電子カルテ端末の選択 デスクトップPCとノートPCについて
電子カルテシステムの端末はいわゆるPCです。当然、デスクトップPCとノートPCの2種類が存在しています。
本記事では、これらPCについて、電子カルテシステムの端末としての観点からご説明します。
デスクトップPCのメリットと選定理由
こちらでは、デスクトップPCのメリットや選定される理由についてご説明します。
視認性
デスクトップPCの大きなメリットはディスプレイの大きさを自由に選択できることです。
科目や個人のスタイルにもよりますが、診察室で医師が診察を行う際のポジションは患者と極力向き合うように座ります。いわば「半身の体制」で電子カルテを操作することになります。少し離れた位置からでも、斜めの角度からでも表示内容を素早く正確に目視できる適切な大きさのディスプレイは電子カルテの操作性を担保する上での必須の要件といえます。
また、電子カルテでは画面を患者に見せて「説明用ツール」として活用する場合もあります。
ディスプレイの大きさ・見やすさは診療の質に直接影響を及ぼす大切なポイントとなります。
一般的な事務作業での使用や私物PCにおけるゲーム遊びでは使用する個人の裁量の範囲ということになりますが、ノートPCの小さな画面に顔を近づけて覗き込むように操作するのは、診察室での電子カルテ入力のシーンでは大きな負担となります。
操作性
デスクトップPCには付属品としてフルサイズのキーボードが用意されています。フルサイズキーボードでは右側にテンキーが配列されています。電子カルテでは数値入力や「.」、「/」、「-」キーを用いた入力操作が多いのでテンキーは重宝します。
ノートPCでは画面のワイドレイアウト化によって本体の横幅が拡大したのを機に右側にテンキーを配列したものも増えてきましたが、テンキーが配列されていない従来的なキーボードのノートPCの場合は外付けテンキーを接続するなどの対策を講じなければ入力操作の負担は大きくなります。
加えて、フルサイズキーボードでのショートカットキー操作と同じ操作をノートPCで行おうとすると「Fn(ファンクション)」キーも更に同時押ししなければならないなど、キー打鍵数の負担が大きくなります。
使い慣れてしまえば大差ないかも知れませんが、電子カルテ導入当初の操作に不慣れな時期には入力操作の負担が少ない方が得策です。
先に述べた視認性とあわせて、患者と向き合っての診察を行う上で電子カルテの取扱いにまつわる負担は最小限に止めつつ、電子カルテ導入の効果を最大限に発揮させるための選択を行いたいものです。
既設端子数
デスクトップPCでは筐体の前面と背面に各種端子が多く配置されています。診察室の電子カルテ端末でクラーク運用を行う場合も、画像ケーブルやマウス•キーボードケーブルを接続し、画像出力設定を調整するだけで直ちに使用することが可能です。ノートPCではUSB-HUBを介在させるなどの増設が必要です。
筐体容積
サーバ専用機を設置しない「簡易サーバ構成」で電子カルテを導入する場合、少なくとも1台のPCはサーバ兼務機(自らが電子カルテシステムのサーバとして機能しつつ、同時に一介のクライアントとして窓口業務やカルテ入力でも使用される端末)となります。サーバとして大切なデータを取り扱い、不時の障害発生時にもシステムの運用を止めない為にはストレージを冗長化するなどの対策が講じられていなければなりません。ストレージの冗長化で最も一般的な「ミラーリング」では、2つのハードディスクドライブを装備し、それぞれに同じデータを読み書きさせる仕組みになっています。
デスクトップPCではミラーリングするか否かにかかわらず複数のハードディスクドライブを内蔵する為のスペースが筐体内にあらかじめ用意されていますが、ノートPCではほとんどの場合そのようなスペースが用意されていません。
サーバ専用OS
同じく「簡易サーバ構成」におけるサーバ兼務機では「WindowsServerシリーズ」のようなサーバ専用OSがインストールされ使用されていなければなりません。マイクロソフト社のソフトウェア製品使用のライセンス規定では、複数のPCでネットワークを構築し、そこでサーバに位置付けられるPCにおいて「Windows10」などのような一般的なクライアント用OSを使用してはならないと定められています。サーバとしての役割を担うPCのOSが例えば「Windows10」であるとすると、それはマイクロソフト社のライセンス規定に抵触する行為ということになります。個人が自宅で複数台の私物PCによるネットワークを構築して利用を楽しむというのであればまだしも、医療機関が業務システムとして稼働させるのですから抗弁の余地はありません。
また、サーバ専用OSを搭載した(サーバとして使用する為の)ノートPCというものは、ほぼ皆無です。技術的な説明は割愛しますが、端的に言えばメーカーが「作っても売れないものは製造しない」からです。
コストパフォーマンス
