2024.02.26クリニック開業

有床のクリニックと無床のクリニックの違いとは? 開業医が知っておきたい設備・人員基準と最新動向について解説

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有床のクリニックと無床のクリニックの違い

クリニックを開業するにあたって、病床(ベッド)の有無つまり「有床のクリニックにするか無床のクリニックにするか」は、収益構造や先生ご自身のワークライフバランスを左右する極めて重要な判断です。厚生労働省の最新の統計では、有床のクリニックは減少傾向にある一方、無床のクリニックは安定的に増加しています。

本記事では、開業を準備されている先生方に向けて、有床のクリニックと無床のクリニックの法的な定義、最新の施設数動向、医療法に基づく構造設備基準や人員配置基準、業務内容、そして開業手続きの違いについて解説します。

無床のクリニックとは?

医療法において「診療所(クリニック)」とは、「患者を入院させるための施設(病床)を有しないもの又は19床以下の病床を有するもの」と定められています(医療法第1条の5第2項)。※1

「無床のクリニック(無床診療所)」とは、その名の通り、患者を入院させるための病床を一切持たないクリニックを指します。かかりつけ医や専門分野に特化した医療を提供するクリニックも多く、近年では高齢者や障害のある方など、通院が困難な方のために往診や訪問診療に対応するクリニックも増えています。

厚生労働省が発表した「医療施設動態調査(令和7年8月末概数)」によると、2025年8月末時点での全国の一般診療所(クリニック)の総数は105,519施設です。そのうち「無床のクリニック」は100,336施設であり、一般診療所総数の約95.1%を占めています。前月比を見ると、病院や有床のクリニックが減少する一方で、無床のクリニックは81施設増となっています。現在の日本では、クリニック開業のスタンダードは無床であるといえます。※2

 
施設数
引用元:厚生労働省. 医療施設動態調査(令和7(2025)年8月末概数) ※2
 

関連記事:現在の日本にあるクリニックの数と今後の推移について解説

有床のクリニックとは?

前述の医療法の定義に基づき、1床から19床までの入院設備を持つクリニックが「有床のクリニック(有床診療所)」として区分されます。なお、病床が20床以上の医療機関は「病院」として区分されます。※1

「医療施設動態調査(令和7年8月末概数)」によると、2025年8月末時点の「有床のクリニック」の数は5,183施設であり、一般診療所総数の約4.9%にとどまっています。前月比は18施設減ですが、直近3年間を見ると大幅な減少傾向が続いています。令和4年には5,958施設ありましたが、令和5年には317施設減って5,641施設に、令和6年にはさらに226施設減って5,415施設となっています。令和7年8月末時点ですでに232施設減っていることから、令和7年の減少幅はさらに大きくなることが見込まれています。※2、3、4

この減少の背景には、医療費の適正化を目指して病床数を減らそうとする国の方針があります。また、後述する構造設備や人員配置のハードルの高さ、看護師をはじめとする医療スタッフの確保難、そして管理者となる先生ご自身の負担(宿直義務など)なども影響していると考えられます。

「開業するなら無床?有床?」ではない

統計データだけを見ると、「開業するなら無床のクリニックのほうがいいのでは」と考える先生方も多いかもしれません。しかし、どちらの形態を選択するかは統計の多寡ではなく、先生がどのような診療方針を持ち、地域医療においてどのような役割を担いたいかによって決まります。

無床のクリニックは、外来診療が経営の柱となります。入院設備を持たないため医師の宿直義務(医療法第16条)はなく、厳格な設備基準(医療法施行規則第16条)や看護師の24時間配置基準(医療法施行規則第19条の2第2項)もありません。その分、初期投資や運営コストを抑えやすく、特に都市部でのテナント開業などに適しています。※1、5

一方、有床のクリニックは外来診療に加えて入院管理も行うため、外来収益に加えて入院基本料などの収益が見込めます。しかし、そのためには医療法が定める病室面積や廊下幅の法定基準や看護職員の24時間配置基準、原則として医師の宿直義務など、さまざまな高いハードルを乗り越える必要があります。※1、5

無床のクリニックの特徴

無床のクリニックの特徴

無床のクリニックの最大の特徴は、入院設備を持たないことです。

省スペースでの開業が可能

病室やナースステーション、入院患者用の浴室などが不要なため、クリニック全体の床面積をコンパクトにできます。省スペースで開業できるため、都市部の駅前ビルや医療モール内のテナントなど、物件の選択肢が格段に広がります。

自宅の一部をクリニックにすることも可能

省スペースで開業できるということは、先生のご自宅とクリニックを一体化させた「併用住宅」での開業も選択肢に入ります。ただし、その場合は医療法に基づき、患者と家族の動線を明確に分離するなどの衛生管理上の区分けが求められます。※1

