2025.10.15電子カルテ

令和8年度診療報酬改定に向けて議論されているポイントとクリニック経営への影響について解説

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診療報酬改定

令和8年度(2026年度)の診療報酬改定に向けて、厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)では審議会が続けられています。単なる定期的な見直しにとどまらず、国が主導する医療DXによる構造改革や物価高騰への対応、賃上げの推進、社会保障の構造自体の見直しなども踏まえて議論されています。次回の改定は、日々の診療報酬だけでなく、クリニックの収益構造、業務プロセス、そして長期的な経営戦略そのものに大きな影響を与えることが予測されます。

本記事では、「骨太の方針2025」や各省庁がまとめた資料、中医協で交わされている議論に基づいて、令和8年度診療報酬改定に向けて議論されている主要な論点を網羅的に分析します。そして、次回の改定がクリニック経営に与える影響と、開業医の先生方やこれから開業を検討されている先生方に役立つような戦略的な対策について解説します。

令和8年度診療報酬改定の全体像:物価高騰と医療制度改革の狭間で

令和8年度診療報酬改定の全体像を見通すうえで欠かせないのは、医療機関が直面する深刻な経営難と、国の厳しい財政状況という根本的な対立構造を理解することです。診療報酬本体の改定率についての議論、改定の基本方針、審議のスケジュールについて解説します。

診療報酬本体の改定率は? 10%超の大幅なプラス改定を要求するも小幅なプラスに落ち着く可能性

令和6年度(2024年度)の改定では、診療報酬本体は+0.88%に引き上げられました。※1
しかしながら、医療現場では改定率のさらなる引き上げを求める声が上がっています。日本病院会をはじめとする6団体が公表した報告および提言によると、令和6年度診療報酬改定の結果、医業利益の赤字病院は69.0%、経常利益の赤字病院は61.2%といずれも増加しています。これはクリニックにとっても対岸の火事ではありません。給与費の増加だけでなく、光熱費や医療材料費、委託費など診療報酬では償還されない「その他経費」の増加が、病院経営を著しく圧迫しています。※2

この厳しい状況を受けて、日本医師会は令和8年度の「大幅なプラス改定」を要求しています。また、2025年9月10日に公表された6団体の緊急要望では、大幅なプラス改定の具体的な数値として「10%超が必要」としています。※3、4

診療報酬改定率
引用元:全国自治体病院協議会. 【6団体】令和7年度補正予算、及び令和8年度診療報酬改定財源確保に向けての要望. ※4

一方、財務省は、財政の持続可能性を理由に慎重な姿勢を崩していません。財政制度等審議会は、これまでも医師が過剰な地域における診療報酬単価の引き下げ(地域別単価の導入)や、外来管理加算のような既存加算の整理・縮小といった医療費抑制策をたびたび提言してきました。これらの提案は中医協で反対されることが多いものの、医療費を抑制したいという国の強い意向を浮き彫りにしています。※5

この対立の結果、令和8年度の全体改定率は、医療現場への配慮を示すための小幅なプラスに落ち着く可能性が高いと考えられます。
重要なのは、その限られた財源がどのように配分されるかという点です。クリニックの経営課題を解決するような一律の大幅な引き上げは、財政的に見ても政治的に見ても困難です。したがって、クリニックが生き残り成長するためには、国が重点を置く「医療DX」「在宅医療」「かかりつけ医機能」といった政策分野に、自院のサービスや体制をいかに合致させていくかという戦略的な視点が不可欠になります。

改定の基本方針:「骨太の方針2025」と「持続可能な社会保障制度の構築」

令和8年度診療報酬改定の基本方針を読み解くうえで重要な資料のひとつが、2025年6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025(経済財政運営と改革の基本方針2025)」です。※6

「骨太の方針」は、内閣府の経済財政諮問会議が中心となり、翌年度の予算編成に向けて政権の重要課題や政策の方向性を示すものです。政策全般についてまとめられていますが、医療・介護分野における方針も明記されており、診療報酬改定にも影響します。

