2026.02.04電子カルテ

医療DXの基本とは?今すぐ知っておきたい具体例とメリット

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医療DXの基本

少子高齢化に伴う医療需要の増大と、生産年齢人口の減少による医療従事者の不足は、避けて通れない現実として私たちの目の前に立ちはだかっています。こうした背景の中、社会保障制度を持続させるためにも政府は「医療DX令和ビジョン2030」を掲げ、医療情報のデジタル化と利活用を最重要課題のひとつと位置づけています。

クリニックにおける医療DX(デジタルトランスフォーメーション)も、単なる便利なシステムの導入にとどまらず、クリニック経営そのものを変革し、患者満足度と職員の働きやすさの実現を手助けする可能性を秘めています。本記事では、開業医の先生方やこれから開業を目指す先生方に向けて、医療DXの基本的な概念から具体的な施策、得られるメリットや対策すべきデメリットなどを網羅的に解説します。

医療DXの基本概念

まず、医療DXの定義として、単なる「IT化」との違いや今の日本において医療DXが重要視されている背景について解説します。

医療DXとは何か

医療DXとは何か
医療DXとは、保健・医療・介護の各ステージにおいて発生する膨大な情報やデータを、クラウドなどのデジタル基盤を通じて一元的に管理・活用し、業務効率化や医療の質の向上、さらには国民の健康寿命の延伸を実現する社会的な変革を指します。

従来の「医療IT化」は、アナログ作業のデジタルへの「置き換え(デジタイゼーション)」が主眼でした。例えば、紙のカルテから電子カルテへの移行や、レセプト請求のオンライン化などが挙げられます。

これに対し、医療DXはデジタル化されたデータを連携して、新たな価値を生み出すことを目的としています。具体的には、以下の変革が挙げられます。

1.情報のシームレスな連携

これまでは各医療機関のサーバー内に閉じていた患者情報が、セキュアなネットワークを通じて共有され、救急搬送時や災害時、あるいは転院時においても、必要な情報(薬剤情報、アレルギー情報、過去の診療歴など)が即座に参照可能になります。

2.データ駆動型の診療支援

蓄積されたビッグデータをAIなどが解析し、診断支援や治療方針の決定をサポートすることで、医師の経験や勘に依存しすぎない、標準化された高水準な医療を提供できる体制が整います。

3.患者中心の医療体験

スマートフォンアプリなどを通じて、患者自身が自分の健康データ(PHR:Personal Health Record)を管理・閲覧できるようになり、医療への主体的な参加が可能となります。
つまり、医療DXとは単に便利なツールを導入することではなく、デジタル技術を幅広く活用して、医療のあり方そのものをより良い方向へ進化させる取り組みといえるでしょう。

医療DXが求められる背景

医療DXが求められる背景
医療DXが推進されている背景には、個々の医療機関の努力だけでは解決できない構造的な課題が存在します。

「2024年問題」と医療従事者の負担軽減

2024年4月から本格化した「医師の働き方改革」は、これまで長時間労働によって医療を支えてきた医師がこれからも健康に働き続けられるように労働環境を整備し、医療の質や安全性を確保しながら、持続可能な医療提供体制を維持するための取り組みです。※1

適切な労務管理の推進やタスクシフト・タスクシェアの推進などさまざまな対策が進められていますが、医療機関においては、限られた人的リソースの中でいかに質の高い医療を提供し続けるかが課題となっています。医師の時間外労働規制が適用され、長時間労働の是正が急務となる一方で、医療ニーズは増加しています。限られた時間と人員で診療機能を維持するためには、業務プロセスの見直しや、デジタル技術による自動化・効率化が不可欠です。事務作業や単純作業をシステムに任せることで、医師やスタッフは「人にしかできない」診療やケアに集中できる環境を作ることが求められています。

医療情報の断片化(サイロ化)の解消

日本の医療はフリーアクセスが特徴ですが、一方で、患者の医療情報が各医療機関に分散しており連続性が保たれにくいのが課題でした。オンライン資格確認システムを基盤とした全国的なデータ連携ネットワークの構築により、施設を超えて医療情報を共有できるようになれば、重複検査や多剤併用(ポリファーマシー)による医療費の無駄の削減や健康被害の防止につながります。

