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2021年6月号

  • 調剤の外部委託で何が変わるか‐ファルメディコ社長 狭間 研至氏に聞く

    情報提供元:薬事日報社

    規制改革推進会議医療・介護ワーキング・グループで議題に挙がった調剤の外部委託が波紋を呼んでいる。調剤業務を他薬局に委託するという、これまで表舞台で検討されたことがなかった新たな概念で、実現すれば薬局や医療業界が大きな構造変化を起こす可能性を秘めている。一方で、うまく活用すれば、薬剤師の対人業務の推進につながるとの見方もある。4月20日の同会議で調剤の外部委託に関する提言を行った狭間研至氏(ファルメディコ社長)に、提言の趣旨や想定される業界の変化を聞いた。

     ――そもそも調剤の外部委託という概念はどこから出てきたのか。

     私が規制改革推進会議で提案したと捉えられているが、それは違う。既に調剤の外部委託はテーマに挙がっていて、意見を求められたため、自身の考え方を会議で説明したという格好だ。提案ではなく、提言という役割になる。
    3年ほど前から、調剤薬局ビジネスの展開を考える企業等との意見交換で、調剤の外部委託は実現できないかとの声を聞くようになった。各店舗に調剤機器を導入するにはお金がかかる。投資の費用対効果を考えると、特にセントラルキッチンを活用する飲食業など他業種を参考にすれば、そういう発想になるようだ。その意見に対して私は、調剤の外部委託はダメだということが法律で決まっていると話し、理解を求めてきた。

     その後、他の方からも何度か聞くようになった。そうした中、様々な人のつながりで、規制改革推進会議で提言してもらいたいとの依頼があった。既に、会議では調剤の外部委託について討論することが予定されていた。以前のパブリックコメントに寄せられた一包化業務を外部に委託したいとの声をもとに、調剤の外部委託という話が持ち上がったようだ。

     ――依頼を受けてどう考えたのか。

     法律でダメだと言われており、私もそう説明してきたが、もし規制改革推進会議で検討するならば、単に調剤の外部委託の是非を検討するのではなく、薬剤師の対人業務を推進する一つの手段としてのあり方を整理し考える機会にするべきだと思った。また、現在の薬局や薬剤師のあり方に大きな影響を及ぼすため、注意すべき点については十二分に議論する必要があるとも考えた。
    急な話に困惑しながらも、会議の議題に挙がってしまっている以上、討論は進むし、既に土俵際まで来ているのかもしれない。議論を進めるのであれば、課題をしっかり認識すべきと考えた。

     ――調剤の外部委託とはどのようなものか。

     調剤業務を、処方箋を応需した薬局以外の薬局に委託することだ。同じ企業内の他店の薬局であるかもしれないし、発展的には異なる企業の他店である可能性もある。他店の薬局で調剤した薬が委託先の薬局に納品され、患者宅へ配達される。将来、薬局への納品にはドローンが活用される時代になるかもしれない。
    極端な話、可能性としては調剤業務を完全に他店に委託し、患者宅へ直接配達することも考えられるが、さすがにこれは行き過ぎではないかと規制改革推進会議でもお話しした。病院内の調剤業務を外部の薬局に委託することが可能だろうかと問いかける意見もある。

     ――患者の手に薬が渡るまでにタイムラグが生じるため、高齢者施設の在宅患者の調剤などに向いているように思える。

     確かにそうだ。ただ、オンライン服薬指導で対応する場合にも、後で薬を配達することになるので、外部委託を活用できる。調剤する機会が少ない医薬品や、不良在庫になると薬局の経営に大きな影響を及ぼす高額薬の調剤を外部に委託するという使い方もあるだろう。

    対人業務の充実に役立つ‐薬剤師の時間や気力を捻出
     ――調剤の外部委託が実現した場合、良い面としてはどのようなことが想定されるのか。

     調剤の外部委託は、薬剤師の対人業務を充実させることが目的だ。調剤の外部委託によって、薬剤師が患者の状態をしっかり見る時間と気力と体力を捻出できる。
    薬剤師は、薬を渡すだけで終わるのでなく、渡した後への関与を深める必要がある。患者の状況を把握し、医師にフィードバックすることで薬の適正使用が進む。これは、ポリファーマシーの改善にもつながる。

     医師は、新たに発現した症状に薬を追加することで対応するが、薬剤師は副作用による症状発現を疑うため、逆に薬が減る場合もある。医薬品医療機器等法で定められたように薬剤師が服用後もフォローして医師と協働し、薬物治療に参画することは、医師の働き方改革にもつながる。