同等のパフォーマンスが発揮されるよう設計•製造されたデスクトップPCとノートPCを比較すると一般的にノートPCの方が高価格です。これはPCを構成する各パーツに至るまでノートPCの為の小型化•軽量化のコストが反映されているからです。逆に言えば、金額が同じ場合はデスクトップPCの方が性能が良いということになります。
ノートPCのメリットと選定理由
こちらでは、ノートPCのメリットや選定される理由についてご説明します。
可搬性
ノートPCのほぼ唯一にして最大のメリット•選定理由は「持ち運べること」です。先述のように電子カルテシステムにおいてはデスクトップPCの方がメリットやそうでなければならない理由がより多くあり、どちらかと言えばノートPCでは不利な点をご説明しました。
しかしながら、例えば「そもそも端末を持ち運ぶことができなければ著しく不都合」という場面では、機能上•操作上で多少のディスアドバンテージがあったとしてもノートPCに軍配が上がります。
では、具体的にどのような場合に電子カルテ端末を簡単に持ち運ぶ必要があるのでしょうか。
以下はその例です。
- 訪問診療や往診先で医師が電子カルテを使用する場合、もちろん持ち運べる端末が必要です。
- 院長が電子カルテ記載内容を自宅で点検する場合も持ち帰ることのできる端末が必要です。
これらのように院外で電子カルテシステムを使用する場合には入力装置、表示装置として持ち運べる端末が必要となります(院外で使用するには幾通りかの方法がありますが、今回はそれぞれの詳細は割愛します。)が、持ち運びできることのメリットが発揮される場面は院内においても存在します。
- 小児科でおたふくかぜなど感染症の患児の来院用に隔離室を設置している場合、部屋を使用する時だけ持ち込み、使用後など不必要時は引き上げて院内の別のスペースで使用できる端末があると便利です。
- 精神科や心療内科で臨床心理士がカウンセリング室を使用する時だけ持ち込んで使用できる端末があると便利です。
- 業務終了後の夜間など、ケーブル類を外して本体だけ鍵のかかる引き出しやキャビネットに入れて保管できる端末であれば安心です。
「ノートPC=省スペース」とは限らない?
ノートPCのメリットについてのご説明で「省スペースは?」と思われた方がいらっしゃるかも知れません。実は、必ずしも「ノートPC=省スペース」とは限らない場合があり、この点が電子カルテ端末選定時のひとつのポイントになります。こちらでは省スペースについてご説明します。
診察室の机や受付会計窓口のカウンターでは椅子に座って業務を行う為に脚を入れる空間が存在しています。この足元のスペースにデスクトップPCの本体を安全に設置できる場合、机(やカウンター)の上にはディスプレイとキーボードとマウスだけが配置されます。結果、書類への手書きや押印などの事務的作業を行う為の平面をより広く確保することができます。
デスクトップ型PCのフルサイズキーボードはノートPCの横幅よりも広く、またディスプレイのスタンドの形状によって占有面積は若干変わりますが、キーボードの位置を移動させるだけでフレキシブルに事務作業用の平面をコントロールできる(使用しない時は壁面や側面に立てかけておくことでより大きな平面が確保できる)点まで考慮に入れると、ノートPCを設置した場合よりも限られたスペースを有効に活用できる「省スペース」が実現します。更には、「大きくて見やすいディスプレイ」や「操作性に優れたフルサイズキーボード」などのデスクトップPCのメリットも追い風となり、業務の生産性をより高めることができます。もちろん、デスクトップPCの方が導入コストを抑えられることは言うまでもありません。
他方、採血室や処置室などの壁沿いのカウンターは、基本的に立ち仕事を前提としている場合が多く、カウンター下は引き出しや棚などでスペースが埋まっています。設置する場合は、カウンター上に端末装置の全てを据えることになりますので、デスクトップPCの本体まで置けるだけの十分なスペースが確保できている場合を除いてはノートPCの方が占有スペースを小さくし、端末操作以外の業務の為のスペースをより大きく確保できるということになります。
以上のように、院内の設置場所によってどちらの方が「省スペース」であるかは変わるので注意が必要です。漠然としたイメージで捉えるのではなく、什器のレイアウト•寸法や間取り、動線などの具体的な条件に即して検討することで端末の選定ミスを回避することができます。
おわりに
本記事では電子カルテシステムの端末として、デスクトップPCとノートPCについてご説明しました。
デスクトップPCを選定する理由には「視認性」、「操作性」、「既設端子数」、「コストパフォーマンス」などがあります。
ノートPCを選定する理由は「可搬性」です。
デスクトップPCとノートPCのどちらが省スペースとなるかは端末を設置する場所など条件によって変わるので注意が必要です。
初期の一式導入時の端末選定であれ稼働中システムの端末増設検討であれ、「どこで」「何を」する為の端末であるのかをメーカー担当者に具体的に伝え、最適な投資対効果となる提案を受けるようにしましょう。

株式会社ユヤマ

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