電子カルテ導入のメリット・デメリットとは?クリニックへの導入で失敗しないための選び方も解説
紙のカルテを作成・保管するためには多くの手間や時間を要するため、効率良く運用することができる電子カルテへの切り替えが2000年頃から始まっています。
それでも完全に普及しているわけではないのは、いくつか原因があります。
本記事では、電子カルテの導入によって得られるメリットと対策すべきデメリット、クリニックに導入する際に失敗しないための選び方について解説します。
電子カルテとは
電子カルテとは、旧来紙のカルテで管理していた医療情報を電子データとして管理・編集・記録するシステムです。
医療情報を電子データとして管理することができるため、旧来の紙のカルテと比較して効率の良さや管理のしやすさなどさまざまなメリットがあります。
医療の発展に伴い、業務効率化やミスをよりゼロに近づけることの必要性が高まり、紙のカルテから電子カルテへの移行が進んでいます。
関連記事:電子カルテと紙カルテを徹底比較
電子カルテシステムEMRとは? EHRやPHRとの違い
診療情報のデジタルデータに関する用語として、EMR、EHR、PHRがあります。これらはよく似ていますが、いずれも国の進める医療DXの全体像を理解するうえで重要な概念です。
EMR(電子カルテ)は医療機関ごとに活用する情報
EMRとはElectronic Medical Recordsの略で、電子化された医療の記録、つまり「電子カルテ」のことを指します。特定の医療機関内で作成・利用される診療記録であり、後述するEHRを実現するための基盤となります。
政府が導入率の目標を掲げるなど普及を後押ししていることもあり、多くの医療機関に広まってきました。医療機関ごとにそれぞれ独自のシステムを構築しており、互換性のないシステムを利用している他の医療機関へは即座にデータ共有できないなどの課題もあります。しかし、近年では「地域医療情報連携ネットワーク」の取り組みの一環として、複数の医療機関での情報共有が実現するようになっています。
EHR(電子健康記録)は国・地域レベルで活用する情報
EHRとは Electric Health Record の略で、「電子健康記録」のことを指します。EHRは言葉通り、過去の病歴、診断結果、投薬、アレルギー、検査データなど、人の健康情報をデジタル化したものです。また、EHRを活用して地域の医療機関が連携し、情報を共有する「地域医療情報連携ネットワーク」そのものを指す場合もあります。
複数の医療機関や地域、保険薬局などをまたいで、患者の健康に関する情報を生涯にわたって共有することができます。患者が医療機関を変えても、過去の病歴やアレルギー情報、検査データなどを安全に共有し、継続的で質の高い医療を提供することを目指します。
EHRの特徴は大きく2つ挙げられます。
- 情報共有の手軽さ
各医療機関の電子カルテシステムに依存するEMRとは異なり、EHRはどの医療機関でもデータを共有できるので、患者が医療機関を変えた場合でも追従が可能となります。 - データ確認の簡便さ
EMRは基本的に医療従事者が情報を記入・閲覧しますが、EHRは医療従事者だけでなく患者自身も情報を閲覧できます。
PHR(個人健康記録)は患者個人が収集・記録する情報
PHRとはPersonal Health Recordの略で、日本語に訳すと「個人健康記録」になります。
病気や服薬履歴など、異なる施設に分散している健康情報や医療情報を患者個人が自ら収集・保存し、管理することを指します。
身近なところでは、血圧や体重、歩数などのライフログを記録するPHRのアプリや、電子お薬手帳・電子母子手帳など、従来は患者自身が紙媒体で管理していた情報を電子化したものが該当します。
EMRとEHRは医療機関が情報を管理する一方で、PHRは患者自身が自分の情報を管理します。PHRをEHRと適切に連携することで、健康情報や医療情報のさらなる活用が期待されています。
EMRは医療DXの第一歩
電子カルテ(EMR)の導入は、単に自院の業務を効率化するだけでなく、将来的に地域医療連携ネットワーク(EHR)に参加し、国の医療DXに貢献するための第一歩となります。したがって、電子カルテの選定にあたっては、将来的な相互運用性、特に国際的な標準規格である「HL7 FHIR」への対応を視野に入れることも長期的な視点では重要といえます。
関連記事:【電子カルテコラム】電子カルテシステムEMRとは?