患者ニーズの高度化と多様化

スマートフォンが幅広い世代に普及した現代では、患者が医療機関に求めるサービスレベルも変化しています。「スマホで予約が取れない」「待ち時間が長い」「現金しか使えない」といった利便性の欠如は、患者満足度を著しく低下させ、他院へ患者が流出する要因となります。一般のサービス業と同様に、医療機関においてもデジタルを活用した快適な受診体験の提供が、選ばれるクリニックになるための必須条件となりつつあります。

医療DXの具体的施策

医療DXの具体的施策
医療DXの具体的な施策は、「基盤・公的連携システム」「患者接点・受付業務」「診療・検査支援」「経営・マーケティング」の4つの領域に分類できます。

基盤・公的連携システム

政府が主導する「医療DX令和ビジョン」に基づき、インフラとして整備が進められている項目です。※2

システム名 概要 主な導入メリット
オンライン資格確認 マイナンバーカード等で保険資格をリアルタイム確認 資格過誤による返戻防止、薬剤情報や特定健診情報の閲覧 など
電子カルテ 医療DXの「データハブ」となる中心システム 電子カルテ情報共有サービスの活用、データ連携の容易さ、BCP(事業継続計画)対策 など
電子処方箋 処方箋のデジタル化と薬局連携 薬局との連携、重複投薬・併用禁忌の防止、リフィル処方箋の活用 など
レセプトコンピュータ 診療報酬明細書の作成・請求システム 電子カルテとの一体運用による転記ミス防止や事務効率化 など

オンライン資格確認システム

オンライン資格確認システムでは、マイナンバーカード(マイナ保険証)のICチップまたは健康保険証の記号番号を用いて、保険資格の有効性をオンラインで即時に確認します。2023年4月より導入が原則義務化された、医療DXの基盤となるシステムです。※3

導入により、窓口での入力ミスや期限切れ保険証によるレセプト返戻を劇的に減らすことができます。また、患者の同意に基づき、他院で処方された薬剤情報や特定健診情報を医師が閲覧できるため、初診の患者であっても正確な服薬歴を把握した上で処方できるなど、医療安全の向上に直結します。

関連記事:オンライン資格確認等システムについて 電子カルテとの連携や補助について

電子カルテ

電子カルテは、医療DXの「データハブ」となる中心システムです。電子カルテ情報共有サービスの活用においても、電子カルテの導入は欠かせません。電子カルテには大きく分けてオンプレミス型とクラウド型があり、現在、厚生労働省はデジタル庁と連携して「クラウドベース(SaaS型)による標準型電子カルテ」の開発を進めています。

クラウド型電子カルテには、制度改正や薬価改定時のアップデートが自動で行われる、院外からのアクセスが可能などの利点があります。訪問診療を行う際や、自宅から急患対応の指示を出す際などにも便利です。

レセコン一体型の電子カルテであれば、カルテ入力から会計情報の作成までが一気通貫で行えるため、事務スタッフの入力作業を最小限に抑えられます。また、地域医療連携ネットワークへの参加もスムーズになります。

関連記事:電子カルテ情報共有サービス完全ガイド:義務化の真相・補助金活用・経過措置までを網羅的に解説

関連記事:標準型電子カルテとメーカーが提供する電子カルテの違いとは

電子処方箋(電子処方箋管理サービス)

紙で発行していた処方箋をデジタルデータ化し、電子処方箋管理サービスを経由して調剤薬局と連携する仕組みです。※4

医師・薬剤師の双方が、リアルタイムで患者の処方・調剤情報を確認できるため、重複投薬や併用禁忌のチェック精度が飛躍的に向上します。症状が安定している患者に対して発行される「リフィル処方箋」の管理も容易になり、患者にとっても薬局での待ち時間短縮などのメリットがあります。

関連記事:電子処方箋のメリット・デメリットとは?開業医が知っておくべき導入の具体的な手順や活用できる補助金について解説

レセプトコンピュータ(レセコン)

診療報酬明細書(レセプト)を作成し、審査支払機関へ請求するためのシステムです。現在はオンライン請求が基本となっています。

医療DXの観点からは、レセコンを単独で運用するよりも、電子カルテとデータベースを共有する「一体型」か、それぞれ独立したシステムである電子カルテとレセコンを連携する「連携型」の運用が推奨されます。診察終了と同時に会計計算が完了するため、患者の会計待ち時間を短縮し、窓口業務の滞留を防ぐことができます。