「骨太の方針2025」のうち、診療報酬改定に関連しそうなトピックスは以下の通りです。

賃上げの推進

……「賃上げこそが成長戦略の要」※6

全世代型社会保障の構築

……「医療・介護・障害福祉等の公定価格の分野の賃上げ、経営の安定、離職防止、人材確保」「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」「地域フォーミュラリ」「新たな地域医療構想に向けた病床削減」「医療DX」「応能負担の徹底」「がんを含む生活習慣病の重症化予防」「データヘルスの推進」など ※6

中長期的な医療提供体制の確保等

……「病床数の適正化」「かかりつけ医機能」「オンライン診療」「医療機関機能・病床機能の明確化」「医師の地域間・診療科間の偏在への対応」「現役世代の負担上昇の抑制」「出産費用の自己負担の無償化」「リフィル処方箋の普及・定着」など ※6

もうひとつ重要な資料が、2025年4月23日に財務省がまとめた「持続可能な社会保障制度の構築」です。診療報酬改定の総括および今後の改革の方向性として、以下の内容が盛り込まれています。※7

  • これまで進めてきた「2025年に向けた改革」を引き継ぐ改定(医療従事者の賃上げ、入院時の飲食基準額の引き上げ、生活習慣病等に係る管理料の再編など)
  • 新たな地域医療構想、医師偏在対策の強化、かかりつけ医機能報告制度の後押し
  • 今後のあるべき医療提供体制の構築に向けた改定(病院と診療所のメリハリ、地域での全人的なケア、診療ガイドラインに基づく適切な疾病管理、医師偏在対策、リフィル処方箋など)

診療報酬改定総括
引用元:財務省. 持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ) ※7

「新たな地域医療構想」と「医師偏在対策」について

さらに、令和8年度の改定においては、「新たな地域医療構想」と「医師偏在対策」という2つのトピックスにも注目が集まっています。2024年12月には、厚生労働省の新たな地域医療構想等に関する検討会が、「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」および「医師偏在対策に関するとりまとめ」を公表しました。※8、9

このうち、「新たな地域医療構想」は2040年を見据えた国の医療政策であり、生産年齢人口の減少と85歳以上の後期高齢者の急増という深刻な人口動態の変化に対応するためのものです。

構想の柱は、高齢者の救急搬送の増加に対応しつつ、医療の中心を急性期病院から回復期、そして在宅へとシフトさせることです。医療・介護・福祉サービスを地域で一体的に提供する「地域完結型」の地域包括ケアシステムを構築するという方針であり、「骨太の方針2025」にも挙げられていた「全世代型社会保障の構築」の一環といえます。診療報酬は、この大きな方針を実現するための強力な誘導策として活用されます。※8

この流れは、クリニックの役割が変化することを意味します。これからのクリニックには、単独で医療を提供するだけでなく、地域のケアネットワークのハブとして機能することが求められます。病院が急性期治療に専念することで、早期に退院した患者の受け皿が必要となり、地域のクリニックをはじめ、訪問看護ステーションや介護施設などが連携して支える体制の重要性が増します。

令和8年度の改定では、こうした多職種・多機関での情報共有や共同での治療計画策定といった「連携」を評価する加算が、さらに拡充・強化される見込みです。クリニックの経営戦略としては、地域の基幹病院や介護施設、訪問看護ステーションなどと積極的に関係を構築し、デジタルツールを活用して連携体制を具体化することが重要となります。

また、「医師偏在対策」についても、令和8年度の改定において何らかの是正対策が盛り込まれる見込みです。医師が不足する地域で働く医師や派遣される医師に対して手当を支給する制度も検討されており、その財源をどのように確保するかの議論が続けられています。※9

審議スケジュールと施行日に関する注目点

診療報酬改定の審議は、中医協を中心に例年同様のスケジュールで進行します。

  • 2025年秋頃~:個別具体的な項目(各論)の議論
  • 2026年1月下旬:改定項目案(点数なしの「短冊」)の公表
  • 2026年2月中旬:具体的な点数が示された答申
  • 2026年3月上旬:告示

4月に公開された主な検討スケジュールは以下の通りです。

引用元:中央社会保険医療協議会 総会(第606回)議事次第. 資料. 総-7令和8年度診療報酬改定に向けた主な検討スケジュール(案) ※10

クリニック経営者が特に注意しなければならないのは、改定の実施スケジュール、つまり改定内容の施行日です。令和6年度からは「診療報酬改定DX」の一環として、医科・歯科・調剤の報酬本体の施行日が従来の4月1日から6月1日へと変更されました。なお、薬価改定は従来通り4月1日に施行されています。※11