電子カルテの普及率
厚生労働省が3年ごとに実施している「医療施設調査」によると、令和5年(2023年)における電子カルテシステムの普及率は、一般病院全体で65.6%となっていました。なお、病床規模が大きいほど普及率が高い傾向にあり、400床以上の大規模病院では93.7%、200床未満の病院では59.0%、一般診療所では55.0%に達しています。※1
関連記事:電子カルテ普及率の最新動向:導入のメリットと課題、医療DX推進について解説
電子カルテで守るべき三原則
電子カルテの導入と運用にあたっては、「真正性」「見読性」「保存性」という電子保存の三原則を順守する必要があります。※2
真正性
真正性とは、記録された情報が虚偽のものではなく、作成の責任の所在が明確であることを指します。
電子カルテは患者の医療や健康に関する情報を記載しているため、万が一にも改ざんされた場合は、患者を命の危機にさらしてしまうおそれがあります。そのような事態を防ぐためにも、電子カルテの真正性を保つ必要があります。
見読性
見読性とは、電子媒体に保存された内容を見やすく読みやすい状態にできることを指します。
例えば、急患などに対応する場合、過去の電子カルテを参照しても何を記載しているかが読み取れなければ正しい診療を行うことができません。見読性を踏襲した電子カルテのデータを使用することで、最適な診療を行うことができるようになります。
保存性
保存性とは、前述の真正性と見読性を保ったまま一定期間にわたって保存するために対策を講じることを指します。指定された期間中、データをいつでも閲覧・復元できる状態で保存する必要があります。
なお、紙カルテ同様、電子カルテは5年間の保存期間が定められています(保険医療機関及び保険医療養担当規則)。※3
保存性を確保するためには、こまめにバックアップを取ること、機器に不具合が起きた場合はすぐに対処することなどが重要です。
関連記事:電子カルテの「電子保存の三原則」とは?守らないと罰則の可能性も
電子カルテ導入後のメリット
電子カルテの導入には多くのメリットがあります。紙のカルテと比較しても、医療情報の管理における問題点の改善や、保管場所の省スペース化、検索性の向上など、さまざまなメリットがあるため、規模にかかわらず多くの医療機関で導入が進んでいます。
電子カルテ導入後の主なメリットを8つご紹介します。
メリット① 情報の入力や整理にかかる時間の短縮
患者の記録をデータにすることで、情報の入力や整理にかかる時間が短縮できます。
紙のカルテの場合、患者の病気や怪我の症状、治療の内容など細かい情報まで人の手で書き込むため時間がかかります。
一方、電子カルテの場合は、用意されたテンプレートに必要なことを入力していくだけでカルテが仕上がります。クリックやショートカット機能などを活用して素早く入力できる電子カルテも多く、データ入力に必要な時間は紙のカルテに比べて短くなります。
また、電子カルテには検査データや薬のデータもすべて紐づけることができ、情報を一元管理できます。診断書や診療情報提供書といった定型的な文書を作成する際も、カルテ情報から必要な項目を引用して半自動的に作成できるため、医師の事務作業の負担は大幅に軽減されます。
一日の診察数が数十件、数百件と積み重なるので、かなりの時間を節約できます。多忙な医師はもちろん、看護師や受付スタッフにとっても、電子カルテの導入によって情報整理にかかる時間が短縮されれば、業務負担の軽減につながります。医療そのものにかける時間を増やすことができるのは、電子カルテならではの強みといえるでしょう。
メリット② 検索性の向上
作成したカルテは、患者が最後に来院した日から5年間にわたって適切に保管される必要があります。紙のカルテの場合、院内で保管する紙カルテの量は膨大になります。また、患者のカルテを保管場所から探し、記入し、元の場所に戻すといった1つ1つの作業を人が行うので、かなりの時間を要します。
一方、電子カルテは自動的に情報がデータベースに整理され、検索も容易です。紙のカルテのように保管場所からカルテを探したり、元の場所に戻したりする手間もなく、紛失のリスクもなくなります。
メリット③ 医療過誤の防止
