薬剤師は新型ウイルスのワクチンの打ち手となり得るか
薬剤師は新型ウイルスのワクチンの打ち手となり得るか
世界的に感染拡大した新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の位置づけはこれまでの「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から2023年5月8日をもって「5類感染症」に移行しました。
感染拡大の過程において医療体制のさまざまな課題が浮き彫りになりましたが、その一つとして「ワクチン接種の打ち手不足」が挙げられます。打ち手不足を解消するため、特例的に医師や看護師以外の医療従事者によるワクチン接種が許可されました。薬剤師はワクチンの調製やシリンジへの充填作業などを担いましたが、結局、今回のコロナ禍において薬剤師による接種は認められませんでした。
本記事ではこれらの過程を振り返るとともに、将来的に同様のパンデミックが起こった場合、薬剤師はワクチン接種の打ち手となり得るのかを考えたいと思います。
新型コロナウイルス感染症ワクチンの打ち手確保をめぐる問題
日本で新型コロナのワクチンが薬事承認されたのは2021年2月。3月から医療従事者への優先接種が順次始まる予定でしたが、なかなかスムーズにいかず、高齢者接種も当初の計画から遅れをとる形となりました。これはワクチンの供給が遅れていたことが原因でしたが、4月以降ようやくワクチンの安定的な供給が可能となり、全国的にワクチン接種を推進させる動きが高まりました。
しかし急速に接種を推進するにあたって、ワクチン接種の打ち手不足という課題が浮き彫りに。医師や看護師以外の医療従事者を打ち手として確保する必要性が高まり、国は特例的に歯科医師による接種を認めることになりました。
歯科医師に続いて、ワクチン接種の打ち手として認められたのは臨床検査技師、救命救急士の2職種です。その後、変異株の流行により迎えた感染拡大の第7波(2022年夏)においては、新たに診療放射線技師と臨床工学技士によるワクチン接種を特例的に認め、打ち手として確保する方針が示されました。
一方このような経緯において、薬剤師もワクチン接種の打ち手として検討対象となったものの、現行の薬学教育の内容や薬剤師の業務領域に鑑みて、最終的には接種可能という特例を認めるまでに至りませんでした。
打ち手となり得るかどうかの分かれ目は、教育課程において人体への医療行為に関する専門知識を得ているか、また通常業務において注射や採血に対応することがあるかという点だったと言えるでしょう。
薬剤師は将来、ワクチン接種の打ち手となり得るか
新型コロナが5類に移行し、ようやくアフターコロナの兆しが見えてきたものの、感染者が一切いなくなったわけではなく、今後も新型コロナを含め、感染症の脅威と向き合っていかなければなりません。新たな感染症がまん延した場合、今回のようにワクチン接種の打ち手不足が課題となれば、改めて打ち手確保を議論することになるでしょう。その際に、薬剤師はワクチン接種の打ち手となり得るでしょうか。
過去の記事でも伝えたとおり、アメリカやカナダをはじめとする医療先進国では薬剤師が薬局でワクチン接種を担う体制が確立されています。また、日本同様に医師や看護師以外の医療職種をワクチン接種の打ち手として認めた国のなかでは、薬剤師による接種を認めたケースも見られました。
しかし前述の通り、現行の教育課程や業務経験が障壁となるのであれば、これらを変革させていくより他はありません。もちろん変革を進めるべきかどうかは慎重に検討がなされるべきですが、コロナ禍は薬剤師が持つポテンシャルを改めて見直し、活躍の場を広げるきっかけの一つとなったことは間違いないでしょう。そういった意味では、将来的には欧米諸国のように、日本でも薬剤師がワクチン接種を担うようになることはあり得るのではないでしょうか。
<編集後記>
- 供給側だけでなく、需要側の視点も大切だと思います。インフルエンザも含めて普段から気軽に接種できる環境を考えれば、薬局やドラッグストアは断然便利。薬剤師が打つ意味は大きそうです(学術部:K.M)
- 未曾有の事態となったコロナ禍では、医療体制の面でも多くの課題が出てきましたが、一方で現状からの改革や進歩の余地が見えたことは前向きにとらえていくべきなのかもしれません。(ライター:N.K)
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