関連記事:電子カルテとレセコンの違いとは?連携のメリットや一体型・連携型の違い、選び方のポイントを徹底解説

患者接点・受付業務の効率化(患者満足度・集患)

患者の待ち時間短縮や、受付スタッフの負担軽減に直結する領域です。集患や再来率の向上に貢献します。

ツール名 機能概要 解決する課題
Web予約システム スマホ・PCからの予約(診療時間以外にも予約が可能) 電話対応の減少、機会損失の防止 など
Web問診(AI問診) 事前の症状入力とカルテ連携 待合室滞在時間の短縮、入力業務削減 など
自動精算機・セルフレジ 会計の自動化・セルフ化 金銭授受ミス防止、レジ締め効率化 など
診察券アプリ スマホでのチェックイン カード発行コスト削減、再来促進通知 など

Web予約システム

患者が自身のスマートフォンやPCなどから予約を取得できるシステムです。基本的には24時間365日いつでも予約でき、診療時間以外にも予約できるため患者の利便性が向上します。Web予約システムの導入によって診療時間中の電話対応が激減し、受付スタッフが目の前の患者対応に集中できるようになります。予約完了メールやリマインダーメールの自動送信機能もあわせて導入することで、無断キャンセルによる機会損失の防止にも役立ちます。

Web問診(AI問診)

自宅や移動中など、来院前にスマートフォンやPCなどを用いて症状や既往歴を入力してもらうシステムです。待合室で紙の問診票に記入しなくてもよくなるため、院内滞在時間の短縮につながります。さらに、入力された内容が電子カルテに自動転記される(またはワンクリックで取り込める)機能があれば、医師や看護師がカルテに転記する手間が省けます。診察前の情報収集がスムーズになり、転記ミスのおそれもなくなります。AI問診の場合、主訴に応じて質問が自動的に分岐・深掘りされるため、医師の鑑別診断に必要な情報を的確に収集できます。

関連記事:AIで進化するWeb問診:メリットと課題、クリニックに最適なシステムの選び方を解説

自動精算機・セルフレジ(POSレジ)

スタッフと接触することなく、患者自身が清算できる機器です。金銭の授受に伴う計算ミスやおつりの受け渡しのミスなどを防止できるほか、会計時の待ち時間の削減につながります。1日の終わりのレジ締め作業が数分で完了するため、スタッフの残業削減にも大きく貢献します。また、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済に対応した端末を導入することで、キャッシュレス派の患者ニーズに応えることができます。

診察券アプリ(デジタル診察券)

スマホアプリ上のQRコードなどで受付(チェックイン)を行う仕組みです。診察券の発行・再発行にかかるランニングコストを削減できるだけでなく、患者にとっても「診察券を忘れた、紛失した」「財布がかさばる」といったストレスから解放されます。アプリのプッシュ通知機能を活用し、検診の案内や臨時休診のお知らせなどを配信することで、患者とのつながりを維持するCRM(顧客関係管理)ツールとしての役割も果たします。

診療・検査支援(診療の質の向上)

医師の診療行為を直接サポートし、スムーズな検査・診断を実現するツール群です。電子カルテとの連携が鍵となります。

システム名 役割 連携のメリット
PACS 医用画像のデジタル管理 フィルムレス化、画像解析による診断支援 など
オンライン診療 遠隔での診察・処方 通院困難者のフォロー、離島・過疎地の患者支援、発熱外来対応 など
医療用音声入力 音声によるカルテ入力 キーボード入力負担の軽減、対面診療の充実 など
検査機器連携 検査結果の自動取り込み 転記ミスの防止、時系列データの可視化 など

PACS(医用画像管理システム)

レントゲン(CR/DR)、エコー、CT、MRIなどの検査画像をデジタルデータとしてサーバーに保存し、高精細モニターで閲覧・管理するシステムです。過去の画像との比較表示や、拡大・縮小、計測、濃度調整などが瞬時に行えるため、診断精度の向上に寄与します。さらに、電子カルテと連携してカルテ画面からワンクリックで該当患者の画像を呼び出せるようにすることで、スムーズな病状説明(インフォームドコンセント)が可能になります。

オンライン診療システム

ビデオ通話システムを用いて、遠隔地にいる患者の診察を行う仕組みです。予約から問診、診察、決済、処方箋データの送付までを一元管理できるシステムが一般的です。慢性疾患で症状が安定している患者の定期受診や、通院が困難な高齢者、離島・過疎地の患者支援、感染症流行時の発熱外来トリアージなど、その活用の幅は広がっています。規制緩和により、初診からのオンライン診療も一定条件下で可能となっており、医療アクセスの向上に貢献します。