この2か月間のタイムラグは、クリニック経営に直接的な影響を及ぼします。4月1日には多くの医薬品の公定価格(薬価)が引き下げられ、薬価差益が減少します。しかし、診察料や処置料といった本体部分の報酬が引き上げられるのは6月1日です。つまり、4月と5月の2か月間は収入の一部が減少し、本体収入は据え置かれるという「逆ざや」の状態が発生する可能性があります。院内処方の割合が高いクリニックの場合は、この間のキャッシュフローに注意が必要です。

加速する医療DX:マイナ保険証、電子カルテ情報共有サービス、標準型電子カルテ

加速する医療DX
近年の診療報酬改定でも重視されてきたのが、医療DXの推進です。単にデジタルツールを導入しているだけではもはや評価されず、それをいかに活用し、どのような成果に結びつけているかが問われはじめています。令和8年度の診療報酬改定において、医療DXがどのように位置づけられているのかを解説します。

要件が厳格化する「医療DX推進体制整備加算」とその対策

令和6年度に新設された「医療DX推進体制整備加算」は、国がDXを推進するための中心的なインセンティブです。この加算を算定するには、オンライン資格確認の導入や電子処方箋を発行できる体制整備といった施設基準を満たす必要があります。算定要件については、令和6年10月、令和7年4月、同年10月と複数回にわたって、加算内容の見直しや経過措置の延長などの細やかな調整が行われてきました。国が医療DXの推進を目指して微調整を繰り返していることがうかがえます。

関連記事:令和7年10月改正!医療DX推進体制整備加算について

注目すべきポイントは、マイナ保険証の利用率に連動して加算の点数が定められている点です。この利用率の基準値は固定ではなく、段階的かつ急ピッチで引き上げられています。2025年7月23日付の発表により、令和7年10月~令和8年2月および令和8年3月以降の2段階で引き上げられました。※12

マイナ保険証利用率
適用時期 令和7年1~3月 令和7年4~9月 令和7年10月~
令和8年2月
令和8年3月~
利用率実績 令和6年10月~ 令和7年1月~ 令和7年7月~ 令和7年12月~
加算 1 ・ 4 30% 45% 60% 70%
加算 2 ・ 5 20% 30% 40% 50%
加算 3 ・ 6 10% 15%
(*3の場合 12%)
25%
(*3の場合 22%)
30%
(*3の場合 27%)

*3 小児科外来診療料を算定している医療機関であって、かつ令和6年1月1日から同年12月31日までの延外来患者数のうち6歳未満の患者の割合が3割以上の医療機関の場合

この基準値の引き上げは、マイナ保険証を普及させるために、診療報酬というインセンティブを用いて医療機関に促すという国の明確な政策意図を示しています。クリニックにとっても、マイナ保険証による受診が増えて医療DX推進体制整備加算が追加できるようになれば、その分の増収が見込めます。クリニック経営者には、国が力を入れている医療DX推進の波に乗り遅れることなく、関連するシステムの導入や受付スタッフへの研修、患者への案内などの充実を目指すことが求められます。
「骨太の方針2025」においても、「医療DXの基盤であるマイナ保険証の利用を促進しつつ、2025年12月の経過措置期間後はマイナ保険証を基本とする仕組みに円滑に移行する」と明記されていることから、令和8年度の改定においてもこの流れは加速すると予想されます。※6

本格稼働する電子カルテ情報共有サービスと報酬への影響

「骨太の方針2025」ではさらに、「全国医療情報プラットフォームを構築し、電子カルテ情報共有サービスの普及や電子処方箋の利用拡大、PHR95情報の利活用を進めるほか、標準型電子カルテの本格運用の具体的内容を2025年度中に示す」と明記されています。※6

この「電子カルテ情報共有サービス」は、国の医療DX政策の柱のひとつであり、患者の同意のもと、医療機関や薬局などが標準化されたカルテ情報(3文書6情報など)を相互に閲覧できる仕組みです。

関連記事:電子カルテ情報共有サービスにおけるクリニックへのメリットとは?

