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視点を持って業界を読み解く。調剤Scope

ドラッグストアのM&A
成功の裏には理由がある。

今回はドラッグストア業界でのM&A仲介を数多く手掛けられてきたインターリンク(株)代表取締役の菅原氏にM&A仲介者として経験した事例も踏まえ、その実行上のポイント等についてまとめていただいた(ユヤマ 森)。

目的の明確化

~立ち戻る原点を確保しておく

ドラッグストア業界は過去20年に亘り、M&Aによる再編成が進んできた業界だ。そして、その最大の要因・目的は、まとめれば「スケールメリットの追求による企業競争力の強化」となると考えられる。 ただ実際のM&A案件には、各々特有の事情と具体的な目的があったはず。個々の企業が何故M&Aを検討するのか、目的は何かについて明確に認識しその検討をスタートすることこそが実りある結果(それがM&Aの実行を取りやめることであっても)につながる最も重要な点である。 何を今さらと言われるかも知れないが、当事者として検討・交渉の渦中にあるときには、ともすればM&Aをすること自体が目的化してしまったり、核心的な議論から離れて交渉が隘路にはまることはよくあることなのだ。 立ち戻る原点を十分に確認しておくことの重要性は私どもが最初にお伝えすることである。

時機を掴む

~焦らず逃さず、心眼で俯瞰する

M&Aには、その適切な時機というものがあるように感じられる。次のケースは、その時機を的確に掴み大手企業の系列に属することで更なる成長を遂げたX社の例だ。 某県で地元チェーンとしてトップシェアを争う成長期にあったX社の社長は、単独での銀行借入に依存した資金調達だけでは、他県から進出してくる大手への対抗上、将来的に限界が訪れると考えていた。また御子息も若く、同族承継を前提にするならば相当の歳月が必要であり、その段階で同県に未進出であった別の大手ドラッグストアへの株式譲渡を決断された。結果的に出店やシステム投資等への資金調達の不安から解放され(個人資産の担保や債務保証も解消)、他社に先駆けての出店攻勢で同県のトップ企業となり競争優位を勝ち取った。その後、隣県でM&Aも行い、地盤拡大を継続している。 同社の永続的な成長の為に同族承継に固執せず判断された、社長のタイミングを掴む感覚に経営者の底深い力を感じた。

最適な相手を見つける

~想いも含めて共有できる相手なのか

M&Aの相手企業を探すことは非常に難しいプロセスだ。経営理念が共感できて相互に理解し合える相手を見つけることが理想だが、極秘裏にそのような相手を探すことは至難でもある。 Y社の社長は40歳代の2代目経営者。会長である先代から継承した企業を、更に発展させ地域で支持されるドラッグストアとして拡大すべく日々奮闘しておられた。しかし、店舗が非常に競合の厳しいエリアにあり、将来を見通した場合に単独での事業展開では生き残りが難しいのではないかとの想いもお持ちだった。 私たちは、誰が良い相手なのか何度も協議を行った。「この会社は自分の会社ではありません。誰よりも先代が苦労して築いてきた企業です。経営者として、息子として父親の苦労に報いるM&Aにしたい。」と社長は繰り返された。 結果として、この会社を引受けたのは、ドラッグストア草創期からY社とライバルでもあり切磋琢磨してきたZ社(事前検討で最有力とした候補企業)であった。そしてZ社の社長は、Y社の社長の創業者への想いも含め共感され、Y社の子会社化と同時に社長を親会社の役員としても迎え入れた。

成功するM&Aの為に

~相反する両者間のベクトルの取り方

ドラッグストアの多くはオーナー経営だ。M&Aの交渉は譲渡企業のオーナーと譲受ける企業の間で行われることになる。一般的に利害が相反する両者の間でM&Aを成功させる為に重要なことは何か。 概念的な言い方だが「譲渡企業をどうすれば良い会社にできるか」という一点に両者が真摯に向き合うことだと思われる。この点については両者のベクトルは必ず一致するはず。そして、そこが共有できれば諸々の条件は自ずと良い着地点を見いだせるものだといえる。

最後に、経営者の厳粛な決断を伴う全てのM&Aが成功することを願っております。

(文責:2012年9月 菅原 秀樹 インターリンク ㈱代表取締役)