     6年制教育を受けた薬剤師は、専門性を生かして患者に貢献できる。患者にも薬剤師にも日本の医療にとっても意味があることだと思う。

     ――注意すべきことは何か。

     一部の企業が過大に利益を得る可能性がある。制度を作る時には、チェリーピッキングを避けなければいけないと聞いた。ともすれば、食べやすいところだけを取っていく者が出てくる。保険医療という社会保障事業にそぐわないので、避けなければならない。

     対物業務の報酬が現状のままであれば、スケールメリットが効く調剤業務の外部委託は過大な利益を生む可能性が高いし、対人業務に従事する薬局の採算性が危うくなる。集約化が可能な対物業務のコストは見直し、患者と接する対人業務を十分に評価するような調剤報酬の抜本的で一体的な改革が必要だ。

     薬剤師のライセンスは一つだが、患者を担当する薬剤師と、調剤を担当する薬剤師という二つの職種になってしまうという懸念もある。薬剤師法1条にあるように、国民の健康な生活を確保する目的を達成するために、比率は違えども対物・対人の双方の業務に薬剤師が従事する仕組み作りが必要だと考える。

     寡占化が進むと、せっかくここまで時間とお金をかけて育ててきた18万人の薬局薬剤師、6万軒の薬局という医療インフラ、社会資源がつぶれてしまう懸念がある。町に1軒しかない薬局がなくなってしまうなどのことがあってはならない。
    薬剤師の対人業務を生かせる拠点として薬局がちゃんと機能する枠組みを作らないといけない。それが達成されず、単に効率化するだけでは本末転倒になってしまう。

     対物業務が減った薬局、対人業務がほとんどない薬局など違いが生じることを考えると、薬剤師1人当たり1日40枚という処方箋応需枚数の制限のあり方も検討しなければならない。

     当社は、薬剤師と薬局パートナーが連携して業務を行っているが、その際、各患者の分包の方法などを具体的に記した指示書を薬剤師が作成し薬局パートナーに示している。調剤の外部委託時には、個別具体的な指示書や患者に関する情報共有基盤を構築し、連携を深める必要があるだろう。

    地域に受け皿薬局誕生か
     ――大規模チェーン薬局やパパママ薬局はどう動くと見込まれるのか。

     大規模チェーン薬局は、自社の調剤業務効率化に向かうだろう。当社で以前に実施したシミュレーションでは、調剤業務を一つの店舗に集中させても、他店への輸送費が高すぎてそれほど利益は生まれなかった。

     しかし、昨今の飲食業で見られるような外注化や、ドローンや自走式車両の発達によって輸送費の問題が解決すれば、効率化を拒む理由はなくなるだろう。

     企業間での外部委託が認められた場合、地域の中で受け皿となる薬局が出てくるかもしれない。地域の薬局が共同で外部委託の薬局を立ち上げ、利用する動きもあるだろうし、医薬品卸が薬局を開設して事業を展開することもあり得る。

     いわゆる中小のパパママ薬局にとっては、一包化業務を外注できれば、機械化できない、在宅に行けないといった環境が改善され、対人業務に専念できるようになる。在庫リスクを減らしたり、高額薬の調剤を委託できるようになれば、薬局の経営は安定化する可能性がある。多少言い過ぎかもしれないが、このような取り組みをしなければ、パパママ薬局が明るい展望を持つことは難しくなるのではないか。

     ――周囲の反応は。

     あくまでも要請を受けて提言したのだが、私が爆弾を仕掛けたと受け止められたようだ。周囲からも1対9の割合で、否定的な意見が多かった。抜本的な変化を嫌うのは人間の本質だと思う。

     私は、変化を嫌う人にいつも、「それなら今ハッピーなんですか」と問いかけるが、ハッピーでないなら変化した方がいい。そうしないとゆでガエル化してしまう。

     多くの薬剤師が、対物業務の気楽さに慣れてしまって、労力も気も遣う対人業務を避けがちだが、そこには薬剤師としての醍醐味や面白さがある。在宅医療で患者や家族との深い関わりを体験すると見方は変わる。

     子供にスマホを持たせるのと同じで、得られるものもあれば失うものもある。そこをどう乗り切っていくのか。それを支えるのは専門性と倫理観だと思う。様々な可能性を想定しておかなければならない。薬剤師の存在は、良い医療を行う上で重要な要素と考えている。その向こうには患者が喜ぶ姿がある。そのような仕組みを広げたい。

