電子カルテデータの二次利用とは?
近年、いつでも患者さんのデータをすぐに見られる、またデータの入力や管理が容易になる電子カルテの導入率が高まっています。
以前の紙面のデータと違い、迅速に患者さんの服薬履歴や診療履歴を確認し、現在の状態も追記することが可能です。
そのようなデータは、当該患者さんの為だけに用いられるのでしょうか?
今回は、電子カルテデータの二次利用についてご紹介します。
電子カルテデータの二次利用とは?
そもそも二次利用とは、診療情報を収集する、本来の目的外のためにその情報を利用することです。
例えばこれまでの診療データを利用した研究論文の作成や学会発表、自院の医業経営分析など、利用用途はさまざまです。
そのためには、一定以上の情報量が必要になります。
紙カルテの場合、院外での紛失を防止するため持ち出すことができず、また情報利用の際には膨大な紙の中から必要な情報のみを探し、抜き出し、ひとつひとつデータ入力作業を行うところから行わねばならないため大幅な工数がかかってしまいます。
電子カルテにおける二次利用について
電子カルテであればどうでしょうか。
カルテ情報が電子化されていれば任意の条件での抽出や集計が容易に行えます。
また院外に運び出すことはないため、院内ネットワークのセキュリティが堅牢なものであれば情報漏洩することはありません。
つまり、二次利用されるデータは電子カルテ内に蓄積されたデータとなるため、膨大なデータを比較的容易に取り扱うことができるようになります。
一次利用とは?
ちなみに一次利用とは、患者さん毎の診療録としての本来の情報の使い方のことです。取得した情報を本人の為に使用する、という意味ではPHR(パーソナルヘルスレコード)や地域医療情報ネットワークにおける情報共有も一次利用ということになります。
近年、施設の垣根を越えてより広範囲からより大量のデータを集積した「医療ビッグデータ」として大規模に二次利用していくための政府の取り組みが本格化しています。
「大きすぎて扱いきれない」というニュアンスも含ませて名付けられたとされるビッグデータは、情報処理のソフトウェアやハードウェア、インフラの進歩発展によって今や私たちの生活の中で活かされる時代となりました。
医療、ひいては健康や介護といった分野においても大規模に二次利用していこうという取り組みが始まったのです。
大規模な二次利用で期待されるメリット
「医療ビッグデータ」のように大規模にカルテデータが二次利用されるメリットはどのようなものでしょうか?
政府が活用を目指している医療ビッグデータの全体像は、実は単に数多くのカルテデータを集めるだけに止まらず、保険請求(レセプト)データや介護保険の要介護認定データなどのような隣接する分野の様々なデータを高度に連結・統合させた集合体となっています。
これらのデータを分析活用することによって、今まで認識されていなかった副作用を発見したり、新しい治療法が考案されたり、より適切な診療報酬(保険点数)の設定ができるようになることが期待されています。
「ビッグデータ」とは?
ビッグデータとは、人では全体を把握することが困難なほど巨大なデータ群で、一般的にはVolume(量)、Variety(多様性)、Velocity(速度あるいは頻度)の頭文字を取った「3つのV」を高いレベルで備えていることが特徴です。
また、データの発生頻度や更新頻度が多いという特徴もあり、ビッグデータを取り扱うコンピュータには高速処理や情報の蓄積といった機能が必要です。
さまざまな業界においてこのビッグデータを用いて、マーケティング活動に利用したり意思決定に必要な情報を引き出したりといったことが期待されています。
電子カルテを含む医療業界では、個人情報を保護したうえで下記のようなビッグデータを収集、活用します。
- 診断情報
- 処方データ
- レントゲンなどの画像
- 各種傷病に関するデータベース
これらのビッグデータを人工知能である「AI」が分析・解析し、診療や処方の際に活用されます。
ビッグデータとAI
AIとは人の思考や判断などの一部を、ソフトウェアを用いて再現する、人工知能と呼ばれるものです。
近年ではチェスを人の代わりにプレイしたい、自動運転といった人の思考や判断が必要なものにもAIが使われるようになっています。
AIには、ビッグデータを用いた「高速処理」と「学習機能」が必要です。
先述の通り、ビッグデータとは人では全体を把握することができないほどの膨大なデータを指し、それらの中から必要なデータを抽出するためにAIには高速処理が必要となります。
また、必要なデータなのかを判断するためにはAIに学習させることで、より正確な答えを出してもらうことができます。
つまり、ビッグデータとAIは切り離せない存在であると言えます。