医療用音声入力システム

AIを活用した高精度な音声認識技術により、話した言葉をそのままテキスト化してカルテに入力するツールです。医学用語や医薬品名に特化した辞書を搭載しており、複雑な専門用語もスムーズに変換されます。「キーボード入力が苦手」「患者の目を見て話したいが、入力作業に追われてしまう」という先生方に役立つほか、診察後のカルテ整理時間を大幅に短縮することにもつながります。

検査機器連携(ファイリングシステム)

院内で実施した血液検査、尿検査、心電図、聴力検査などの結果データを、自動的に電子カルテに取り込むシステムです。検査結果を手入力する必要がなく、転記ミスを防止します。検査データを時系列でグラフ表示する機能を備えている場合は、糖尿病や高血圧などの慢性疾患管理において、治療効果の推移を患者に視覚的に説明することもできます。

関連記事:電子カルテ連携とは?連携できるシステムの種類やメリット・課題を解説

経営・マーケティング・バックオフィス

クリニックの経営状態を可視化し、スタッフ管理や患者維持を行う領域です。経営の安定化には欠かせない視点です。

CRMツール・MAツール(LINE公式アカウント連携など)

CRM(顧客関係管理)ツールやMA(マーケティングオートメーション)ツールは、患者との関係性を強化するために活用されます。例えば、多くの患者が利用しているLINE公式アカウントと連携し、インフルエンザワクチン接種の開始案内を一斉配信したり、治療を中断してしまった患者に対して自動で再受診を促すメッセージを送ったりすることで、リピート率を高めます。

経営分析ツール・BIツール

医療業界に特化した経営分析ツールやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールは、レセコンや電子カルテに蓄積されたデータを分析し、経営判断に役立つ指標を可視化することができます。どのようなデータを取得・分析できるかはツールによって異なりますが、主に以下の項目が挙げられます。

  • 来院患者数の推移
  • 診療報酬額
  • 疾患別の患者構成
  • 診療行為の割合およびランキング
  • 処方した医薬品の割合およびランキング など

これらの情報を日次、月次、年次など任意の期間で取得し、グラフ化したり分析したりすることで、勘や感覚に頼らないクリニック経営が実現します。

関連記事:クリニックにおける経営分析の基本と電子カルテによる実践手法

勤怠・労務・在庫管理システム

バックオフィス業務のデジタル化も重要です。

● 勤怠管理
医療機関の働き方改革の一環として、スタッフの勤怠をデジタルで管理する動きも進んでいます。給与計算ソフトとの連携により、毎月の集計作業や給与明細の発行業務を自動化できます。

● 在庫管理
医薬品や診療材料の在庫をバーコードリーダーやデータベースを用いて管理します。発注点を下回った際の自動通知機能などを活用すれば、発注漏れによる欠品や適時適切な補充、過剰在庫による期限切れ廃棄ロスを防ぐことができます。

医療DXのメリットとデメリット

医療DXはクリニック経営に多大な恩恵をもたらします。一方で、導入に伴うリスクや課題もあり、適切な対策を講じる必要があります。

業務効率化と患者満足度向上が主なメリット

医療DXのメリット
医療DXによるメリットには、業務プロセスの最適化による「時間の創出」と、それに伴う「医療の質の向上」などが挙げられます。主なメリットを4点紹介します。

1.医師・スタッフの業務負担の大幅な軽減

Web問診や自動精算機、自動釣銭機の導入により、受付スタッフの事務作業量が物理的に減少します。受付スタッフが患者への声かけや介助といった「人間にしかできない接遇」に注力できるようになり、患者の受診体験も向上します。医師にとっても、音声入力やシステム連携による入力支援は診療以外の事務作業時間を圧縮し、業務効率化や負担軽減が実現します。

2.患者満足度と集患力の向上

「スマホで予約ができて待たされない」「会計がスムーズで現金を用意しなくていい」といった受診体験は、現代の患者にとって非常に高い価値を持ちます。特に、受付・診療・会計の待ち時間短縮は、患者満足度の向上に直結します。こうした利便性は口コミなどにも高評価として反映されやすく、新規患者の獲得(集患)につながります。