  • 薬剤師需給で調査結果‐「余剰」時代へ急がれる対応 厚生労働省

    情報提供元:薬事日報社

    厚生労働省は、2020年から45年までにおける薬剤師の需給推計に関する調査結果を公表した。薬剤師の需要は20年の32万人から45年には変動要因を考慮した場合に最大で40.8万人とした一方、供給は20年の32.5万人から45.8万人にまで増加すると推計した。この結果から「当面は需要と供給は同程度で推移することになるが、将来的には業務の充実により需要が増えると仮定したとしても、供給数が上回ることが予想される」と結論づけた。

    45年の需要は最大40.8万人‐供給数が需要上回る
     需給予測の推計期間は20〜45年で、推計した数値は仮定条件をおいて試算したものであり、条件によって試算は変わり得るものとしている。

     薬局に従事する薬剤師数については、処方箋に関する業務が業務時間の大半を占めるため、薬局で応需する処方箋枚数の推計に基づき必要な薬剤師数を試算した。
     試算方法は、▽今後の人口推移、高齢化の状況から、投薬対象者数の推移を試算▽医薬分業の進展状況(処方箋受取率の推移)を推計し、薬局で応需する処方箋枚数を試算▽処方箋当たりの業務量が今後も一定と試算する機械的推計、今後の業務変化の変動要因を考慮した推計――を前提としている。

     都道府県別のデータを試算し、集計した全国総数の推計、各都道府県の二次医療圏別の推計をそれぞれ求めた。

     投薬対象者数について、総人口の推移や65歳以上の高齢化の割合を踏まえ推計したところ、20年から45年の変化は、11.3億人から10.9億人に減少。処方箋枚数は投薬対象者数をもとに、今後の処方箋受取率から薬局で応需する処方箋枚数を推計した。

     処方箋受取率の伸びは都道府県別に試算し、処方箋受取率の上限を85%と仮定した。20年は8.6億枚であり、その後10年間は増加するが、35年の9.5億枚をピークにほぼ一定を推移し、45年には9.3億枚と推計した。

     これらの結果から、処方箋受取率の上限を85%と仮定した場合に、現在の処方箋1枚当たりに必要な業務量は一定と考えて機械的に薬局に従事する薬剤師数を推計したところ、20年は19万人であり、その後10年間は増加。30年の21.1万人をピークにほぼ一定となり、45年には20.6万人が必要となると試算した。

     今後の薬局の業務が変動する場合については、現在の業務量と比較した仮定条件として、外来業務は25年までに1.1倍、その後45年までに0.9〜1.1倍(0.9となる場合は業務が効率化されたと仮定)、在宅業務は45年までに2倍、その他の業務(健康サポート機能、その他)は、健康サポート機能に関する業務は1.5倍、その他業務は一定として推計した。

     一方、病院に従事する薬剤師数の需要推計については、業務の大半を占める病床数、外来患者のうち院内処方数の推移をもとに、必要な薬剤師数を試算。病床数に関しては、地域医療構想における25年度見込みの病床数(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)をもとにしている。
    現在の病床当たり、院内処方に必要な業務量は一定と考えて機械的に推計した結果、20年は5.3万人であり、機械的な推計では45年には4.7万人が必要となると試算した。

     病院薬剤師の業務が変動する場合の推計としては、高度急性期病床の業務が45年までに1.3倍、急性期病床が25年までに1.2倍、45年までに1.2〜1.5倍、回復期病床、慢性期病床について45年までにそれぞれ1.1倍になると仮定している。

     薬剤師の需要は、20年の32万人から、45年には機械的な推計であれば33.2万人であるが、変動要因を考慮すると、薬剤師の需要は増加し40.8万人程度と考えられるとした。

     薬局・医療機関の薬剤師需要は機械的推計では24.9万人から25.9万人、変動要因を考慮すると33.5万人と試算した。

     また、医薬品製造販売業・製造業、医薬品販売業に従事する医薬品関係企業は、45年まで同程度の4.1万人で推移するとした。

     大学の勤務者は大学数や研究室数、大学院生・研究生は進学率により変動する。全体の傾向から45年までに1割増と仮定して推計。今後、進学する大学院生が維持できないと、大学の勤務者となる薬剤師が少なくなる可能性が生じ得る。

     教授等の教員は薬剤師以外でも可能であるため、教員確保は6年制、4年制の大学院進学者も踏まえ総合的に考える課題とした。

     衛生行政機関・保健衛生施設に従事する薬剤師数は、近年の増加傾向を踏まえ同程度で増加すると仮定し、6735人から7660人とした。

     介護保健施設に従事する薬剤師数は、今後の介護ニーズを踏まえ、45年までに2倍になると仮定して推計し、894人から1664人としたほか、その他の業務の従事者は6517人、無職の者は1万0339人であり、今後も一定数で推移すると仮定した。

