公開日:2026.07.14薬剤師 , 業界情報

令和8年度調剤報酬改定から読み解く、薬局経営の生存戦略~直面している構造転換という荒波~

令和8年度調剤報酬改定から読み解く、薬局経営の生存戦略~直面している構造転換という荒波~

はじめに:初回請求という「答え合わせ」の前後に見えている景色

令和8年度の調剤報酬改定が行われ、現場の皆さんはその対応に追われているのではないでしょうか。現時点では、改定後の初回請求(レセプト請求)とその返戻および実際の経営への影響は正確には見えていません。この状態をシステム開発に例えると、新仕様を反映し初稼働を控えた緊張感の伴う場面に似ています。

さて、今回の改定項目を読み解くと、「薬局間の役割の明確化」という方向性が透けて見えてきます。ここに示されている医療費抑制と効率化の波は、従来の調剤バリューチェーンを根底から揺さぶるものです。

本コラムでは、今後の薬局経営、特に中小規模の個店や都市部の薬局が直面する、構造的な課題とジレンマについて考えていきます。

1.「ベースアップ評価料」1)が内包する年齢制限によるリスク

今回の改定で象徴的だったのが、医療従事者の賃上げを目的とした「ベースアップ評価料」の新設です。一見すると、国が処遇改善を後押ししてくれる「ポジティブな加算」に見えますが、そこには、現場の組織マネジメントを揺るがしかねない構造的な落とし穴が存在しています。

この評価料は、算定した原資を「対象となる職種の給与ベースアップ」に全額もしくは高い割合で充てることが求められています。それだけでなく、今回のベースアップ評価料にはいわゆる年齢制限が設けられていることも重要なポイントです。対象は40歳未満の勤務薬剤師であり、一定の年齢層などへの配分が意識されています。コラムをご覧の先生のなかにも恩恵にあずかる方がいるかもしれません。

とはいえ、経営者にとってはそのまま運用しがたい側面があります。対象となる若手職員の基本給をピンポイントで底上げした場合、対象から外れるベテラン職員との間に給与体系の逆転現象や不公平感が生まれる可能性さえあり、組織のエンゲージメントが低下するリスクを内包しています。

特に、これまで薬局を支えてきた40歳以上のベテラン層への配分ができないことは、信頼関係の崩壊を招きかねません。将来における固定費負担を抱え込むリスクと職場の不協和音という、二重の課題を背負うことになるのです。

このように、簡単に手を出しにくい「ベースアップ評価料」ですが、強く注意を促したい点があります。それは今回算定が伸びなければ、次回以降は不要と判断されてしまうことです。なかったものとされないためにも、同評価料を算定し、賃上げのために必要なものであるとアピールを続けることが重要です。

さらに、将来的にベースアップ加算が縮小・廃止されたからといって、一度引き上げた基本給は容易に引き下げられないことは、労働基準法のかねあいもあり想像に難くありません。

2.調剤管理料再編のインパクトに見え隠れする対人業務への評価

今回の改定は算定効率の最適化を徹底的に狙っています。その最たる例として、以前は処方日数に応じて4区分で評価されていた調剤管理料(内服薬)が、今回の改定で長期処方(28日以上、60点)と長期処方以外(27日以下、10点)の2区分へと整理されました(下図)。
現行 改定後これまで比較的安定した技術料を形成していた処方に対して、「実質的な工数は変わらないはずだ」という理屈のもと、27日以下の処方のほとんどが大幅に減点されました。

業務プロセス(調剤・監査・システム入力・服薬指導)にはこれまでと同じ時間とマンパワーが必要です。それに対して診療報酬単価だけが無関係に削られる形となっています。「14日処方」を主軸としていた薬局にとって大きな痛手になることは明白です。

今回の調剤管理料の再編は、一見すると点数の引き下げによる単なる財源抑制が目的のように見えるかもしれません。しかし、その本質は複雑だった算定ルールをシンプルに整理・統合した点にあります。

ルールを簡素化したことで、評価の軸足は薬という「物への評価」(対物業務)から、丁寧な服薬状況の確認や医師への積極的な処方提案といった「人への専門的な関与」(対人業務)へと明確にシフトしました。

3.85%の壁2)

① 越えなければならない後発医薬品使用割合の壁

また、後発医薬品調剤体制加算の要件が変更されました。正確に言うと同加算は廃止され、薬局の医薬品供給体制を含めて評価する「地域支援・医薬品供給対応体制加算」に統合されています。

現在、医薬品の供給不安(限定出荷や供給停止)に端を発するサプライチェーンの崩壊が問題視されています。これはメーカーや物流の事情に起因するものであり、個々の薬局の努力で解決できる問題とは言えません。にもかかわらず、加算の算定要件は「後発医薬品の使用割合85%以上や供給体制」を現場に求め続けています。
現行 改定後
上図のとおり、旧ルールでは後発医薬品調剤体制加算として使用割合80%から加算が算定できましたが、新たに統合された「地域支援・医薬品供給対応体制加算」においては最低でも85%以上が要求されており、算定の最低ラインが引き上げられています。

さらに、前述のとおり後発医薬品の供給不安はいまだ解消されておらず、現場は「使用割合を上げるために後発医薬品を仕入れたくても十分に確保できない」という不可抗力に苦しめられています。