3.ヒューマンエラーの防止と医療安全性の向上

オンライン資格確認による正確な保険情報の取得、電子処方箋による併用禁忌チェック、バーコード認証による患者取り違え防止など、システムによる二重三重のチェック機能が、ヒューマンエラーを未然に防ぎ、医療安全性の向上につながります。

4.経営の「見える化」と適正化

経営支援ツールなどでクリニックの経営状況をリアルタイムに把握できるため、早期の問題発見と対策が可能になります。また、在庫管理システムによる適正在庫の維持は、キャッシュフローの改善にも寄与します。

データセキュリティの懸念などのデメリットと対策

医療DXのデメリット
一方で、医療DXは常にセキュリティリスクと隣り合わせといえます。データセキュリティの懸念をはじめとする主な課題を4点ご紹介し、どのような対策を講じるべきか解説します。

1.サイバー攻撃のリスク

近年、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)による医療機関へのサイバー攻撃が増加しており、診療停止に追い込まれる事例も報告されています。VPN装置の脆弱性対策や多要素認証の導入など、強固なセキュリティ対策が必須です。ベンダー選定時には、セキュリティ面の信頼性(データ暗号化や認証方式、脆弱性対策の有無など)を確認し、契約上も万一の責任範囲を明確にしておくことが望ましいでしょう。

2.災害時やシステム障害時のBCP(事業継続計画)

厚生労働省は、災害拠点病院以外の医療施設においても、災害時の事業継続計画(BCP)の策定を求めています。なかでも、診療情報維持体制として、電子カルテの診療データや紙ベースの診療録を適切に保管することが求められています。電子データについては、遠隔サーバーでの保存も含め、適切な対策を講じる必要があります。※5

災害時以外にも、インターネット回線の切断やクラウドサーバーのダウン、停電などが起きた際に診療をどう継続するかは重要な課題です。さまざまなシチュエーションに対応可能なBCP(事業継続計画)を策定し、定期的に見直すほか、オフラインでも一部機能が使えるシステムの選定、紙カルテ運用への切り替え手順の整備など、事前の備えが欠かせません。

3.コストと費用対効果

医療DXのためのシステムを導入する際は、初期導入費用に加え、月額利用料、保守費用、更新費用などのランニングコストが発生します。「入れただけ」では単なるコスト増になるため、それに見合う業務効率化や増患効果が得られるか、費用対効果を慎重に検討し、将来的な拡張性も含む総所有コスト(TCO)という視点で判断することが大切です。

4.デジタルデバイド(情報格差)への配慮

高齢の患者をはじめ、スマートフォンやタッチパネルの操作が困難な層への配慮も欠かせません。対面予約や現金対応を残したり、必要に応じてスタッフが操作をサポートしたりと、完全デジタル化ではなく「アナログとの融合」が、地域医療においては重要です。

関連記事:電子カルテのセキュリティ対策:サイバー攻撃から患者情報を守るには

医療DX推進のための制度と施策

医療DX推進のための制度と施策
国は医療DXを後押しするため、さまざまなインセンティブを用意しています。これらを活用することで、クリニックにおける医療DX導入のハードルを下げることができます。

政府の支援策(補助金など)

経済産業省・中小企業庁が管轄する「IT導入補助金」は、中小企業・小規模事業者等が労働生産性の向上に資するITツールを導入する際に経費の一部を補助する制度であり、従業員300人以下の医療法人も申請対象に含まれています。※6

一定の条件を満たせば、電子カルテをはじめ、自動精算機や予約システム、POSレジ、PCなど、ハードウェアやソフトウェアの導入費用の一部に対し補助が受けられます。

関連記事:クリニックのための電子カルテ導入費用ガイド:IT導入補助金2025についても解説

医療DX推進体制整備加算

令和6年(2024年)の診療報酬改定で新設され、令和7年(2025年)10月に改正された「医療DX推進体制整備加算」も、医療DXを後押しする仕組みといえます。これは、医療DXに対応する体制を整備し、実際に活用している医療機関を評価するための加算であり、クリニックにとっても無視できない収益源となります。

オンライン資格確認、電子処方箋の発行、電子カルテ情報共有サービスの活用などができる体制が算定要件の一部として挙げられているほか、マイナ保険証利用率によって加算が段階的に設定されています。さらに、度重なる改正によって基準が徐々に厳格化されており、国がこの加算を通じて医療DXを強力に推進しようとしていることがうかがえます。※7、8
医療DX推進体制整備加算の算定可否は、年間で見ると大きな収益差となるため、クリニックにとっても経営戦略の一環としてDX対応を進める強い動機付けとなっています。