「医療DX推進体制整備加算」の施設基準のなかには、すでに「電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有していること」が含まれています。ただし、2025年7月23日付の中医協の発表で、その経過措置は令和8年5月31日まで延長されました。※12

電子カルテ情報共有サービスの普及を図るこの流れは、令和8年度の改定にも引き継がれることが予想されます。

その一方で、中医協の総会においては、今後は「プロセス・アウトカム評価」を重視する必要性について述べられました。※13

医療DXに関しては、システムを単に導入しているだけでなく、どのように活用し(=プロセス)、どのような成果が得られたか(=アウトカム)を評価する方向に進む可能性があります。電子カルテ情報共有サービスについても、サービスに参加していることに加えて、共有された情報をどのように診療で活用しているかが評価の対象になるかもしれません。実際に、令和6年度に新設された「在宅医療DX情報活用加算」では、「電子資格確認等により得られる情報を踏まえて計画的な医学管理の下に、訪問して診療を行った場合」に加算することができます。この仕組みが外来にも適用され、例えば「初診の患者の診療情報を他院から取得・確認した上で診療を行う場合の加算」などが創設される可能性は十分に考えられます。※14

そうなれば、電子カルテは自院の中だけで完結する記録ツールではなく、全国の医療情報を閲覧するための「窓」となることでしょう。加算要件によって新たな収益機会が生まれると同時に、共有された情報を確認しながら処方や治療を行うことが新たな医療のスタンダードになる可能性もあります。電子カルテの導入やリプレイスにおいては、院内での使いやすさだけでなく、政府が推進する電子カルテ情報共有サービスにスムーズかつ安全に接続できることも重視する必要があります。

標準型電子カルテ・共通算定モジュールの将来的な影響

政府は「診療報酬改定DX」を掲げ、誰でも安価に利用できる「標準型電子カルテ」と、診療報酬計算を統一化する「共通算定モジュール」の開発・普及を進めています。その目的として、導入コストが課題となっている医療機関での電子カルテ導入の促進や、救急時の医療情報の速やかな共有・閲覧、診療報酬改定時のシステム更新の負担軽減、全国的なデータの互換性の確保などが挙げられます。※15

厚生労働省とデジタル庁が連携して開発を進めている「クラウドベース(SaaS型)による標準型電子カルテ」は、令和8年度以降の本格実施を目指し、すでに全国数か所の地域においてモデル事業が進められています。また、共通算定モジュールも同じく令和8年度の本格的な提供開始が予定されています。※15

関連記事:電子カルテの義務化はいつから? 背景・施行時期・医療DXの全体像を徹底解説

まだ電子カルテを導入していないクリニックや、これから開業するクリニックにおいては、標準型電子カルテを導入するか、電子カルテメーカーが開発している製品を導入するか、選択を迫られることになるでしょう。そのときに選択の基準となるのが、いかに医師やスタッフの業務を効率化し、診療の質を高めるかという付加価値の部分です。直感的な操作性や信頼性の高い医薬品データベース、AIによる診療支援機能、そして何よりも迅速で手厚いサポート体制といった要素を比較検討しながら、自院にとって最適な電子カルテを選ぶことが大切です。

外来・在宅医療の変革:かかりつけ医機能と多職種連携への新評価

外来・在宅医療の変革
令和8年度の改定においては、外来や在宅医療に関する変更や評価の見直しが想定されます。「かかりつけ医機能」や、デジタル技術を介した「多職種連携」など、議論されているポイントをご紹介します。

「かかりつけ医機能報告制度」は診療報酬にどう影響するか

2025年4月より「かかりつけ医機能報告制度」が始まっており、2026年1~3月にかけて、各都道府県に初回報告が上がる予定です。この制度は、高齢者の増加、生産年齢人口の急減、人口構造の地域差を踏まえ、「治す医療」から「治し、支える医療」を実現するための取り組みのひとつとして進められてきました。各医療機関が、日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能(1号機能)および、時間外診療、入退院支援、在宅医療、介護等との連携の有無(2号機能)などの「かかりつけ医としての機能」について都道府県に報告します。※16

