【最新版】クリニックにおける停電時の電子カルテ対応完全ガイド|UPSの仕組みとBCP対策のポイントを解説

クリニックでは、電子カルテをはじめ、レントゲンや心電計などの各種医療機器、空調、照明といった多くの設備が日々の診療を支えています。しかし、自然災害や電力会社側のトラブルなどによって突然の停電が発生すると、これらの機器はすべて使用できなくなり、診療の継続そのものに大きな影響を及ぼしかねません。
特に電子カルテは、患者の診療録データや医業経営に直結する保険請求データといった重要な情報を扱っているため、停電時にどのような対応が講じられているのかを正しく理解しておくことは、クリニック経営における重要なリスクマネジメントの一つといえます。
本記事では、停電時にクリニック内で発生する問題とその初動対応、電子カルテシステムが備えるデータ保全の仕組み、そして日頃から備えておきたいBCP(事業継続計画)のポイントについて、詳しく解説します。
停電時にクリニックで発生すること

クリニックが停電に見舞われた場合、さまざまな問題が同時に発生します。停電するということは、「電力で動作するものがすべて使用できなくなる」ということです。院内で想定される主な影響は次のとおりです。
照明が消える
時間帯や間取りによっては院内が「真っ暗」になります。
空調が止まる
エアコンや換気扇が停止します。
その他の設備が止まる
出入口の自動ドアや保冷庫、固定電話機、FAX機、コピー機、待合室のテレビなどが使えなくなります。
医療機器が止まる
レントゲン、心電計などの各種検査装置、チェアユニットやリハビリ機器などの治療装置が使えなくなります。
電子カルテが止まる
電子カルテが使用できなくなります。
停電発生時に取るべき初動対応
停電発生時に行うべき初動対応は複数ありますが、患者にまつわる事柄ほど緊急度・優先度が高いといえます。以下はその代表例です。
- 患者に装着されている医療機器を取り外し、診察台や点滴ベッドからの転落、廊下での転倒などの事故が発生しないよう、スタッフ全員で対応しましょう。
- 停電が広域的に発生しているのか、局所的に発生しているのか(例えばテナントに入居している診療所であれば、自院のみか、他のフロアや建物全体かなど)、原因や復旧見通しの有無についても可能な範囲で情報収集しましょう。
院長による判断
停電は数分以内に解消することもあれば、終日復旧しないこともあります。得られた情報や発生からの経過時間などに基づき、院長として臨時休診の判断をせねばならない場合もあります。判断基準や連絡フローをあらかじめ院内で共有しておくと、いざというときに迷わず対応できます。
電子カルテと停電:知っておきたいデータ保全の仕組み

