医療DXの現在とは?
超高齢社会を迎えている日本にとって、医療分野における重要な取り組みの一つが「DX」です。2024年4月以降、医師の働き方改革制度が進められるなかで、時間や労働力を捻出するなど医療現場の業務効率化の観点でより注目を集めています。
医療DXは業務効率化だけでなく医療の質向上や国民の健康増進にも役立つものであり、さらなる推進を見据えて、厚生労働省の主導のもと各医療機関で取り組みが始まっています。今回は2025年2月現在の医療DXの状況についてまとめました。
医療DXの現在
政府が掲げている医療DXの具体的な施策としては、第一にオンライン資格確認が挙げられます。医療機関におけるオンライン資格確認の導入状況は、病院で98.8%、クリニックで92.0%、薬局で97.0%、歯科医院も含めた全体では92.5%となっています(2024年12月22日時点)。
この統計から分かる通り、医療機関でのオンライン資格確認の導入は完了しつつあります。その一方で、患者さん側のマイナ保険証利用は依然として進んでいない状況です。政府は2024年12月2日以降、従来の健康保険証の新規発行を停止しましたが、その後1週間のマイナ保険証利用率は28.29%となり、いまだ低調と言えます。今後の利用促進がどのように進むかは注視したいポイントです。
続いて動向が注目されている施策が、電子カルテ情報共有サービスです。患者さんの電子カルテ情報を医療機関同士で共有するシステムのことで、医療機関から電子カルテに記録された病名やアレルギー、健康診断の結果、処方薬の情報などを収集し、データベース化が可能です。患者さんの同意があれば、全国の医療機関がデータを閲覧できるようになり、初診や救急の患者さんについても過去の病歴などを明確に把握しやすくなります。政府は2025年度からこの新システム運用を始め、本格稼働させる方針を発表しています。
なお、厚生労働省が公表した「令和5年医療施設(静態・動態)調査」によると、電子カルテの普及率について「医療機関全体で電子化している」もしくは「一部で電子化している」と回答した病院は全国の約62%、クリニックは全国の約55%という結果になっています。新システム運用に際しては、さらなる普及の促進が求められます。
また、2023年1月から運用開始された電子処方箋の導入状況については、病院で4.2%、クリニックで10.7%、薬局で64.9%、歯科医院も含めた全体では23.3%です(2025年2月7日現在)。他の施策よりも導入推進が遅れをとっており、現在は一部の大病院や薬局が率先している状況と言えます。
この状況を踏まえて、政府は医療機関とシステムベンダーへの働きかけや、導入補助金の継続、国民向け周知広報の実施などを対策として掲げ、電子処方箋を利用しやすく、安全に運用できる仕組み・環境の整備を急いでいます。さらに、2025年4月からは電子処方箋のシステム未導入の医療機関・薬局に対して診療報酬を下げるなど、普及促進を加速させていきたい考えです。
医療DXの事例
実際の医療機関における医療DXの取り組みとして、厚生労働省の「医療機関等向けポータルサイト」に掲載されている事例を2つ紹介します。
◆受付での丁寧な説明によりマイナ保険証利用の促進へ
前述の通り、医療機関におけるオンライン資格確認の導入はほぼ完了しているものの、患者さんがマイナ保険証を利用するケースはまだ多くありません。東京都大田区の総合病院では、マイナ保険証を利用する患者さんが少ない状況を踏まえて、受付で利用説明書を示しながら丁寧に案内することで患者さんの理解を深めています。
加えて、医師からもマイナ保険証の利用を案内するなど、利用率の向上を目指す取り組みを積極的に行っています。
出典:厚生労働省 医療機関等向けポータルサイト導入事例紹介「受付での説明をテンプレート化し、マイナンバーカード利用を効率的にすることでマイナ保険証の利用者が200人/月から1000人/月と7倍に増加。独自の取り組みでマイナ保険証の利用を促進」
◆電子処方箋の導入で過剰投与リスクを軽減
医療機関における電子処方箋の導入状況が芳しくないなか、東京都文京区の心療内科・精神科クリニックでは、他院に先駆けて電子処方箋を導入しています。
処方薬の情報を正確に管理することで患者さんの安全を確保するとともに、事務作業の負担が減り患者さんと向き合う時間を創出できるようになっています。
出典:厚生労働省 医療機関等向けポータルサイト導入事例紹介「日本の医療DXの未来を見据え、率先して電子処方箋を導入。重複投薬等チェックによる過剰投与のリスク軽減を実感」
まとめ
いまだ紙ベースの運用を続けている医療機関は少なくなく、また患者さん側のマイナ保険証利用率も高いとは言えない状況です。しかし、これからの医療を考える上でDXの取り組みは不可欠であり、患者さんの利便性・安全性、医療従事者の負担軽減のいずれも追求していく必要があるでしょう。
<編集後記>
- メーカーとしては厚労省の発表や方針に沿って遅れないよう対応をしていますが、現場とはギャップがあることが改めて数字からもわかりました。市民の立場としても、DXが推進されるよう行動したいと思います。(M.S)
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