中医協の総会では、既存の機能強化加算などの算定要件と報告項目の比較検討がすでに行われています。ただし、「かかりつけ医機能報告制度は、診療報酬上の評価と結びつけて議論されるものではない」ことも指摘されており、単に認定するだけでなく、かかりつけ医機能を有する医療機関が他の医療機関と連携しながら患者を支えることが重視されています。※17

政治的な配慮から、次回の改定ではまだ、かかりつけ医機能に関する報告内容と診療報酬が直接的に連動しないかもしれません。しかし、この制度によって収集されたデータが、将来の改定の方向性を形作ることは十分に考えられます。将来的には、報告されたかかりつけ医機能の実績に基づき、より手厚い評価を行う新たな加算が創設される可能性もあります。

クリニック経営者にとっては、かかりつけ医機能報告制度を「自院の機能や役割を地域に示す機会」ととらえ、将来の重点的な評価に向けた布石を打つことが望ましいといえます。

生活習慣病管理料への移行と外来医療の変化

令和6年度の改定では、高血圧、糖尿病、脂質異常症の患者を対象とした「生活習慣病管理料」と従来の「特定疾患療養管理料」が一本化し、より包括的な「生活習慣病管理料」へと統合されました。この新しい評価体系は、個々の患者に合わせた詳細な「療養計画書」の作成を求め、多職種連携を促す点に特徴があります。※16、17

令和8年度の改定ではこの流れがさらに加速し、療養計画書の内容の質の評価や、電子カルテ情報共有サービスを通じて得られる他院のデータなどを活用した計画策定が論点となる可能性があります。この変化は、慢性期医療の評価が「来院ごとの評価」から「患者管理全体の評価」へとシフトしていることを示しています。

生活習慣病に関連するクリニックには、医学的な専門知識はもちろん、効率的な文書作成能力や患者との密なコミュニケーションが求められます。事務作業を効率化し、新たな評価体系に適応するためには、療養計画書を効率的に作成できるテンプレート機能や患者の目標達成度を時系列で追跡・管理する機能などを備えた電子カルテを導入するのもひとつの手段といえます。

在宅医療の高度化:ICTによる連携とアウトカム評価

高齢化に伴い、在宅医療の需要は全国的に急増しています。令和6年度改定では「在宅医療情報連携加算」などが新設され、ICTを用いた情報共有が評価されるようになりました。令和8年度の改定でも在宅医療分野への重点的な評価は継続される見込みであり、ICTを活用した医師、訪問看護師、ケアマネジャー、薬剤師などの多職種連携について議論されています。※17

前述のように、「プロセス・アウトカム評価」が重視される傾向から、在宅医療に関する診療報酬も成果(アウトカム)を評価するような流れになることが考えられます。例えば、単に訪問診療を行ったという行為だけでなく、その結果として「再入院を防いだ」「患者のADL(日常生活動作)を維持・改善した」といった具体的な成果が診療報酬上で評価されるようになる可能性があります。

そうなると、在宅医療に取り組むクリニックにおいては、医療行為を記録するだけでなく、再入院率やADLスコア、栄養状態といった指標を継続的に追跡し、報告する体制が必要となります。患者の状態を多角的に記録・分析し、成果を可視化するデータプラットフォームとして電子カルテを活用することが、在宅医療のスタンダードになる日が来るかもしれません。

オンライン診療の進化:専門的な連携や医師偏在対策

オンライン診療は平成30年度(2018年度)に新設され、令和4年度(2022年度)の改定で「情報通信機器を用いた初診」「情報通信機器を用いた再診」に再編されるなど、近年でも重視されてきたテーマのひとつです。令和6年度の改定では、へき地や専門医が少ない地域において、患者のそばにいる看護師と連携してオンライン診療を行う「D to P with N」や、遠隔地の専門医と連携して診療を行う「D to P with D」の推進に向けて、加算の新設や算定要件の見直しが行われました。※18

しかしながら、中医協の議論においては、これらの専門的な連携を評価する「遠隔連携診療料」や「看護師等遠隔診療補助加算」は現状、算定が低調であることが指摘されています。※17