ワークライフバランスの確保

入院患者がいないため、原則として夜間・休日の看護体制や医師の宿直が不要です(ただし、在宅医療を行う場合は別途オンコール対応が発生します)。先生ご自身やスタッフのワークライフバランスを確保しやすいといえます。

医業費用の抑制による医業利益率の向上

近年、医療機関の経営状況は厳しくなっており、その背景には近年の物価高や人件費高騰に伴う医業費用の増加が影響していると考えられます。医科診療所についても、有床・無床ともに給与費や材料費は増加していますが、入院収益のない無床診療所の方が材料費や給食委託費を抑制できる分、医業利益率が高い傾向にあります。※6

 
医科診療所の経営状況
引用元:厚生労働省保険局医療課. 医療機関を取り巻く状況について(中医協 総-4 7.10.29) ※6

有床のクリニックの特徴

有床のクリニックの特徴

有床のクリニックは、地域医療において「病院(20床以上)」と「無床のクリニック」の中間に位置し、外来と入院の両方の機能を持つことが最大の特徴です。

24時間対応による患者の安心感

外来で診ている患者の容態が変化した際に、自院で入院加療を行える体制は、患者にとって大きな安心感につながります。

対応可能な診療内容の拡大

短期入院が必要な手術や術後の経過観察、分娩管理など、入院ベッドがあることで対応可能な医療の幅が広がります。

患者の費用負担の抑制

病院に入院する場合は「一般病棟入院基本料」、有床のクリニックに入院する場合は「有床診療所入院基本料」が適用となり、患者にとっては病院(20床以上)と比較して入院基本料を抑えられる場合があります。

病診連携による収益構造

地域の基幹病院から急性期治療を終えた患者(ポストアキュート)や、急性期入院には至らない患者(サブアキュート)の受け皿として機能します。紹介による入院患者も受け入れることで、さらに収益の柱を増やすことができます。

無床・有床のクリニックの開業手続き

開業手続きにおいて、無床のクリニックと有床のクリニックでは、特に開設前の「構造設備」の審査と開設後の「人員配置」の要件が大きく異なります。それぞれの開業手続きの概要をご紹介します。

無床のクリニックの開業手続き

開業エリアやテナントなどが決まった後、クリニックを開業する際の基本的な流れは以下の通りです。※7

  1. 管轄の保健所に事前相談(開設スケジュール見込み、平面図、提出書類など)
  2. 「診療所開設届」を提出(開設後10日以内)
  3. 保健所の実地調査
  4. 厚生局に「保険医療機関指定申請」を行った後、保険診療開始

また、以下は無床のクリニックを開業する際に必要な書類と部数の一例(医師が開設する場合)です。※7

  • 診療所開設届出書:2部
  • 管理者の臨床研修等修了登録証の写し及び免許証の写し:2部(原本も持参)
  • 管理者の職歴書:2部
  • 診療に従事する医師の臨床研修等修了登録証の写し及び免許証の写し:2部(原本も持参)
  • 土地及び建物の登記事項証明書:2部
  • 土地又は建物の賃貸借契約書の写し(賃借する場合のみ):2部(原本も持参)
  • 敷地の平面図:2部
  • 敷地周囲の見取図:2部
  • 建物の平面図:2部
  • エックス線診療室放射線防護図:2部
  • 案内図:2部
  • 診療に従事する医療従事者の免許証の写し(原本も持参)

これらの手続きや書類は、地域や地方自治体によって様式や必要部数が異なります。必ず事前に管轄の保健所に確認してください。

関連記事:クリニックの開業に必要な申請や届出をまとめて解説

有床のクリニックの開業手続き

有床のクリニックは患者の生命を預かる入院施設であるため、医療法、建築基準法、消防法などが定める極めて厳格な基準を満たす必要があります。

構造設備基準(病室面積・廊下幅)

有床のクリニックの開業で最大のハードルとなるのが、医療法施行規則が定める「構造設備基準」です。以下は構造設備基準の一例です。

病室の面積(医療法施行規則第16条の3)※5

患者1人あたりの床面積(内法)は、病床の種類や患者の人数によって厳密に定められています。
例:療養病床は6.4m2以上、一般病床(1人室)は6.3 m2以上など

廊下の幅(医療法施行規則第16条の11)※5

火災などの緊急時にベッドやストレッチャーのまま安全に避難できる動線を確保する必要があります。
例:療養病床は幅1.8m以上(中廊下は2.7m以上)、一般病床(患者10人以上)は幅1.2m以上(中廊下は1.6m以上)など

特に、療養病床の中廊下で求められる「2.7m」という幅は、一般的なビルや商業テナントではまず満たすことができないことから、最も厳しい基準のひとつといえます。そのため、有床のクリニックを開業するには専用に新築するか、もともと有床のクリニックや病院だった物件(居抜き)を探すかに事実上限定され、初期投資が著しく増大する要因となります。

関連記事:クリニックの開業に向いている物件の探し方をご紹介

関連記事:クリニックを開業する際の居抜き物件を選ぶメリット・デメリットとは?

