SDM (Shared Decision Making)における薬剤師の役割と可能性とは
SDM(Shared Decision Making)とは、医学的なエビデンスだけでなく、患者さんの日常生活や価値観なども踏まえたうえで、医療従事者と患者さんが情報共有をしながら共に意思決定を行っていくプロセスのことを指します。
SDMは近年耳にする機会が増えつつあるものの、現時点の社会的な認知度はあまり高くはないのが実情です。しかし、これからの医療を考えるうえでSDMは確実に重要性を増し、薬剤師の参画が大きな意味を持つことが予想されます。本コラムでは、SDMにおいて薬剤師に期待される役割や可能性についてお伝えします。
薬剤師のSDMの認知度
SDMの認知度について、2022年8月に株式会社ユヤマがSDMに関するセミナーで実施したアンケートの結果が『調剤と情報 2023年9月号(Vol.29 No.12)』に掲載されています。
SDMを何となくでも知っていた薬剤師あるいは薬局経営者は全体の14.7%(5名)に留まりました。SDMについて「全く知らなかった」「聞いたことはある」という回答は全体の85.3%(29名)で、SDMの内容を認識していない薬剤師が多く、まだSDMの概念がそれほど浸透していないであろうことがうかがえます。
SDMの認知度が低率だったのに対して、SDMが薬剤師の対人業務で活かすべき方向性だと感じたという回答は85.3%(29名)に達しました。セミナー参加者に限定したアンケートの結果ではありますが、SDMが「薬剤師の対人業務像」のひとつになりうる可能性が示唆されたと言えるでしょう。
2024年6月には京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(SPH)の中山健夫教授らの『実践 シェアード・ディシジョンメイキング 改題改訂第2版』が刊行されました。今後はSDMの認知度が上がり、医療現場への浸透が進んでいくことでしょう。
なぜSDMが求められるのか
内閣府が公開している「令和5年版高齢社会白書」によると、現在の日本は全人口に対する65歳以上人口の割合が29.0%の超高齢社会です。今後も高齢化が加速していくと予測されているなかで、将来的に従来の医療制度や老人保健制度だけでは対応しきれない問題が生じる可能性が高く、医療のあり方には変化が求められるでしょう。
超高齢社会では、必然的に慢性疾患を抱える患者さんが増えていくことが想定されます。慢性疾患の場合、治療の選択における絶対的な正解は存在せず、患者さん自身の要望や考えを尊重しながら治療方針を決定していく必要があります。そのなかで注目したいのが、SDMです。
SDMでは医師をはじめとする医療従事者が専門家として一方的にアドバイスするだけでなく、より患者さんに寄り添って伴走することが求められます。超高齢社会において患者さんと理想的な関係性を築き、良質な医療を提供していくうえで、SDMは欠かせないアプローチになるのです。
SDMが“新しい時代の薬剤師像”の下支えに
前述の通り、将来的にSDMの価値やニーズが高まると予測される一方で、慢性的な医師のリソース不足に加え、2024年4月から実施されている医師の働き方改革に鑑みると、医師だけがSDMの担い手となり、充実を図るのは困難と言えるでしょう。ここで活躍が期待されるのが薬剤師です。慢性疾患の患者さんに対しては、多くの場合に薬物療法が行われるため、SDMにおいて薬剤師が担える役割は大きいと考えられます。
厚生労働省の推計では、長期的に見ると薬剤師は需要に対する供給過多となる可能性が示されていますが、もし薬剤師がSDMを駆使した対人業務を担うようになれば活躍できる領域はさらに広がり、医師にとっても薬剤師にとってもメリットは大きいでしょう。
つまり、対人業務がますます重要視される時代の要請に応えるうえで、SDMは薬剤師のコンピテンシー(手本となる行動特性)やモデルを下支えするものになり得ます。ともすれば、薬剤師は医師以上に幅広い領域で患者さんの健康増進に貢献できる可能性を秘めているため、SDMの習熟が大きく役立つはずです。
また、近い将来、医療や薬局の現場ではAIの影響力が高まるかもしれません。しかし、すべての業務が完全に自動化されるわけではなく、むしろAIが高度な情報処理能力で導き出した可能性を、患者さんと時間をかけて協議し、よりよい選択を行う必要があり、そこに薬剤師が介在する価値を見出せるのではないでしょうか。
まとめ
今回お伝えしたように、SDMは薬剤師の社会的価値向上や長期的なキャリア形成を考えるうえで重要なポイントとなる可能性があります。今後SDMの専門家によって薬剤師が現場で活用できる手引きが整備され、本格的な研修などが実施されることで、薬剤師の対人業務がより充実したものになることが期待されます。
<編集後記>
- SDMを知れば知るほど、薬剤師業務の深掘りはまだまだこれからだと感じますが一番の問題は“時間”。ぜひ調剤機器も有効に導入してください。(学術部:K.M)
- 薬剤師さんが薬物治療の専門家として活躍できる領域には、まだまだ伸びしろがあるはず。SDMもその一つとして注目のテーマになりそうです。(ライター:N.K)
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