関連記事:令和7年10月改正!医療DX推進体制整備加算について

医療DX導入のステップ

医療DX導入のステップ
システム導入はゴールではなくスタートです。現場が混乱せず、スムーズに運用に乗せるためには、計画的なステップが必要です。

現状分析と課題の特定(As-Is分析)

まずは、自院の現状(As-Is)を冷静に分析し、解決すべき課題を特定します。医師の視点だけでなく、看護師や受付スタッフ、患者など、さまざまな視点から課題を洗い出すことが大切です。以下は、クリニックによくある課題の一例です。

  • 受付・会計業務:「電話対応に追われて丁寧な患者対応ができていない」「レジ締めに毎日30分以上かかる」
  • 診療:「カルテ入力が終わらず昼休みが取れない」「過去の検査結果を探すのに時間がかかる」
  • 経営判断:「新患が減っているが理由がわからない」「再来率が低い」

どの業務がボトルネックになっているかを見極め、リストアップした課題に優先順位をつけて、課題解決に向けた施策を検討します。

具体的な施策の選定(To-Be設計)

特定した課題に対し、最適なソリューション(To-Be)を選定します。例えば、以下のソリューションが考えられます。

  • 電話対応が多い → Web予約システムの導入 など
  • カルテ記載が負担 → 音声入力やAI問診の導入、Web問診と電子カルテの連携 など
  • 待ち時間が長い → レセコンと電子カルテの連携や自動精算機の導入、Web問診による事前問診 など

ツールを選定する際は、必要な機能を搭載しているか、既存システム(特に電子カルテやレセコン)との連携性は良いかを確認しましょう。連携できないシステムが乱立すると、患者情報の二重入力や転記作業が発生し、かえって業務効率が悪化する場合があります。また、デモンストレーションで実際の操作を体験し、直感的に操作できるか(UI/UX)を確認することも大切です。

関連記事:電子カルテ連携とは?連携できるシステムの種類やメリット・課題を解説

システム導入と運用開始

ベンダーを選定したら、導入プロジェクトを立ち上げます。開業と同時に導入する場合は開業時期から逆算してスケジュールを立てます。ベンダーの担当者と打ち合わせを重ね、必要な機器の準備や初期設定、カスタマイズなどを進めましょう。オンライン資格確認や電子処方箋システムは、運用開始のための事前手続きが必要です。
さらに、運用フローの再設計や動線のシミュレーション、マニュアルの作成を経て、スタッフ研修を行います。テスト環境でリハーサルし、予約~診察~会計まで一連の流れをシミュレーションします。
運用開始の前後には、ホームページや院内ポスターなどで新システムの導入を患者に告知しましょう。稼働直後のトラブルにもスムーズに対応できるよう、現地に立ち会いサポートしてくれるベンダーだと安心です。

医療DXにおける成功事例

当社が提供する無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズを導入いただき、医療DXに取り組まれて課題解決を実現したクリニック様の事例をご紹介します。

成功した医療機関の事例【伊藤医院様】

導入事例_1_伊藤医院様
伊藤医院様は早期にマイナ保険証(オンライン資格確認)を導入されました。受付の際に健康保険の切り替えがわかる、保険の確認作業自体が楽になるといった事務スタッフの皆様のメリットのほか、診療面でも医師が以前の処方薬を把握しやすいというメリットを実感されています。

さらに、電子カルテと自動精算機の連携やキャッシュレス決済の導入を通じて、会計業務の負担軽減も実現しました。以前は毎日行っていた会計の締め処理がなくなった、複数人分の未処理の請求が月末に一気にできるようになった、窓口集計とレセプト集計が自動で出るため毎日の集計作業が不要になったなど、さまざまな業務効率化に成功されています。

伊藤医院様の医療DX事例については、こちらの記事もご覧ください。

関連記事:医療DX事例(伊藤医院様):スタッフとともに取り組む医療DX~少人数からのスタートが成功のカギ~

成功した医療機関の事例【かねだ内科クリニック様】

かねだ内科クリニック様
かねだ内科クリニック様は、ファイリングシステムや各種検査機器とのデータ連携、電子処方箋とEHR連携など、さまざまな医療DX関連システムを導入されています。また、業務効率化のためにWeb問診(他社サービス)や生成AIも積極的に活用されているとのことです。

