-4 7.10.29)
※2 厚生労働省保険局医療課. 医療機関を取り巻く状況について.(中医協 総-5 7. 4. 23)
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