そのような状況においても、要件を満たせなければ加算は取り消されます。この現場にとって厳しく見えるルール設計は、現場の努力を水泡に帰しかねないリスクを伴っています。

② 都市部のルール変更と超えてはいけない集中率の壁

今回、最もビジネスモデルの再設計が要求されるのは、都市部の調剤薬局でしょう。特に経営において重要になるのが、調剤基本料で提示されている「処方箋集中率85%の壁」にどう対応するかというミッションです。

特定の医療機関に依存する「門前薬局スタイル」をとってきた薬局にとって、集中率を85%未満に抑えることが喫緊の課題になりました。そのためには、ビジネスモデルを骨組みから変更する必要があります。
処方箋受付回数等及び処方箋集中率
集中率を下げるためには、広域の処方箋を面で受け付けることが重要です。しかし、それは競合がひしめく都市部において「パイの奪い合い」にほかなりません。

「面」で受けるためには幅広い備蓄医薬品を抱える必要があるため、デッドストックリスクとキャッシュフローの悪化を招く可能性が高いでしょう。かといって、集中率85%以上のままでいると、基本料は引き下げられ、算定ハードルはさらに高くなります。

このように都市部の中小薬局は負の連鎖に悩まされており、収益性と安定性のバランスをどう取るかシビアな分岐点に立たされていることが理解できます。

4.個店に突きつけられたデッドライン:2年後の生存確率を上げるために

このように、大きなパラダイムシフトの中で、資本力や人的リソースに限りのある個店の経営は厳しさを増しています。今回の改定が今以上に薬局への影響が本格化するのは、経過措置が切れ、実務データが出揃う2年後(令和10年度改定)でしょう。

「かかりつけ薬剤師指導料」の算定実績がない薬局は、先々地域支援の枠組みから脱落していく可能性があります。個店においては、薬剤師の数が限られているため、24時間対応や在宅対応のシフトを組むこと自体が物理的・人的に限界を迎えつつあります。

大手チェーン薬局がエリア内でのリソース融通やシフト最適化、共通システムによる事務作業の自動化を進める一方で、個店はほとんど手作業によってこれらの過酷な作業をクリアしなければなりません。筆者は、こうした環境の違いによって生じる課題を踏まえながら、強みを発揮できる環境づくりが重要であると考えています。

まとめ:淘汰というピンチではなくビジネスモデル再構築のチャンス

今回の改定は「要件を満たせない従来型の薬局経営では対応が難しくなる」という、国からの厳しいメッセージのように感じざるをえません。初回のレセプト請求が終わり、振り込まれる金額が目減りしている現実に直面したとき、多くの経営者は改めて構造的な変化の大きさに愕然とするのかもしれません。

しかし、単に悲観するだけでは未来は開けないことも事実です。「これまで通り」が通用しない状況は、むしろ「ビジネスモデル再構築」の好機ではないでしょうか。

重要なのは在宅特化へのシフト、店舗統合、他店との協業などの生き残り戦略を立案し、実行していくことでしょう。これまでの依存構造や非効率な業務といった課題を直視し、痛みを伴う再設計を行えるかどうか。多くの薬局経営者の手腕が試されることになります。

日本薬剤師会は昨年「地域医薬品提供体制強化のためのアクションリスト」3)を策定し、個々の薬局が自力で機能を果たすだけではなく、薬局間連携のもと地域で機能を果たす方向を打ち出しました。今回の改定はこの方針を受けて、面で支えることを強く意識したものであり、限りある財源の中でギリギリの組み直しが行われたようにも見受けられます。

一方で、いわゆる「病院前の景色」や「薬局が密に存在する状況」に対して、強くけん制することを忘れていません。繰り返しになりますが、構造的課題という大きな壁に対して、国が構想する未来予想図に薬局業界全体としてどう向き合うか、そしてその持続可能性をいかに確保していくべきか、それが今後の方向性になるのではないでしょうか。変化に向き合いながら、新たな価値を創出していく薬局の取り組みに注目していきたいと思います。

参考URL
1)「令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料等について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
2)「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001717704.pdf
3)「地域医薬品提供体制強化のためのアクションリストについて」https://www.nichiyaku.or.jp/yakuzaishi/activities/division/actionlist
※ 参考URLは行政サイト等、発行元の仕様変更によりリンク切れとなる場合がございます。その際は、記載の『資料名』にて検索のうえご参照ください。

〈編集後記〉

前回のコラム(令和8年度(2026年度)診療報酬改定を「経済的緊急対応」と「構造改革」の側面から解説)では、前向きな内容に評価をいただいた一方で、プラスの実感はいまだ得られていないという指摘も頂戴しました。

今回のコラムはそういった反響を踏まえて、比較的厳しい指摘を列挙し、最終的には「ビジネスモデル再構築のチャンスです」とポジティブな結論につながるよう編集しました。前回よりもきつい表現を用いていますが、その裏側に前向きな気持ちと共感を込めました。そういった行間にも着目してください。そして、ぜひ皆様の声を聞かせてください。(学術部:N.U.)

  • ※この記事は情報提供を目的としており、株式会社ユヤマ・株式会社湯山製作所の企業としての見解を示すものではございません。

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タグ : 薬局 薬剤師 令和8年度調剤報酬改定
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