システム選定の決め手となったのは、診療業務だけでなくクリニックの経営状態などにも役立つ「データを分析する機能」でした。かねだ内科クリニック様では、初診人数の推移や患者様の年齢層、使用している薬の割合など、電子カルテに蓄積されたさまざまなデータを取得・分析して、日々の経営判断に活用されています。

かねだ内科クリニック様の医療DX 事例については、こちらの記事もご覧ください。

関連記事:医療DX事例(かねだ内科クリニック様):費用対効果の検討と全員にとっての業務効率化が成功の鍵

導入後の効果と改善点

ご紹介した成功事例では、いずれも業務効率化が実現し、受付における保険確認や会計業務において事務スタッフの皆様がメリットを実感されていました。また、先生方にとっても処方薬の把握や経営判断に役立つデータの取得など、さまざまなメリットがあることがうかがえます。
医療DXの導入において重要なのは、「システム導入をゴールにせず、業務フローの見直しや改善を継続すること」です。導入直後は、慣れない操作により一時的に業務スピードが落ちる「Jカーブ効果」が見られることがあります。そのタイミングで運用上の課題を洗い出し、設定変更や業務フローの改善を繰り返すことで、導入前をはるかに上回る効率性を達成することができます。

医療DXの未来展望

医療DXの未来展望
急速に進化するテクノロジーが今後の医療にどう役立つのか、医療DXの未来展望の一端をご紹介します。

テクノロジーの進化と医療の変革

AI技術の進化は、診断支援の領域で革命を起こしつつあります。現在は問診支援や画像診断支援など一部で実用化されていますが、将来的には診断支援だけでなく、治療方針の立案や予後予測までAIがサポートする可能性があります。

今後は、電子カルテ内の膨大なテキストデータ(主訴、経過、検査値)を自然言語処理AIが解析して見落としがあればアラートを発したり、最新のガイドラインに基づいた「最適な処方薬の候補」を提示したりする機能が標準となるかもしれません。

患者中心の医療の実現

これまでの医療情報は、医療機関が独占的に管理してきましたが、今後は患者自身が自分の医療データ(PHR:Personal Health Record)を所有し、活用する時代へとシフトすると考えられます。

さらに、ウェアラブルデバイスで取得した日々のバイタルデータ(心拍数、睡眠、活動量)が医療機関と共有され、生活習慣病の予防や治療に活かされる「個別化医療・予防医療」も一般的になるでしょう。医療DXは、医療機関の効率化だけでなく、患者が自らの健康を守るための強力なインフラとなりつつあります。

医療DXに関するよくある質問

医療DXの導入に関するFAQ

Q1:小規模クリニックでも医療DXを導入できますか? 費用が心配です。

A1:はい、小規模クリニックでも段階的にDXを導入することは可能です。むしろ、人手が限られる小規模クリニックこそ、医療DXの導入によってさまざまなメリットを受けられるケースも多いといえます。

費用面の不安については、国のIT導入補助金や自治体の助成金を利用もご検討ください。重要なのは、自院の課題に合った優先度の高い施策から、無理のない範囲で着手することです。

関連記事:クリニックのための電子カルテ導入費用ガイド:IT導入補助金2025についても解説

Q2:オンライン資格確認や電子処方箋は必ず導入しないといけませんか?

A2:オンライン資格確認については令和5年(2023年)4月から原則導入が義務化されています。オンライン資格確認体制が整備されていない医療機関は「医療DX推進体制整備加算」を算定できず、診療報酬上で不利な扱いとなっています。※3、7

電子処方箋の導入は、現状義務ではありませんが、政府は「患者の医療情報を共有するための電子カルテを整備するすべての医療機関への導入を目指す」という新目標を掲げており、将来的に標準インフラになる可能性が高いです。また、電子処方箋を発行する体制は「医療DX推進体制整備加算」の算定要件にも含まれています。※7

関連記事:オンライン資格確認等システムについて 電子カルテとの連携や補助について

関連記事:電子処方箋のメリット・デメリットとは?開業医が知っておくべき導入の具体的な手順や活用できる補助金について解説

Q3:デジタルに不慣れなスタッフや患者様への対応が心配です。現場で混乱しませんか?