電子カルテシステムの多くは、医薬品に関するデータベースを搭載しており、薬剤の併用禁忌やアレルギー情報に基づいて自動的にチェックします。万が一、健康に影響がある処方や危険な処方をしようとした場合、システムが警告(アラート)を発するので、投薬ミスという重大な医療事故を未然に防ぐことができます。EHRによって他の医療機関で処方されている薬の情報が共有されることで、さらに安全性が向上します。
また、手書き文字の判読ミスによる指示の誤解や転記ミスのおそれがなくなり、医療の安全性が飛躍的に向上します。WEB問診を連携することで、患者が入力する情報をそのまま電子カルテに反映できるのも大きなメリットです。
メリット④ 診察の質の向上
電子カルテを導入することで、院内・院外の検査結果や過去の画像データを、診察室のPCで即座に参照できます。時系列での変化をグラフで確認したり、過去の所見と比較したりすることも容易になり、より正確で迅速な診断を支援します。
また、患者に病気や治療について説明する際にも、レントゲン画像や検査データの推移などを画面上で提示しやすくなります。これにより患者は病状や治療方針を理解しやすくなり、安心して治療に臨むことができます。患者と医師の信頼関係を構築でき、患者満足度の向上にもつながります。
メリット⑤ 会計・レセプト業務の効率化
電子カルテシステムは、医療機器だけでなく、会計関連システムとの連携によってさらにメリットを発揮します。医事会計システムと連携すれば、診察室で行われたオーダー(処方、検査、処置など)を瞬時に会計に反映できるので、会計待ち時間が大幅に短縮されます。自動精算機との連携により、さらに効率良く会計業務が完了します。
また、病名と処方の整合性チェック機能などにより、レセプトの記載漏れや間違いによる返戻が減少し、請求業務の精度と効率が向上するのもメリットといえます。
メリット⑥ スムーズな情報共有
紙のカルテの場合は、ほかの医療従事者が使用している間は閲覧できませんが、電子カルテは複数の場所で複数の医療従事者が同時に情報を閲覧できます。医師、看護師、医療事務など、異なる職種のスタッフが常に最新の患者情報をリアルタイムで共有できます。これにより、「医師への確認待ち」といった業務のボトルネックが解消され、チーム全体のスムーズな連携が実現します。
また、訪問診療や複数拠点を持つクリニックなどの場合は、インターネット環境があれば院外からでもカルテを確認できます。場所を選ばず情報共有ができるのも、電子カルテならではのメリットです。
メリット⑦ クリニック経営の強化
電子カルテシステムは、クリニック経営の強化にも役立ちます。電子カルテに蓄積されたデータを活用し、来院患者の動向、疾病別の統計、薬剤の使用状況などを分析することで、客観的なデータに基づいた経営戦略の立案が実現します。診療業務全体の効率化は、より多くの患者を受け入れる体制の構築につながり、患者満足度の向上とあわせて収益性の改善も期待できます。
メリット⑧ 患者満足度の向上と働き方改革への貢献
ここまでにご紹介したさまざまなメリットは、患者満足度の向上やスタッフの働き方改革にも貢献します。
例えば、情報の入力や整理にかかる時間が短縮し、カルテの検索性が向上することで、受付から診察、会計までの一連の流れがスムーズになります。患者の院内滞在時間の短縮、特に診察後の会計待ち時間の削減は、患者満足度の向上に直結します。もちろん、適切な処方や治療の提案、説明のわかりやすさや医師との信頼関係といった診療の質も、患者の満足度にとって欠かせない要素です。
さらに、カルテ入力やレセプト業務にかかる時間が削減されることで、スタッフの残業時間が減少し、より働きやすい職場環境が実現します。これは、スタッフの満足度向上や離職率の低下にもつながり、長期的なクリニック経営に好影響を与えます。
電子カルテ導入時のデメリットと対策
電子カルテ導入には多様なメリットがありますが、いくつかのデメリットもあります。電子カルテにはどのようなデメリットがあるかをしっかりと理解し、対策を講じたうえで導入するのがよいでしょう。
電子カルテ導入の主なデメリット4つと、それぞれの対策案をご紹介します。
デメリット① 導入費用がかかる
電子カルテの導入には、初期費用や月々の運用コスト(ランニングコスト)などがかかります。多額の導入費用が原因で、導入を見送ってきた中小規模の病院やクリニックも少なくありません。
対策
- クラウド型なら初期費用を抑えられる
クラウド型電子カルテの場合、一般的には約10~数十万円程度の初期費用に加えて、数万円程度の月額利用料が発生します。ただし、カスタマイズ性の低さやセキュリティ対策をベンダーに依存することなどを考慮する必要があります。
