電子カルテの導入前後における注意点を理解しておこう
医療機関では欠かすことのできないもの一つにカルテがあります。
医療の進歩にともない業務も煩雑化していましたが、カルテを電子化することで、作業効率を向上させることができるようになりました。
この便利な方法を導入する前に、知っておきたいポイントを紹介します。
紙と電子カルテの違い
医師が診療時に、患者を診察した内容を紙に記載していたのが紙カルテであり、パソコン上に入力するのが電子カルテです。
昔はすべて手書きでカルテを記載していましたが、電子カルテの登場により作業が効率化され、非常に便利になりました。
情報をデータ化することで、必要に応じて編集が可能になるほか、紹介状などの書類作成にも役立ちます。
また、紙カルテの場合は保管場所が必要で管理の手間もかかりますが、電子カルテなら膨大なデータをデジタル領域に保存できるため、管理が容易です。
特に1日に多くの患者が訪れる医療機関では、電子カルテの導入は不可欠と言えるでしょう。
経費への考慮が必要
業務の効率化の観点からすぐにでも導入を検討したいところですが、導入前にはメリットとデメリットを理解しておく必要があります。
特に注意すべき点として、電子カルテの導入には、それなりの経費がかかることが挙げられます。
初期費用だけでなく、毎月の維持費も考慮しなければなりません。
作業が便利になる反面、経費がかかることは避けられないため、施設にとってのメリットを十分に検討するべきです。
ただし、ランニングコストを含めた長期的な視点では、メリットのほうが大きいことがわかります。
最近ではベンチャー企業の参入により、費用を抑えた商品も次々と開発されています。
そのため、最新の情報を集めることも重要です。選択肢が増えることで、導入のハードルも下がるでしょう。
費用の内訳
電子カルテの導入費用は、クラウド型とオンプレミス型によって異なります。
クラウド型の場合はサーバーやソフトウェアを購入する必要がないため、設置や設定のための初期費用で済ませられます。
導入後は月額のシステム利用料を支払う必要があり、データがいっぱいになりそうなときは容量を増やすように申請します。
クラウド型は初期費用を抑えられる一方、カスタマイズ性が低い点に注意が必要です。
一方、オンプレミス型の場合はパソコンとサーバーを用意しなければならないため、数百万円の初期費用が必要です。
サーバーを自院に設置するため、外部からのウィルス侵入やハッキングなどの影響を受けにくい特徴があります。
また、個別の設定ができるためカスタマイズ性が高く、こだわりの機能を搭載することも可能です。
ランニングコストについては、月額の保守費用が発生することがほとんどです。
これらの費用はあくまで一例であるため、導入時に何がいくらかかるのかを確認しておくことが重要です。
システムに慣れるまで時間が必要
これもデメリットの一つですが、導入後にデジタルな対応ができるまでには、ある程度の時間が必要です。
今までアナログに慣れていたところに急にデジタルを導入すると、対応できるまでに時間がかかることがあります。
いくら効率がよくなるとはいえ、操作方法を覚えなければなりません。
日頃から機械に精通している人にとっては問題ないかもしれませんが、不慣れな人にとっては大きな課題です。
また、新しく入ってきた新人スタッフにも指導しなければならないため、初めのうちは逆に時間を取られることになります。
しかし、一度ルーティンが確立されれば、時間の短縮に繋がります。
スタッフにとっても効率化はメリットですから、最初のうちはこれも必要なコストとしてとらえましょう。
早く慣れてもらうためには?