A3:新しいシステムの導入当初は、慣れるまで多少の戸惑いはあるかもしれません。しかし、段階的な研修とサポートにより、現場の混乱は最小限に抑えられます。スタッフ研修、操作マニュアルの整備のほか、院内で習熟度の高いメンバーを数名育成し、他のスタッフのフォローに回ってもらうのも効果的です。

患者様へは、併用期間を設けて新旧両方の受付方法を選べるようにしたり、待合室で使い方を説明したり、必要に応じてスタッフが操作を補助したりするのがよいでしょう。これまで以上に温かい声かけと気配りを心がけることで、患者様との信頼関係を維持できます。

医療DXの効果に関するFAQ

Q4:医療DXの導入で、クリニック経営にはどのようなメリットがありますか? 効果が実感できるか不安です。

A4:適切な導入・運用によって、多くのクリニックで経営改善効果が期待できます。

【例】

  • 電子カルテ導入で事務作業が減った結果、1日あたりの診療可能患者数が増えて収入アップにつながった
  • 医療DX推進体制整備加算の取得により、初診患者ごとに毎月加算を算定できて収入が増加した など

このほかにも、Web予約で機会損失を防ぎ患者数が底上げされたり、在庫管理適正化で無駄な発注コストが減ったりと、見えにくい部分のコスト削減効果もあります。電子カルテに経営分析ツールが搭載されている場合は、患者数の推移や診療報酬の推移、患者待ち時間の変化などを数値で把握することで、さらに医療DXの恩恵を実感できることでしょう。

関連記事:クリニックにおける経営分析の基本と電子カルテによる実践手法

Q5:医療DXの導入によって、医師やスタッフの役割はどう変わりますか?

A5:医療DXの目的は、人間の仕事を奪うことではなくサポートすることにあります。Web問診の自動転記やレセプト業務・会計処理の自動化などによって、むしろ「人にしかできない領域業務(対話、判断、思いやりなど)」や、より高度な業務やきめ細かなケアに注力できるようになります。医師であればカルテ記載など事務負担が減り、患者と向き合う時間が増えるでしょう。看護師や受付スタッフも、書類整理や電話対応に追われず患者対応や院内環境整備に時間を割けるようになります。

関連記事:AIで進化するWeb問診:メリットと課題、クリニックに最適なシステムの選び方を解説

関連記事:電子カルテとレセコンの違いとは?連携のメリットや一体型・連携型の違い、選び方のポイントを徹底解説

Q6:医療DXの導入によって、患者様にはどんなメリットがありますか?

A6:患者様にとっても、さまざまなメリットがあります。以下は一例です。

  • 待ち時間の短縮や手続き簡素化
  • 診療の質や安全性の向上(医療情報の連携、重複投薬の防止など)

医療DXは、世代を問わずすべての患者様にとってメリットがある施策です。ただし、高齢の方をはじめ、デジタル機器の扱いにサポートが必要な場合もあります。

医療DX対応はクリニック経営におけるスタンダード

本記事では、医療DXの基本、具体的な施策、メリット・デメリットやよくある質問などを網羅的に解説しました。医療DXは単なるIT化ではなく、医療の質を高め、持続可能な形に変革するプロセスです。国の施策や方針・目標、診療報酬上の扱いを見ても、医療DXへの迅速な対応はこれからのクリニック経営におけるスタンダードといえます。

これからクリニックを開業される先生方には、すでに義務化されているオンライン資格確認や、医療DXの中核となる電子カルテの導入など、医療DX基盤の整備から着手されることをおすすめします。医療DXは、先生方、看護師や事務スタッフの皆様、そして何より患者様にとって、「快適で質の高い医療環境」を実現するための第一歩です。本記事が、医療DX導入の参考になれば幸いです。

参考資料

※1 厚生労働省. 医師の働き方改革.
※2 厚生労働省. 医療DXについて.
※3 厚生労働省. オンライン資格確認について(医療機関・施術所等、システムベンダ向け).
※4 厚生労働省. 電子処方せん(国民向け).
※5 厚生労働省. 医療施設の災害対応のための事業継続計画(BCP).
※6 IT導入補助金2025. IT導入補助金制度概要.
※7 厚生労働省. 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて.
※8 厚生労働省. 個別改定項目について 医療DX推進体制整備加算等の要件の見直し.

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株式会社ユヤマ

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