一方、オンプレミス型は機器の構成台数によって200~500万円程度の初期費用がかかるほか、運用コストとして保守費が2~4万円程度かかります。導入費用は大きくなりますが、カスタマイズの自由度の高さや自院でデータを管理できる安心感といったメリットもあります。
予算を検討しつつ、自院の診療スタイルにマッチした型式を選択するのがよいでしょう。 - 長期的な投資対効果(ROI)で判断する
電子カルテの導入は、人件費や紙のコスト削減につながります。目先の費用だけでなく、長期的な視点でのコスト削減効果を試算し、将来の収益性を高める「投資」ととらえることができます。 - 補助金や助成金が活用できる場合がある
医療DXの推進に向けて、政府はさまざまな補助金制度を用意しています。例えば、「IT導入補助金2025」は医療法人も対象であり、ソフトウェア購入費やクラウド利用料(最大2年分)などが補助されます。通常枠では最大450万円の補助を受けられる可能性があり、コストに関する懸念を大きく払拭できます。※4
関連記事:クリニックのための電子カルテ導入費用ガイド:IT導入補助金2025についても解説
デメリット② セキュリティ面の懸念
患者の個人情報を取り扱うため、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクは絶対に無視できません。近年、医療機関を標的としたランサムウェア攻撃なども増加しています。2023年3月10日に告示された「医療法施行規則の一部を改正する省令」によって、医療機関におけるセキュリティ対策は法的義務となりました。※5
対策
- 3省2ガイドラインに準拠している製品を選ぶ
厚生労働省・総務省・経済産業省が定める「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(3省2ガイドライン)」に準拠していることは必須要件です。これは、セキュリティ対策の基本中の基本です。 - 「ゼロトラスト」の概念を院内に導入する
「院内のネットワークだから安全」という従来の考え方は通用しません。すべての通信を信用せず、アクセスごとに厳格な検証を行う「ゼロトラスト」の考え方を取り入れましょう。 - 具体的な院内セキュリティルールの策定
アクセス権限管理、デバイス管理、パスワードポリシーなどのセキュリティルールを策定し、スタッフ全員の遵守を徹底しましょう。
関連記事:電子カルテのセキュリティ ランサムウェアについてご説明
デメリット③ システム障害・災害時の業務停止のリスク
システム障害や災害によって、電子カルテシステムが利用できなくなるリスクは常に存在します。診療が完全に停止してしまう事態を避けるためにも、事業継続計画(BCP)を策定し、万が一に備えましょう。
対策
- ・オンプレミス型の場合
インターネット回線の障害に強いのがオンプレミス型の利点ですが、定期的にバックアップを取ることはもちろん、別の場所にバックアップデータを保存するなどの対策は欠かせません。また、サーバーの物理的な保護や停電対策も重要です。 - ・クラウド型の場合
クラウド型の場合、データは堅牢なデータセンターで厳重に管理・バックアップされるため、自院の機器故障や災害時にも一定のリスク分散につながります。ただし、インターネット接続が生命線であること、クラウド事業者側の障害や大規模災害の影響を受ける可能性があることを踏まえ、バックアップ体制や冗長性の確認が重要です。
なお、当社のクラウド型電子カルテ「BrainBox CloudⅡ」では、インターネット障害時にも診療に支障をきたさないよう、院内にサブサーバーを標準設置いたします。 - ・非常時運用訓練の実施
オンプレミス型もクラウド型も、非常時を想定した運用訓練を実施しましょう。停電やシステム障害が発生した状況を想定し、一時的に紙のカルテを使用して後からシステムに入力するといった訓練を定期的に行うことで、いざという時の混乱を防ぎます。
デメリット④ スタッフが使いこなせるか不安
長年紙カルテに慣れ親しんだスタッフやPC操作が苦手なスタッフにとって、新しいシステムの導入はストレスや抵抗感があるかもしれません。また、慣れるまでは操作に手間取って、かえって業務効率が落ちることも懸念されます。
対策
- ・直感的な操作が可能な製品を選ぶ