「骨太の方針2025」においても「適切なオンライン診療の推進」は掲げられており、令和8年度の改定でもオンライン診療を推進する流れは踏襲されると考えられます。財務省や厚生労働省の資料でも指摘されている医師偏在の解決策にもなり得ることから、次回の診療報酬改定でどのような変化があるか、注視する必要があるといえます。

その他のポイント

「骨太の方針2025」では他にも、現役世代の負担上昇の抑制やデータヘルスの推進、出産費用の自己負担の無償化など、さまざまなトピックスが取り上げられています。クリニック経営との関連が考えられるトピックスを、その他のポイントとしてまとめました。

OTC類似薬とリフィル処方箋

OTC類似薬(市販されている類似医薬品)は、社会保険料の削減を目的として、保険適用からの除外が検討されています。また、リフィル処方箋とは、定期通院しており症状が安定している患者に対し、一定の要件を満たした場合に最大3回まで繰り返し利用できる処方箋のことです。

日本医師会は、医療機関の受診控えによる健康被害や患者の経済的負担の増加などを理由に、OTC類似薬の保険適用除外を推進する流れには懸念を表明しています。リフィル処方箋についても、不適切な長期処方の是正や、疾病管理の質を保つための定期的な診察の重要性を指摘しています。※19、20

しかし、「骨太の方針2025」では「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」や「リフィル処方箋の普及・定着」が掲げられており、今後の診療報酬改定での動向が注目されています。※6

これらについて何らかの施策が実行された場合、受診控えや定期通院患者の来院回数の減少など、クリニックの来院患者数にも影響があると考えられます。
また、リフィル処方箋を実施する場合は、医師および薬剤師の連携と適切な管理が求められます。電子処方箋を活用することで、長期間使用する処方箋の紛失防止につながるほか、期間中に他の医療

機関で異なる薬を処方された場合も飲み合わせの確認や重複チェックなどが可能となります。※21

関連記事:電子処方箋の仕組みや導入によるクリニック・薬局・患者のメリットとは?

新たな医療技術の評価:費用対効果の厳格化

診療報酬改定では、毎回「医療技術の評価」も重要なテーマとなります。例えば、令和4年度改定においては、AIを活用した画像診断支援システムの適切な管理を要件とした「画像診断管理加算3」が新設されました。今後も、デジタル技術を用いた治療用アプリ(DTx)や個別化医療につながる遺伝子関連検査といった、次世代の医療技術が評価の対象になる可能性が予想されます。

これらの新たな医療技術を保険適用するにあたっては、医療の高度化とコスト抑制のバランスが重視されます。医療費が増大してしまうため、新しい技術を無制限に評価することはできません。そのため、有効性(アウトカム改善効果)や費用対効果に関するエビデンスが厳しく問われることになるでしょう。

中医協では2019年4月から「費用対効果評価制度」が運用されており、令和8年度の改定においても、安全性・有効性・経済性という評価軸で議論が行われる見込みです。また、評価の対象となる医療技術や具体的な検討の進め方は、令和4年度および令和6年度の改定と同様の取扱いとなります。※22、23

2026年に向けたクリニックの経営戦略とは

2026年に向けたクリニックの経営戦略
これまでの分析を踏まえ、クリニック経営者が戦略を考えるうえで重要となるポイントをまとめます。令和8年度の診療報酬改定と中長期的な政策の動向を踏まえ、社会の変化に適応できるような経営戦略を取ることが成功のカギといえます。

変化する収益構造への適応:新設・改定加算の取得戦略

全体改定率の伸びに期待する受け身の姿勢では、厳しい経営環境を乗り切ることは難しいでしょう。国の政策方針に沿って新設・改定される加算を戦略的に取得することが、物価高騰や人件費の上昇のなかでもクリニック経営を安定させることにつながります。以下の4つのポイントを踏まえ、変化する収益構造に適応することが重要です。

1.医療DX推進体制の整備と計画

算定要件が厳格化される「医療DX推進体制整備加算」の取得に向け、自院の医療DX体制の現状を把握しましょう。現在のマイナ保険証利用率を正確に測定し、目標達成に向けた具体的な計画(スタッフ研修、患者への案内方法の標準化など)を策定・実行します。

