なぜ電子カルテを導入しないのか、導入率が上がらない理由とは
電子カルテには単に診療録情報の電子化だけではなく、院内の他の業務を効率化できるなどのさまざまなメリットがあります。
しかし、日本においては電子カルテの普及率が100%には至っていません。
本記事では、電子カルテの普及率が上がらない理由をご紹介します。
電子カルテ導入率の規模別比較
一口に「電子カルテ導入率」と言っても、医療機関の規模によってその様子は大きく異なります。
厚生労働省の医療施設調査によると、電子カルテの導入率は例えば下記のようになります。
「大規模病院(400床以上)」
2008年「38.8%」 → 2017年「85.4%」
「診療所」
2008年「14.7%」 → 2017年「41.6%」
それぞれ10年間で倍増しているとも言えますが、かたや大規模病院で8割を超えているのに対して診療所では半数に満たない状況です。
このような差が生じているのには理由があります。そしてその理由を見れば「導入率が上がらない理由」も同時に明らかになります。
まず、大規模な病院はその地元の公立(県立、市立など)の医療機関である場合が多いです。運営の主体はそれぞれの地方自治体であり、その意思決定に従い営まれています。
2001年、当時の政府によって「医療制度改革大綱」が取りまとめられ、同年「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」が決定されました。そして、特に医療情報システムについては達成年次や政府として講ずるべき施策も盛り込まれました。具体的には「2006年度までに400床以上病院の6割以上、全診療所の6割以上に電子カルテを普及させる」という日本国政府としての達成目標が掲げられたのです。
このような場合、地方自治体はどのように反応するでしょうか。中央政府が何か方針を正式発表すると、「政府が掲げた目標にならい、自分たちも地元での達成を目指そう」という意向が働きます。「電子カルテ導入」と聞けば、現場の医師をはじめ医療従事者の皆さんは様々な意見を持たれた筈ですが、それら現場の様々な意見や賛否の声の如何に関わらず、予算案が議会で承認され通過すれば電子カルテ導入は決定されます。もちろん全ての大病院が公立という訳ではないのでこれが全ての理由ではありませんが、地方自治体の意向が導入率進捗の追い風となっていたことは間違いありません。ましてや国立病院などであれば「国の機関として示しがつかないような事があってはならない」という風が吹いたであろうことは想像に難くありません。
一方、診療所についてはその多くが民間の医療機関です。個人経営の診療所であれば院長先生が、医療法人化しているのであれば理事長先生が、医師として患者さんの診察に携わりながら同時に医業経営者として診療所の運営をなさっています。患者さんに提供される医療の質を最大限高める為に有限の原資を元手に経営判断を行うので「必要なものは買います。」「不要なものは買いません。」また、「優先順位の低いものは今は買いません。」
上述の通り診療所での導入率は2008年の14.7%から2017年の41.6%へと10年間で倍増しています。大規模病院の率と比較すると見劣りしてしまいますが、それでも着実に増加しています。つまり、これら診療所での電子カルテ導入率は、現場医師であり且つ医療機関の経営者である全国の先生方の賢明な経営判断の道程であり現在位置を示しているのです。
以上から、大規模病院と診療所で電子カルテ導入率に差が生じている理由は「むしろ診療所の方が要不要の判断がストレートに反映されているから」であると言えます。
診療所で電子カルテ導入率が上がらない理由
先に述べましたが、診療所で電子カルテが導入されていない場合の理由は「不要だから導入しない」や、「優先順位が低いので今は導入しない」です。これらについてもう少し詳しく見ていきます。
○不要だから導入しない
まず第一に、法律で導入を義務化するなどのような極端な施策を行わない限りは医業経営者の自由意志によって「導入しない」という判断を行うことがそもそも可能です。そして、「不要である」ことを理由として「導入しない」ことが可能です。自転車を例にたとえると、「自転車が人によっては便利で有益な道具たり得ることはもちろん認めるが、私には不要である。」という人も必ず存在するのですから当たり前です。
では「不要」である更にその理由は何でしょうか。一般的に何かを「不要」と判断する時、その主な根拠は「無益(=役に立たない)」や「有害」です。
紙カルテ運用を行っている既存診療所において、中途から電子カルテを導入しようとすると言わば「診察のスタイル」が変わります。そして診察のスタイルが変わるということは「提供する医療の質が変わる」ことを意味します。自らの目指す医療を実践していく上でそれらの「変化」が望ましいものであるか否かをアセスメントした結論として「無益」や「有害」であると判ぜられた場合、そのような本末転倒な投資を行うことはあり得ません。
○今は導入しない
「優先順位が低いので今は導入しない」とひとまず表現しましたが、「今は導入しない」という判断については詳しく見ていくと優先順位以外にも要因がある場合があります。
まずは「優先順位が低い」場合です。先述の通り決して無尽蔵ではない原資によって運営していくのですから、他の院内機器や設備などを新たに買う(or買い替える)ことが必要である場合、電子カルテの導入検討は当然後回しになります。「電子カルテを導入することよりも診療所出入口のバリアフリー化(=工事)の方が先だ」というように、先生方は常に何を優先すべきか考え、判断をしながら診療所の運営をされているのです。
また、「不要」の議論と関連するのですが「時期尚早」という意味で「今は導入しない」と判断されている場合があります。「使いやすく自院の実情にマッチした電子カルテシステムがあるのであれば積極的に導入を検討したい」のであるけれども、システムメーカー各社製品を研究した結果として「どんどん良くなってきてはいるが、まだもう少し待った方が良さそうだ。」との結論から現段階では導入していないという場合です。
他に、「レセコンを2年前にリースで導入(or買い替え)したので、5年間の契約満了まであと約3年は他のシステム導入の検討はしない」というような状況も「今は導入しない」の背景理由として挙げることができます。
繰り返すも、患者さんを診察する現場医師として、また医療機関の経営者として、有限の原資を用いて提供できる医療の質を最大限に高める為の先生方のご判断が現在の診療所向け電子カルテの導入普及率として表れているのであって、決して「導入率が高い=医療の質が高い、意識が高い」や「導入率が低い=医療の質が低い、意識が低い」などという誤った論理で語られるべきものではないということに注意が必要です。
今後の診療所向け電子カルテ普及に向けて
診療所での電子カルテ導入が更に進む為のポイントは電子カルテシステムメーカー各社の更なる開発努力と補助金制度の活用です。
小規模な医療機関では「意思決定の早さ」が運営上のひとつの特徴です。
今よりも更に使いやすく便利なシステムを目指して各社が企業努力を重ねることにより、前向きに導入を検討する施設が増加するでしょう。
また、IT導入補助金制度を利用することによって金銭的なハードルを下げることができれば優先順位が変化し、導入検討に着手することができるようになるでしょう。地元の商工会議所や電子カルテメーカー担当者に相談することをおすすめします。
おわりに
本記事では、電子カルテが普及しない理由についてご説明しました。
診療所での導入率が大病院よりも低い理由は「むしろ診療所の方が要不要の判断がストレートに反映されているから」です。その多くが民間医療機関である診療所の経営では、患者さんに提供される医療の質を最大限に高める為に必要なところから順に資金が投じられています。
診療所で電子カルテ導入が進む為のポイントは電子カルテシステムメーカー各社の更なる開発努力と補助金制度の活用です。
これらの事について電子カルテメーカー担当者に一度相談されてはいかがでしょうか。

株式会社ユヤマ

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