画面の見やすさや入力方法など、PCの習熟度にかかわらず直感的に操作できるシステムを選びましょう。手書き入力や音声入力に対応している製品もあります。 - ・デモやトライアル期間を活用する
製品デモやトライアル期間を活用して、電子カルテを実際に使用する全スタッフに一度は試してもらいましょう。使用感をヒアリングすることで、どのスタッフにとっても使いやすい製品を選定するのに役立ちます。 - ・サポート体制が充実したメーカーを選ぶ
導入を成功させる鍵は、メーカーのサポート力にあると言っても過言ではありません。導入時の丁寧な操作研修はもちろん、稼働後にトラブルが発生した際に、電話やリモート、直接訪問による迅速な対応が可能か、担当者の知識力・技術力は信頼できるかなども極めて重要です。
自院に合った電子カルテの選び方と比較ポイント
電子カルテ導入で後悔しないためには、自院の規模や診療スタイルに合った製品を選ぶことが最も重要です。ここでは比較検討すべき5つのポイントを解説します。
クラウド型かオンプレミス型か
クラウド型電子カルテとは、インターネット回線を介して提供事業者が管理する安全なサーバーにアクセスし、医療情報の記録・編集・管理を行う電子カルテを指します。初期費用を抑えられることから、小規模のクリニックや無床診療所を中心にシェアを伸ばしています。また、インターネット環境があれば院内外を問わずどこからでも情報にアクセスできるため、訪問診療においても情報の記録・編集や閲覧ができるのが特徴です。
オンプレミス型電子カルテとは一般的に、院内にサーバーやネットワークを設置・構築して運用する電子カルテを指します。初期費用は高額になる傾向にありますが、カスタマイズの自由度の高さや、外部に情報が漏えいしにくいことも特徴です。
関連記事:クラウド型電子カルテの特徴とメリット・デメリットを解説:クリニックに導入する際のポイントも紹介
費用(初期費用・月額費用)は予算に合うか
単に初期費用だけを比較するのではなく、ライセンス費用、保守費用、周辺機器など導入にかかる費用全体を考慮し、内訳ごとに検討しましょう。また、見積上の価格だけで選ぶと、自院に必要な機能が不足したり、かえって業務効率が低下したりするおそれもあります。初期費用、運用コスト、将来的な拡張性も含めて、総所有コスト(TCO)を考慮することが重要です。
必要な機能が搭載されているか
レセコン一体型の場合、初期費用は高くなる傾向にありますが、スムーズなデータ連携によってレセプト業務の効率化が期待できます。分離型の場合は、レセコンの導入費用や連携にかかる費用もあわせて検討しましょう。
また、予約システムやWeb問診、オンライン診療など外部システムとの連携性もあらかじめ確認しましょう。自院の課題や理想とする診療スタイルに沿って、必要な機能を洗い出し、優先順位をつけて検討するのがおすすめです。
操作性は良いか(デモやトライアルの活用)
医師や看護師、受付スタッフも含め、全員が直感的に使えるUI/UXが理想的です。製品デモやトライアルで実際の使用感を試し、不明点があればメーカーの担当者に相談しながら、操作性を確認しましょう。
サポート体制は充実しているか
メーカーのサポート体制や対応力は、事前に確認しておきたいポイントです。メーカーの担当者による丁寧なトレーニングや初期設定サポートの有無は、導入初期の安心感につながります。また、万が一トラブルが発生したときの対応方法(電話、メール、訪問など)も確認しておきましょう。
電子カルテ導入の具体的な流れ
実際に電子カルテを導入する際の、一般的なスケジュールと流れを解説します。
1.電子カルテの選定
本稼働の半年前をめどに、電子カルテのメーカーまたは販売会社に連絡を取りましょう。デモやトライアルを通して使用感を確認し、見積もりを提示してもらって、自院に合ったシステムを選定します。
2.要件確認とシステム設定
本稼働の3~4か月前をめどに、導入するシステムを決定し、発注します。デモやトライアルで挙がった課題や要望を担当者に伝え、詳細な打ち合わせを行います。メーカーから機器が出荷される前に、条件設定事項の大半を確認・依頼できていることが理想です。
3.納品・セッティング・試験運用
本稼働の1~2か月前には機器が納品され、セッティングや連携試験が始まります。また、スタッフへの操作説明のために、メーカーの担当者が訪問します。