2.地域連携ネットワークの構築

連携評価加算の取得を目指す場合は、地域連携の体制や院内システムを早期に構築しましょう。地域の病院や介護施設、訪問看護ステーションなどをリストアップし、情報共有や連携に関する具体的な協議を開始します。電子カルテや電子処方箋など、地域医療連携を支援するシステムの導入も欠かせません。

3.慢性疾患管理プロセスの見直し

生活習慣病や慢性疾患に関連する診療科を有するクリニックの場合、「生活習慣病管理料」への円滑な対応に向けて、療養計画書の作成プロセスを再点検しましょう。電子カルテのテンプレートなどを最大限に活用し、質の高い計画書を効率的に作成できる体制を整えます。

4.在宅医療のアウトカム測定開始

在宅医療を提供しているクリニックの場合は、将来のアウトカム評価に備え、電子カルテ上で再入院率やADLスコアといった指標を記録しましょう。今のうちからデータを蓄積しておくことが、将来の収益機会につながります。

医師の働き方改革と生産性向上の両立

「医師の働き方改革」は引き続き国の重要政策です。例えば、令和6年度の改定では、医療従事者の賃上げのためにベースアップ評価料が新設されたり、入院基本料や初再診料などが引き上げられたりしたほか、「地域医療体制確保加算」の施設基準に医師の時間外・休日労働時間についての基準が追加されました。※24

令和8年度の改定も同じように、医師の働き方改革に関連する評価が維持・拡充される見込みです。例えば、「医師事務作業補助体制加算」で評価されているように、医療クラークなどが診療録の代行入力や診断書の作成補助を行うことは、医師の負担軽減に直結します。令和6年度の改定では、すでに点数引き上げと要件の追加が行われており、今後も手厚く評価されると考えられます。

医療DXの推進と働き方改革は、密接に関連しています。電子カルテの導入や医師事務作業補助者の配置は、診療録の記録や文書作成業務などを大幅に効率化し、医師の負担軽減や労働時間の短縮に直接貢献します。つまり、医療DXや事務スタッフへの投資は、診療報酬上の加算によって原資を確保しつつ医師の労働環境を改善し、結果としてクリニック全体の生産性と収益性を向上させる戦略的な投資ととらえることができます。

ユヤマの電子カルテは診療報酬改定も丁寧にサポート

ユヤマの電子カルテ

「診療報酬改定に関するアップデートはスムーズか?」
「診療報酬改定に向けて、メーカーのサポートや情報提供が欲しい」
「今後の政策や改定にも柔軟に対応できるよう、将来性のあるシステムが理想」

診療報酬改定や政策の動向に注目しておられるクリニック様では、電子カルテの導入やリプレイスにあたって、このような課題を検討されていることでしょう。2年に一度行われる診療報酬改定はクリニックにとって収入の増減に直結し、場合によっては経営戦略を見直す必要が生じます。そのため、電子カルテやレセコンが診療報酬改定に迅速に対応できるかどうか、メーカー側のサポート体制は十分かどうかも重要なポイントといえます。電子カルテを選定する際は、短期的なコストだけでなく、将来の変化に対応できる「将来性」やメーカー側の丁寧なサポート力も重視することが大切です。

当社の無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズの、診療報酬改定に関するサポート体制の特徴を3つご紹介します。

将来性のあるシステム設計

当社の「BrainBox」シリーズはオンライン資格確認システムとの連携が可能です。連携にあたっては、実際の運用方法のご説明はもちろん、アカウント登録やオンライン請求の届出、オンライン資格確認、電子処方箋の利用申請フォローなどを丁寧にサポートいたします。

オンライン資格確認システムや電子処方箋など、今後の社会保障の基盤として国が打ち出している方針にも迅速に対応し続けることで、クリニック経営に末永く伴走いたします。

診療報酬改定に関する情報提供も充実

診療報酬改定の際は、迅速かつ正確なアップデートを提供いたします。当社では、診療報酬改定に伴う対応については、月額保守料金以外の別途費用は頂戴しておりません(レセプト帳票関連の変更を含む)。