早く操作に慣れてもらうためには、パソコン作業を練習してもらうか、パソコン操作に慣れているスタッフを採用することが有効です。
パソコン作業に慣れていないスタッフの場合、何度も反復練習をしてもらうことで、徐々にスキルを習得することができます。
先述の通り、パソコン作業に慣れてもらうことも教育コストとしてとらえておくことが重要です。
ただし、明確な目標がない状態で作業に臨んでも成果を得られないことがあるため、具体的な目標設定が重要になります。
たとえば、「〇〇を平均〇分以内に終わらせる」といった目標を設定することが考えられます。
また、初めからパソコン作業に慣れているスタッフを雇用することも対策のひとつです。近
年ではさまざまな業種でパソコンを触る機会が多くなっているため、操作に慣れている方が多くいます。
その際、パソコンやプリンター、ネットワークの障害が発生した際に一次対応ができるスキルがあると安心です。
停電の可能性
電子カルテの運用において、危険な自然災害のひとつに停電があります。
普段気を付けていても、こればかりは100%防ぐことは不可能です。
また、その際にデータの破損が発生すると大変なことになります。
そのため、復旧後にすぐ運用ができるようバックアップ体制を整えるなど、事前に手を打っておくことが重要です。
厚生労働省のガイドラインにより、医療機関は医療情報システムの「運用管理規定」を定め、遵守することが義務づけられています。
停電時の対応
停電が発生した際には、来院患者の安全確保と診療の継続・再開を判断することが重要です。
そのため、電子カルテが使えるかどうかではなく、まずは診療ができるかどうかの観点から判断しましょう。
次に、患者の診療録データや医業経営に直結する保険請求データなど大切な情報が保管されている電子カルテサーバの状況を確認します。
電子カルテサーバの電源ケーブルは、UPS(Uninterruptible Power Supply/無停電電源装置)に接続されています。
UPSは電力会社の瞬間的な停電(瞬電)や落雷などによる過電圧を防ぐための電力供給システムです。
停電時にUPSは安全に機器を終了させるための時間を稼ぐことを目的として、電子カルテサーバに電力を供給します。
停電状態が継続しUPS内臓バッテリの蓄電量が減少してくると電子カルテサーバに対して安全なシャットダウンを実行させる為のコマンドを送信し、サーバは通法通りにシャットダウンします。
一日の業務終了時に手動操作でシャットダウンさせるのと同一であり、データが破壊されたり機器が故障したりすることはありません。
注意点として、停電中のUPSは「停電中でも機器の使用を継続できる」為のものではなく、「安全に機器を終了させる為の時間を稼ぐ」ということです。
参考ページ:当社コラムページ「停電時の電子カルテの対応についてご説明」
(https://www.yuyama.co.jp/column/medicalrecord/electronicmedicalrecord-blackout/)
セキュリティ
近年ではインターネットが普及しており、AIやIoTなどさまざまな場面で利用されるようになりました。
医療業界においても同様であり、電子カルテではクラウド型のものがインターネット上でデータのやり取りを行ないます。
高速で大容量の情報をやり取りでき、必要な情報をすぐに取得できる点がインターネットのメリットといえます。
しかし、インターネット上にはハッキングやマルウェア、コンピュータウイルスなどさまざまな危険が潜んでいます。
ハッカーによって院内の情報がハッキングされると、収支情報だけでなく患者さんの情報も漏洩してしまいます。
マルウェアやコンピュータウイルスに感染すると情報漏洩だけでなく、機器が正常に動作しなくなる可能性もあります。
そのため、院内には十分なセキュリティ対策が求められます。
セキュリティ対策には、コンピュータにインストールするソフトウェアだけでなく、従業員への教育も重要です。
たとえば、「院内のコンピュータでは不要な情報を調べない」といったことが教育に含まれます。
このように、従業員に対して定期的な教育や注意喚起が必要です。厚生労働省や経済産業省などの行政機関も、セキュリティに対して危機感を持っており、さまざまな対策を検討中です。
現状では専門家の意見を参考にすることが対策になりますが、インターネットの知識に明るくない医療従事者もいます。
独立行政法人 福祉医療機構では、従業員に対して以下のような教育を推奨しています。
- 経営者向け研修
- システム・セキュリティ管理者向け研修
- 初学者向け研修
- 導入研修
このようにシステムだけでなくスタッフに対しても十分な注意が必要です。
おわりに
大量のデータを扱う上でカルテを電子化することは、多くのメリットがありますが、同時にデメリットも伴います。
費用の面からリスク回避まで、あらかじめ万全の体制を整えておくことが、システム導入に欠かせないでしょう。
株式会社ユヤマ
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