停電時の優先課題は、来院患者の安全確保であり、診療継続(や再開)の可否判断です。電子カルテが使えるかどうかではなく、使うための診療が行えるか否かが本質的な論点になります。とはいえ、電子カルテサーバには患者の診療録データや医業経営に直結する保険請求データなど重要な情報が保管されているため、もちろん軽視するわけにはいきません。ここでは、電子カルテシステムに講じられている代表的なデータ保全策のうち、停電時のサーバ動作について解説します。
電子カルテサーバの機器構成
一般的な構成では、電子カルテサーバの電源ケーブルは壁のコンセント差し込み口ではなく、UPS(Uninterruptible Power Supply/無停電電源装置)に接続されています。UPSは壁のコンセント差し込み口から得た電気を内蔵バッテリに蓄えつつ、電子カルテサーバへ安定的に給電を行う機器です。また、シリアル通信ケーブルによって電子カルテサーバと接続されており、常時通信を行っています。
UPS(無停電電源装置)とは
給電に関するリスクは、いわゆる「停電」だけではありません。電力会社による広域的な保守作業などの影響で発生する瞬間的な停電のほか、建物の状態や周辺機器の設置状況によって電圧が一定せず不安定に変動する現象も発生します。逆に、落雷による過電圧も懸念されます。UPSは、これらのリスクを回避しながら電子カルテサーバへ安定的な給電を行うための装置です。
停電時の電子カルテサーバの動作
停電などによりUPSへの給電が停止すると、UPSは内蔵バッテリのみからサーバへの給電を継続します。電子カルテサーバにはUPS管理アプリケーションがインストールされており、常時UPSと通信を行っています。停電状態が続き、UPS内蔵バッテリの蓄電量が減少してくると、電子カルテサーバに対して安全なシャットダウンを実行させるためのコマンドが送信され、サーバは通常の手順どおりにシャットダウンします。これは一日の業務終了時に手動操作でシャットダウンするのと同一の処理であり、通常の運用時と同様の手順で処理されるため、データ破損や機器故障のリスクを抑えることができます
UPSの注意点と限界
このようにUPSは、「安全に機器を終了させるための時間を稼ぐ」ことを目的とした装置です。「停電中でも機器の使用を継続できる」ためのものではない点に注意が必要です。バッテリー容量が大きい上位モデルも複数存在しますが、容量に比例して高額かつ大掛かりな設備になるため、費用対効果の観点では必ずしも得策とはいえません。診療自体が継続(や再開)できるか否かの瀬戸際である以上、UPSの役割と限界をあらかじめ正しく理解しておくことが重要です。
停電に備えるためのBCP(事業継続計画)のポイント
UPSによる安全なシャットダウンは、あくまで「機器とデータを守るための最低限の仕組み」です。停電が長時間に及ぶ場合や、災害時にも診療体制を維持したい場合には、UPSに加えてBCP(事業継続計画)の観点から備えを整えておくことが望まれます。※
※ 出典:厚生労働省「医療施設の災害対応のための事業継続計画(BCP)」
非常用電源との違いと使い分け
UPSはあくまで「安全なシャットダウンのための時間確保」を目的とした短時間対応の設備です。一方、自家発電機などの非常用電源は、より長時間にわたって電力を供給できる設備であり、停電が長時間に及ぶ可能性がある地域や、災害時の事業継続を重視する医療機関では、UPSと非常用電源を組み合わせて整備することが推奨されます。非常用電源を導入する場合も、電子カルテサーバやネットワーク機器まで確実に電力が供給される構成になっているかを、事前に確認しておくことが欠かせません。
データバックアップ体制の整備
UPSによる安全なシャットダウンは、データの破損を防ぐための重要な仕組みですが、停電以外の要因(機器故障や災害による物理的破損など)にも備えるためには、日頃からのデータバックアップも欠かせません。バックアップデータはサーバー内だけでなく、外部ストレージやクラウド上にも保存し、冗長性を確保しておくことで、万一の際にも迅速な復旧が可能になります。定期的にデータ復元のテストを行い、非常時にも確実に機能する状態を維持しておきましょう。
紙カルテ運用への切り替え体制
UPSによる猶予時間内にシャットダウンが完了した後も、電子カルテが使用できない状態が長時間続く場合には、紙カルテへの一時的な切り替えが必要になることもあります。処方箋や検査オーダー票などを一定量常備し、記入方法や運用フロー、復旧後の転記手順などをあらかじめマニュアル化しておくことで、緊急時にもスタッフが落ち着いて対応できる体制を整えられます。
まとめ:停電時も患者の安全確保を最優先に
停電が発生すると、院内の照明をはじめ、電力で動作するものすべてが使用できなくなります。まずは来院患者の安全確保を最優先にしながら、停電の範囲や原因、復旧見通しの有無について可能な限り情報収集を行いましょう。得られた情報や発生からの経過時間などに基づき、院長として臨時休診の判断を下さねばならない場合もあります。
電子カルテサーバにはUPSが設置されており、停電発生時でもデータを守るために安全にシャットダウンさせる仕組みが備わっています。現在電子カルテを使用中であれば、この機会にサーバ周辺のUPS設置状況を確認してみてください。もしUPSが設置されていないのであれば、それはシステム構成上の不備であるため、直ちにメーカーへ連絡し、設置を依頼するようにしてください。あわせて、非常用電源との組み合わせ、データバックアップ体制、紙カルテ運用への切り替えフローなど、BCPの観点からも停電対策を見直しておくことをおすすめします。
株式会社ユヤマ
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