診療報酬改定に関する情報提供には、以下のツールを活用しております。

  • 電子カルテ上の「お知らせ」
  • 紙媒体での通知
  • FAX配信

さらに、改定のポイントや電子カルテ上の変更点・操作手順を解説した資料および動画も提供いたします。クリニック様が診療報酬改定に迷わず対応できるよう、丁寧にサポートいたします。

クリニック様ごとに専任営業を配置

当社ではクリニック様ごとに専任営業を配置し、万全のサポート体制を提供しています。導入後も同じ担当者が責任を持ってクリニック様に寄り添い、日々の運用を伴走しながらサポートいたします。

導入にあたっては、クリニック様の診療科や体制、診療スタイルに合わせて、最適な点数案内や運用提案を行います。また、開業前には知識豊富なインストラクターが現地に訪問し、操作方法を丁寧にご説明します。医療事務未経験のスタッフさんがいらっしゃる場合も、保険の制度からお伝えしますのでご安心ください。

ユヤマの無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズについては、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:【新製品】クラウド型電子カルテ BrainBox CloudⅡのご紹介

関連記事:BrainBox新シリーズ、BrainBoxV-Ⅳについてご紹介!

 

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令和8年度の診療報酬改定も「医療DXへの対応」がカギ

本記事では、令和8年度の診療報酬改定に向けて議論されている主要な論点と、クリニック経営にどのような影響を与えうるのかについて解説しました。

次回の診療報酬改定では、物価高騰という経済的な逆風と、医療DXを軸とした構造改革について議論が進められています。これらの論点のなかには、これからのクリニック経営の成功に向けた明確な道筋が示されています。経営の核となるツールを積極的に活用して医療DXに対応しながら、地域における連携のハブとしての役割を担うこと、そして新たな評価体系に自院の診療プロセスを適応させることは、変革の時代においてクリニックが生き残るために必要不可欠といえます。

参考資料

※1 厚生労働省. 診療報酬改定について.
※2 日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会. ご存知ですか?あなたの街の病院がいま危機的状況なのを!!
※3 日本医師会. 2026(令和8)年度予算要求要望.
※4 全国自治体病院協議会. 【6団体】令和7年度補正予算、及び令和8年度診療報酬改定財源確保に向けての要望.
※5 財務省. 持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ).
※6 内閣府. 経済財政諮問会議. 経済財政運営と改革の基本方針2025について.
※7 財務省. 持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ).
※8 厚生労働省 新たな地域医療構想等に関する検討会. 新たな地域医療構想に関するとりまとめ.
※9 厚生労働省 新たな地域医療構想等に関する検討会. 医師偏在対策に関するとりまとめ.
※10 中央社会保険医療協議会 総会(第606回)議事次第. 資料. 総-7令和8年度診療報酬改定に向けた主な検討スケジュール(案)
※11 厚生労働省. 第196回社会保障審議会医療保険部会.(参考)令和6年度診療報酬改定のスケジュール【実績】.
※12 厚生労働省. 個別改定項目について 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直し.
※13 厚生労働省. 中央社会保険医療協議会. 2025年6月18日 中央社会保険医療協議会 総会 第609回議事録
※14 厚生労働省. 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて.
※15 厚生労働省. 医療DXの進捗状況について
※16 厚生労働省. 中央社会保険医療協議会 総会(第612回) 議事次第. 総-3外来について(その1).
※17 厚生労働省. 2025年7月16日 中央社会保険医療協議会 総会 第612回議事録.
※18 厚生労働省保険局医療課. 令和6年度診療報酬改定の概要【医療DXの推進】.
※19 YouTube. 公益社団法人日本医師会. OTC医薬品に係る最近の状況について―宮川政昭常任理事【2025年2月13日定例記者会見】
※20 YouTube. 公益社団法人日本医師会. 定例記者会見(2022年2月9日)リフィル処方に係る診療報酬について―中川俊男会長
※21 厚生労働省. 使ってみよう電子処方せん-リフィル処方せん編.
※22 厚生労働省保険局医療課. 令和6年度診療報酬改定の概要【費用対効果評価制度】.
※23 厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定に向けた医療技術の評価方法等について(案).
※24 厚生労働省 保険局. 診療報酬改定の基本方針について(前回改定の振り返り)

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