実際の診療手順を再現した模擬診療も行われます。必要に応じて、マスタの微調整や設定変更、運用ルールの策定や調整をして本稼働に備えます。
4.運用開始
本稼働日から2~3日間は、メーカーの担当者が終日立ち合い、細かな調整やサポートを行います。事前の準備や試験運用で洗い出しきれなかった課題や不明点を解決しましょう。もちろん、サポート体制が充実しているメーカーであれば、本稼働後も都度相談し、トラブルや不明点を解消することができます。
自院のニーズにマッチするシステムを選定し、スムーズに導入するためにも、余裕のあるスケジュールで導入を進めることが大切です。
関連記事:電子カルテを導入するまでのスケジュールをまとめておこう
関連記事:クラウド型電子カルテ導入の手順・流れについてご紹介
電子カルテを導入したお客様の声
かつては紙カルテで管理をしていたクリニックでも、電子カルテの導入によって業務改善ができた事例はたくさんあります。電子カルテの導入事例を3つご紹介します。
事例1:診療スピードが向上した
「患者様の待ち時間だけでなく、診察時間の短縮ができました」(えんどう耳鼻咽喉科クリニック様)
診療スピードは、診察できる患者数が変わるため、収益に関わる重要な要素です。
紙カルテで管理している場合、対象となる患者のカルテを探すだけでも多くの時間を要します。また、過去の情報を参照する際に、必要事項が記載されている箇所を探す際にも時間がかかります。
電子カルテを導入することで、検索機能により必要な情報を必要なときに参照できます。診療スピードが向上し、紙カルテで管理していたときよりも多くの患者を診察することが可能となります。その結果、患者の待ち時間が短縮されるため満足度が向上し、クリニックの収益性も改善されます。
当社の電子カルテは、直感的に操作しやすいという理由から多くのクリニック様に採用いただいております。ペンタブ入力にも対応しており、紙カルテと同様の記載方法ができる点に魅力を感じる方も多くいらっしゃいます。
事例2:使いやすさ・カスタマイズ性
「使いやすく操作しやすいです」(JIN整形外科スポーツクリニック様)
業務効率の改善における重要な要素として、電子カルテの使いやすさが挙げられます。具体的には、簡単にSOAP入力ができたり、定型文の学習や呼び出しができたりする機能などが求められます。
また、クリニック様ごとに必要な機能は異なるため、カスタマイズの自由度を重視する方も少なくありません。例えば、表計算ソフトのデータを電子カルテ上で確認できるようにするなど、カスタマイズの内容は多岐にわたります。当社ではクリニック様ごとにニーズをくみ取り、最適な形式でカスタマイズをしてから納品いたします。
さらに、バージョンアップ時の対応に関するリクエストもたくさん頂戴しています。電子カルテは導入して終わりではなく、その後も使いやすいように日々アップグレードに臨んでいます。導入後も同じ担当者が責任を持ってクリニック様に寄り添う万全のサポート体制も、多くの先生方からご支持いただいています。
事例3:既存システムとの連携性
「情報が共有され即座に取り出せるのはありがたいです」(泉胃腸科医院様)
電子カルテは単体でも業務効率に貢献しますが、ほかのシステムと連携することで利便性が向上します。
例えば、心電計やレントゲン、画像ファイリングシステムなどの機器と連携することで、電子カルテ上でデータをすぐに閲覧できるようになり、医師はもちろん看護師や事務スタッフの手間を削減できます。また、手作業が減ることによりヌケモレなどのヒューマンエラーを抑えられるため、正しいデータを得られる点もメリットです。
当社の電子カルテはさまざまなシステムと連携し、クリニック全体の業務効率の改善を実現できます。院内機器だけでなく、地域医療情報連携ネットワークとの連携にも対応しています。
そのほかの導入事例については、こちらもご覧ください。
当社ページ:電子カルテ ドクターリポート
ユヤマの電子カルテの特徴
「スタッフのなかにはPC操作が不慣れな人も多いから不安……」
「開業前だけでなく、新しく採用したスタッフにも操作方法をトレーニングしてほしい……」
「導入後も丁寧にサポートしてくれるとありがたい……」
電子カルテにはさまざまなメリットやデメリットがあり、システムの選定や導入にあたって悩まれている先生方も多いかもしれません。導入費用や機能などを比較し、自院のニーズにあわせて検討することが大切です。特に重視すべきなのは、導入時や運用後のサポート体制です。