     一方、薬剤師の供給推計では、現在の薬剤師数の将来推計、今後新たに薬剤師となる人数の推計をもとに試算した。20年の32.5万人から、45年には45.8万人へ推移すると推計された。

     今後の人口減少社会において、仮に入学者の減少等により国家試験合格者も一定割合減少すると仮定した場合には、供給薬剤師の減少を考慮した推移は20年の32.5万人から45年には43.2万人へ推移するとした。

     これら結果を踏まえ、需要は、院外処方箋の発行の伸びや高齢化の進展により、おおむね今後10年間は増加するが、それ以降は人口減少の影響を受けると分析。供給は、薬剤師の養成人数が変わらなければ、毎年一定数増加するとした。

     需給予測としては、今後の業務変化も大きく影響を与える要因となり、業務の充実と効率化の両方の要因があり得ると指摘。変動要因を考慮すると、当面は需要と供給は同程度で推移するが、将来的には業務の充実により需要が増えると仮定したとしても、供給数が上回ることが予想されると結論づけた。

    需要、既存業務効率化が必須‐供給、地域間の就業動向に懸念
     今後の需要・供給に関する論点は以下の通り。

     【需要】

     ・薬剤師の業務は「患者のための薬局ビジョン」に基づき、対人業務の充実、在宅医療の取り組み等が求められていること。

     ・チーム医療の推進により、病棟の薬剤業務の充実が求められていること。また、タスクシフト・タスクシェアにおいては、薬剤師には以下の取り組みを推進することとされていること。さらに、病棟業務以外として、患者の入退院時における薬局等の関係機関との連携に関わる業務にも今後は関与していく必要があること。

     ・対人業務の充実を含む、今後の将来需要に対応するためには、需要の増加に対して単に薬剤師数が必要とするのではなく、既存の業務の効率化(対物業務の効率化等)を考えるべきであること。

    特に薬剤の調製業務に関しては、調剤機器の導入や薬剤師以外の職員による対応等を考えることが必要であること。合わせて、医療安全を確保しながらこのような業務を行うために必要な管理体制等の検討が必要であること。

     ・患者の服薬状況等の確認や患者に対する服薬指導、医療・介護関係者との連携等の様々な業務については、ICTの活用等により、医療の質を維持しつつ、効率的に提供することを検討する必要があること。今後の電子処方箋やオンライン服薬指導等の取り組みも踏まえると、薬剤師業務の考え方も変えていく必要があること。

     ・特に薬局は、処方箋に関連する対応だけでなく、OTCの販売や健康相談の対応など健康サポート業務への関わり方、新型コロナウイルス感染症対応を含む感染症にかかる対応など公衆衛生への対応も求められるものであること。

     ・薬剤師の業務が今の状態と変化がなく、調剤業務に特化し続ける状況であれば、機械的推計のような予測となり、さらには対物業務の効率化により、地域の薬剤師ニーズは減少することも考えられること。

     ・薬剤師の従事先は、薬局・医療機関以外の施設も一定割合存在するが、今後も従事先として必要であり、一定の増加が見込まれること

     【供給】

     ・今後、一定期間は需要が増加することが見込まれるが、その後の薬剤師の業務量が様々変化したとしても、人口減少社会においては需要の伸びが減少する傾向は変わらない中で、今後も今と同程度の新たな薬剤師が毎年出てくること。

     ・薬剤師の養成数を考える際には、入学者が卒業するのは6年後であり、その間は一定数の学生が養成され続けること。

     ・今後は大学進学者数が減少すると予想されている中、薬学部・薬科大学の今の入学定員を維持した場合、現在でも入学定員を満たさない大学が多く存在する状況で、将来的に定員を充足する学生数を確保できるのか。また、学生の確保に当たり国家試験に6年間で合格できる一定のレベルの学生の質が担保できるのか。

     ・今後の薬剤師需要は、人口減少や高齢化等の状況により、地域間(都道府県、二次医療圏)で大きく異なることが予想される。供給推計は、今後の薬剤師の就業動向により変化するものであり、今後の人口減少社会において新卒薬剤師を含む薬剤師の確保が課題となることから、地域の医薬品提供体制が維持できるための薬剤師確保の取り組みも考える必要があること。

     また、様々な規模の薬局がある状況を踏まえると、へき地等を含む地域の医薬品提供体制は個々の薬局だけではなく、地域の薬局・医療機関等が連携して検討していくことが必要であること。