大規模な二次利用に向けての課題
こちらでは、大規模な二次利用に向けての課題をご紹介します。
患者さんの個人情報の保護
診療所の医師が症例報告の論文作成をおこなう場合であれ、製薬企業が大規模な分析を行う場合であれ、カルテデータの二次利用において絶対に守られなければならない大前提は、患者さんの個人情報保護です。
改正個人情報保護法では、「要配慮個人情報」として予め説明を行い、同意が得られた患者さんの医療情報でなければ第三者提供を行うことができません。
また、同法に対応して、のちに制定された次世代医療基盤法に従い、厳しい基準をクリアして国の認定を受けた事業者のみが医療機関から情報を収集し「匿名化」の加工を施した医療情報として、研究機関などに提供を行えると定められています。
認定基準が厳しすぎれば新たに名乗りをあげる事業者が増えにくくなりますし、匿名加工の基準を厳しくしすぎるとデータの要素が削ぎ落とされ、活用の可能性が限定的なものになってしまいます。
良質なデータの収集
電子カルテを活用する可能性の観点からは、認定事業者への情報提供は医療機関の義務ではないため、提供の追い風となる制度(インセンティブ)を設けなければ良質なデータ収集が行えないのではないか、という議論もなされています。医療機関で情報提供に従事するマンパワーの為の原資が保証されないのでは経営上の持ち出しとなり、巡り巡ってそのしわ寄せは提供される医療サービスの質的低下という本末転倒へと至るのですから当然です
良質なデータを収集するための補助的な手段には、下記の4点が挙げられます。
- 地域医療連携
- 病診連携
- 連携パス
- 学会発表
これらを活用することで、より良質なデータを収集し、ひいては患者さんにより良質な医療を提供することができます。
収集するデータ
医療において収集するデータには、下記が挙げられます。
医療情報
病院や診療所など、医療機関全般から収集する情報で、下記が含まれます。
- 医療機関
- 患者さん
- 患者さんが加入している保険や、適用される保険
- 傷病名
- 日付時刻
- 診療科・医師
- 診療内容
- 投薬、処置、手術、検査、画像診断、リハビリなど各種オーダ詳細
- 備考
また、例えば糖尿病を患っている患者さんについては、注射情報や糖尿病に関連する病歴なども収集対象となります。
健康情報
健康情報とは患者さんの健康に関する情報で、高齢者だけではなく妊婦や乳幼児も含まれます。
下記、収集するデータ項目の一例です。
- 妊婦健診調査
- 乳幼児健診調査
- 就学時健康診断
- 学校健診
- 定期健康診断
- 特定健診・特定保健指導
- 健康増進事業
- 後期高齢者健康診査
介護情報
介護情報については介護を受けている人の名前や性別といった基本情報だけではなく、ケアサービス計画とその評価内容なども含まれます。
それ以外では、下記のような情報も収集対象となります
- 主治医意見書
- 要介護度
- 訪問看護指示書
- 特別訪問看護指示書
- 精神訪問看護指示書
- 訪問看護計画書
- 特別訪問看護計画書Ⅰ・Ⅱ
- 訪問看護報告書
- 各種介護記録
死亡情報
医療で活用するデータには、現在も生活を送っている人だけではなく死亡者の情報も含まれます。
死亡者については、下記の情報がビッグデータで活用されます。
- 死亡診断書、死体検案書
- 出生証明書
- 死産証明
生活情報
現在も生活を送っている人からは、下記のようなデータが収集されます。
- 利用者基本情報
- 医療機関
- 介護事業所情報
- 保険情報
- 検査情報
- 治療情報
- 介護事業所利用情報
- 日常活動状況
これらのデータを正しく判断し、必要なときに必要な情報を引き出して二次利用されます。
また、医師の判断だけではなくAIによる提案なども近年の医療では進められています。
おわりに
今回は電子カルテデータの二次利用についてご紹介しました。
二次利用とは、本来の目的である診療とは違うデータの利用方法になります。
二次利用のメリットは、医学研究の進歩やより良い医療の発展に寄与することです。
二次利用の課題は、個人情報保護との両立です。法律や制度の更なる整備など、課題をクリアしながらより大きなメリットを目指す政府の取り組みは続いています。
今まさに電子カルテに入力されているデータの一つ一つが明日のより良い医療を実現する為の礎となる時代がいよいよ到来します。
出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/jisedai_kiban/dai5/siryou7.pdf)

株式会社ユヤマ

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