当社が提供する無床診療所様向け電子カルテシステム「BrainBox」シリーズについて、サポート体制の特徴をご紹介します。
コールセンター、リモートメンテナンスに対応
全国の営業拠点・アフターサービス拠点のほか、コールセンターやチャットボット機能などを設置しており、スムーズな運用をサポートいたします。訪問サポートはもちろん、リアルタイムでのリモートメンテナンス対応も行っており、万が一のトラブル時も迅速に解決いたします。
導入時のトレーニング
開業前には知識豊富なインストラクターがクリニック様を訪問して、丁寧に操作説明をトレーニングいたします。電子カルテのスペシャリストが、診療科に応じた点数案内や運用提案を行います。
また、開業後3日間は、終日現地にて立ち会わせていただきますのでご安心ください。運用後、新たに加入されたスタッフの方への操作説明も行っております。
専任の営業担当
当社ではクリニック様ごとに専任営業を配置し、万全のサポート体制を提供しています。導入後も同じ担当者が責任を持ってクリニック様に寄り添い、日々の運用を伴走しながらサポートいたします。
経験豊富かつ「顔が見える」専任営業が対応させていただくことで、安心して運用していただけます。当社の「現場力」は、多くのクリニック様に高くご評価いただいています。
電子カルテ導入に関するFAQ
Q1:オンプレミス型とクラウド型はどちらが良い?
A: オンプレミス型とクラウド型には、どちらにもメリットやデメリットが存在するため、どちらが良いかは一概にはいえません。クリニック様のニーズにあわせて選定することが大切です。
まずは、予算と導入目的を明確にしましょう。電子カルテによってどのような課題を解決したいのかを洗い出し、必要な機能を挙げて優先順位をつけます。例えば、「自院の診療スタイルにあわせてカスタマイズしたい」という場合はオンプレミス型電子カルテが、「将来的に分院も考えている」「在宅・訪問診療も行う」といった場合はクラウド型電子カルテが適しています。
このように、オンプレミス型とクラウド型にはそれぞれ特徴があるため、自院に合ったものを検討・選定しましょう。
Q2:IT導入補助金は活用できる?
A: 電子カルテは、国が推進している医療DXの一要素に含まれます。電子カルテを含めたITツールは、導入時に多額の費用を必要とするため、国や自治体が補助金や助成金などの支援を行っていることがあります。
そのひとつである「IT導入補助金」は、医療法人(従業員300人以下)も含む中小企業・小規模事業者等がITツールを導入する際に、経費の一部を補助する制度です。※4
当社製品の場合、IT導入補助金2025(通常枠)において、補助上限額は「1プロセス以上(5万円以上150万円未満)」に該当します。また、当社では医療機関様が申請される際のご案内やフォローを承っております。
Q3:オンラインデモは実施している?
A: 当社では、電子カルテのオンラインデモを実施しています。
導入前に操作感覚を理解しておきたいという方は、お気軽にお申し込みください。
電子カルテの導入は多角的なメリットが期待できる
電子カルテには多くのメリットがあり、導入すれば業務効率の改善や時間の節約につながります。カルテの作成・閲覧はもちろん、情報の共有もスムーズで、患者にとって最適な治療に集中できるようになります。デメリットもありますが、十分に対策を講じることで適切な運用が可能となります。患者満足度の向上、スタッフの働き方改革、そしてクリニックの経営改善と、多角的なメリットが期待できる電子カルテの導入をぜひ検討してみてください。
参考資料
※1 厚生労働省. 電子カルテシステム等の普及状況の推移
※2 厚生労働省. 医療情報システムを安全に管理するために(第2版) 「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」 全ての医療機関等の管理者向け読本.
※3 e-GOV法令検索. 保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年厚生省令第十五号)
※4 IT導入補助金2025. 申請枠・申請類型 通常枠.
※5 厚生労働省. 医療法施行規則の一部を改正する省令について

株式会社ユヤマ

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