人員配置と業務(看護職員・医師宿直)

「人員配置」と「管理者の業務」は、開業後も継続して維持しなければならない課題です。

看護職員の配置基準(医療法施行規則第19条の2第2項)※5

24時間体制で入院患者のケアを行うため、入院患者4名に対して看護職員1名以上の配置が基本です(4対1配置)。これは夜間や休日を含めた基準です。安定したシフトを維持するには十数名規模の看護職員が常時必要となり、無床のクリニックとは比較にならない人件費と労務管理の負担が生じます。

医師の宿直義務(医療法第16条)※1

医療法第16条により、有床のクリニックの管理者は、原則としてそのクリニックに宿直しなければならないと定められています。これは、先生ご自身のQOLに極めて大きな影響を与えます。

ただし、一定の条件(常時連絡可能、速やかな駆けつけが可能など)を満たし、所在地の都道府県知事の承認を得た場合には、院外での待機が認められる例外規定があります。とはいえ、この例外規定においても「速やかに診療を行う体制」の確保が求められるため、遠出はできません。事実上は365日、気が休まらない「自宅待機」に近い状態となります。※8

ユヤマの電子カルテの特徴

ユヤマの電子カルテ

「開業にあたって電子カルテシステムを導入し、業務効率化を徹底したい」
「クリニック開業にあわせて、無床のクリニックに最適な電子カルテを導入したい」

無床のクリニックの場合は入院収益がないため、外来診療の質や患者満足度を高めて集患を目指し、1日あたりの外来患者数をいかに増やすかが鍵となります。限られた時間とスタッフで、受付、診察、検査、会計、処方をスムーズに行う「業務効率化」が、経営の最重要課題といえるでしょう。
当社が提供する無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズは、先生方の診療を支援し、業務効率化を実現するさまざまな機能を有しています。その一例をご紹介します。

受付・診療の業務効率化を支援するWeb問診「BB問診」(オプション)

患者が診察前に回答した問診内容を電子カルテに自動転記するため、受付業務の効率化が実現します。また、AIが問診内容と過去の電子カルテに記録されている診療情報を解析し、病名の候補表示や推奨されるオーダー候補を提案します(提案病名の確度はデータ量により異なります)。これにより、受付業務の負担軽減と診察時間の短縮に貢献します。

関連記事:AIで進化するWeb問診:メリットと課題、クリニックに最適なシステムの選び方を解説

開業医のクリニック経営を支援する「BB.Insight」

「BrainBox」シリーズには、経営支援ツール「BB.Insight」が搭載されています。患者数や診療報酬額、滞在時間の平均など、電子カルテに蓄積されたさまざまな診療データをAIが分析・予測し、先生方の経営判断をサポートします。他院へのデータ提供をすると他のBrainBoxユーザーの匿名化された医療統計と比較でき、他院にデータを共有しない場合は自院のデータのみでの分析が可能です。日々の外来業務の効率化が求められる無床のクリニックにおいて、経営を強力に支援する機能です。

 
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有床・無床のいずれも開業前に十分な情報収集が重要

本記事では、有床のクリニックと無床のクリニックの定義、最新の施設数動向、そして医療法に基づく設備・人員基準や業務内容、開業手続きの違いについて解説しました。

有床のクリニックは地域医療における入院機能の受け皿として重要な役割を担いますが、高い初期投資が求められる構造設備基準や24時間体制を維持するための人員配置と人件費、そして先生ご自身の宿直義務など多くのハードルが存在します。一方、無床のクリニックは開業のハードルが比較的低く、先生のワークライフバランスも確保しやすい反面、外来診療の効率化と患者満足度の向上が経営の生命線となります。

開業する先生ご自身の診療方針はもちろん、地域医療で担いたい役割や長期的な経営プランなどを総合的に勘案することが、クリニック経営の成功において重要といえます。

参考資料

※1 e-GOV法令検索. 医療法(昭和二十三年法律第二百五号.
※2 厚生労働省. 医療施設動態調査(令和7(2025)年8月末概数).
※3 厚生労働省. 令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況.
※4 厚生労働省. 令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況.
※5 医療法施行規則(昭和二十三年厚生省令第五十号).
※6 厚生労働省保険局医療課. 医療機関を取り巻く状況について(中医協 総-4 7.10.29).
※7 東京都保健医療局. 診療所・歯科診療所の開設等.
※8 厚生労働省. 医師の宿直義務の例外について.

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