2023.11.14調剤機器

超高齢社会における薬剤師の社会的価値とは?
第3回(全3回)

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本コラムは全3回を通して、超高齢社会における薬剤師の貢献について考えています。前回のコラムでは、薬剤師の社会的価値向上につながる具体的な貢献は「臨床」と「経済」の2つの側面から考えられるとして、臨床における薬剤師の介入メリットについて紹介しました。

今回は、経済の面から見た薬剤師が創出し得る社会的価値にフォーカスし、お伝えしたいと思います。

医薬分業と医療費の削減

日本における医薬分業が本格的に始まったのは1974年からです。その後、1997年に当時の厚生省が国立病院に対して完全分業を指示して以降、急速に促進されました。

2023年5月に日本薬剤師会が公表した保険調剤の動向を示す最新データによると、処方箋受取率(医薬分業率)は76.6%にのぼり、13道県では80%を超えています。地域による薬剤師の偏在問題もあり、医薬分業率が低い水準にある地域はあるものの、おおむね日本全国で医薬分業体制が定着していることは間違いありません。

医薬分業のメリットは患者さんの薬物医療の安全性向上を中心に語られますが、経済の視点で薬剤師の社会的な貢献を高めるうえでも、この医薬分業の土台を最大限に活かすことが重要です。超高齢社会が進む日本において、医療費の増大による財政圧迫が課題となっていることは周知の事実でしょう。医薬分業体制を活かした薬剤師のさらなる臨床への介入は、医療費削減にも一定の成果をもたらす可能性が高いことが示唆されています。

薬剤師の臨床介入による経済効果

前回のコラムでもご紹介した通り、薬剤師による患者さんへの介入は臨床アウトカムにポジティブな影響を与えるという報告が増えつつあります。しかも臨床面に留まらず、カナダの学術誌「Global Journal of Health Science」(Vol. 10, No. 5;2018)に掲載された横井正之氏の論文によれば、分業率が1%上がるごとに1年間で薬剤費222億円の削減につながることが示されています。

また、岡田浩氏(和歌山県立医科大学薬学部社会・薬局薬学研究室)が主導する研究のデータでも、日本の薬局薬剤師が高血圧患者に対してカナダの薬局薬剤師と同様に介入した場合、25年間で約20兆円の医療費削減が見込めるという試算が出ています。カナダの一部地域では薬局薬剤師が独立した処方権を持ち、高血圧患者の薬物療法の管理を行っている事例があり、この取り組みが患者の血圧コントロール改善に結びついているという効果が示されているのです。

このように、薬剤師が持つ独自の専門性を最大限発揮することで、患者さんにとっても負担となり得る過剰な薬剤処方をセーブし、患者さんの臨床アウトカム改善と、適正な医療費抑制の両立が期待できます。

まとめ

将来的な薬剤師の供給過多も指摘されつつある現在、本コラムでは3回にわたり薬剤師の社会的価値の向上につながる取り組みについて考えてきました。

こうした取り組みを実行するとともに、一般的により薬剤師の職能や社会貢献性を認知させていく広報活動もあわせて推進することが重要であると言えるでしょう。

<編集後記>

  • 薬剤師の需給については一貫して「供給過剰」が予見されています。しかし、薬剤師の本来職能と薬物治療患者の増加は、近未来の薬剤師需給に不足している視点を教えてくれていると確信しています。(学術部:K.M)
  • 薬剤師のこれからを考えるうえで、やはり社会的貢献という切り口で何ができるかがますます重要になると感じます。(ライター:N.K)

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タグ : 経済 薬剤師
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